世間に転がる意味不明:問題の所在をあやふやにしている大阪万博(政策評価という視点の欠落)
注:大阪万博を否定しているのではなく、そこに潜む危うさを焦点にしている。これは大阪万博だけの問題ではない。
■ はじめに
ISO9001:2015という規格がある。品質マネジメントシステムに関する国際規格である。そこに書かれている内容は、マネジメントという枠組みでの普遍的なポリシーなども含まれている。その中では、「PDCA」という考え方や「リスクに基づく」という考え方が重視されていることを示す文言が含まれている。
私自身は大学で都市計画に関連する学問に触れ、その中では「駅前再開発」などの政策決定などを議論することがあった。こうした、空間的に広いものを扱う政策では利害関係者が多くなり、いったん動き始めると軌道修正が難しい。したがって、あらかじめリスクの洗い出しや、政策評価の枠組みをあらかじめ決定することが望まれる。
しかし、政府あるいは自治体の行なう事業で、こうした「PDCA」や「リスク」がないがしろにされている例を見る。現在進行形で言えば「大阪万博」であろうか。
旬の話題でもあるので、これを取り上げる。
■ 無視される「PDCA」と「リスク」
(1)来場者
PDCAが誤解されるのは、「計画を立てれば良い」分けではなく、「達成水準をあらかじめ決めて」、「それを実現するための戦略・戦術」を構築し、そのためのToDoを「計画する」事である。
始めてから「成功」の水準を決め手はならないと言うのが原則になる。
2025/06/16現在、万博の報道は「入場者」は多いと言う話題である。確かに毎日10万人以上来訪していることは、大阪万博の人気を図るバロメーターにはなるだろう。しかし、この人数の推移では、万博協会が当初発言していた、入場料金で運営費を賄うという目標には届かず、赤字はほぼ確定であろう。しかし今になって、あれは目標ではないと発言していると訊く。今の入場者数や、また「並ばない万博」というお題目が有名無実化していることへの批判は聞かない。
(2)想定外の自体などない
最近話題になっているので、下記の記事は目新しくも無いだろう。
○ レジオネラ属菌検出で万博水上ショー中止 現場のウォータープラザはユスリカも大量発生
2025/6/5
大阪・関西万博を運営する日本国際博覧会協会は4日夜、噴水を使った水上ショーが行われている会場南側の「ウォータープラザ」の海水から指針値以上のレジオネラ属菌が同日午後6時ごろ検出されたため、夜のショーを中止したと発表した。5、6日も昼と夜のショーを中止する。
https://www.sankei.com/article/20250605-H7QQWQB5DZONRPURSXA2BSTLIY/
○ 「水あればユスリカ」…万博で大量発生が話題のユスリカ、琵琶湖の水質改善に役立つ一面から「びわこ虫」とも
2025/06/02
ユスリカは蚊に似た昆虫だが、人の血を吸うことはない。国内で約2000種、琵琶湖では172種確認されている。卵は水に産み付けられ、幼虫は藻類など有機物を食べて成長。成虫は餌はとらず、交尾をして数日で一生を終える。
大屋根リングの周辺に集まったユスリカ(5月23日、大阪市此花区で)
万博協会によると、会場では5月14日頃から大量に確認されるようになった。淡水と海水が混じり合う水域にいる「シオユスリカ」で、夕方以降、会場南側の大屋根リング上や、噴水ショーが行われる「ウォータープラザ」周辺でよく飛んでいるという。
https://www.yomiuri.co.jp/science/20250601-OYT1T50116/
後日談なども少しづつでているが、問題は、「表面化してから対応を考える姿勢である。
いずれも予見できる話であろう。水質問題は、近場に水を貯水する時点で常に発生する問題であろうし、ユスリカなども前例がないわけでもなかろう。要は想定していないということで、リスク管理ができていないの一語に尽きる。
この春にはETCのシステムがダウンして大騒ぎになった。これも「想定していない」事に呆れるばかりである。
BCPは常に考えるべきであり、これを怠れば想定外の費用が発生する。
大阪万博などは、最初はお金はかからないと言っておきながら、締めてみれば数倍に膨れ上がりそうであり、都合の良い様に行政側は、こうした後から発生した費用は別計上にしそうである。振り返りなどはできないだろう。
(3)労働安全と未払い問題
政策評価という意味では、「正しさ」も重要な評価であると考える。
特にこのような期限が決まっているイベントでは無理が生じるので十分な配慮が必要であろう。かつての東京オリンピックや大阪万博では、突貫工事のために労働事故が起き、死者まで出している。
今回の大阪万博でも、いわゆる2024年問題で採り上げられる労働規制を緩和せよという声が上がり、これは現場の人の命を軽視するものであり批判されたはずである。
○万博のためならルールも破る? 時間外労働の上限があるとパビリオン間に合わず 再来年開催なのに、現地は今
2023年8月3日
「大阪万博、残業上限の『例外』要請」「万博工事に『残業規制を適用しないで』」
先月27日、日本国際博覧会協会(万博協会)が、24年4月から始まる建設業界への時間外労働の上限規制を万博工事に適用しないよう政府に内々で要請したと、メディアが報じた。しかしながら、働き方改革に逆行するアイデアのため、メディアやネット上では批判の声が噴出した。
そのせいか、万博協会は「火消し」に躍起だ。2日、「こちら特報部」の取材に対し、「(残業上限の例外を)要請した事実はない」と答えた。一方で「さまざまな課題を洗い直す中で話には上がった」という。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/267433
これに加え、工事代金の未払い問題が表面化している。
○【速報】マルタ館・中国館でも…未払いの訴え 大阪・関西万博のパビリオン工事めぐり「被害者の会」が再び記者会見
6/13(金)
会見によると、アンゴラだけでなくマルタや中国パビリオンで未払いがあるといい、未払いによって、目の前の生活が追い込まれている人が150人近くいるということで、まずはいち早く、お金にかかる支援を求めています。
中国のパビリオンにかかわった業者は、今日の会見で「3月時点で、府知事あてに『未払いが発生して大変』と相談したが、その後何の進展もないと言っていい状況、もうすこし早く大ごとになっていれば」と話しました。
未払い問題について、博覧会協会の石毛事務総長は「当事者同士の問題であり、私たちができるのは第三者機関や行政の窓口の紹介だ」としています。
会見ではこうした対応についても言及があり、「協会からメールで紛争審査会や国の相談センターの案内、『WEBで面談できますがどうしますか』という案内文が届いただけ」などと、支援が足りていないと訴えていました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/9b7d57c81dd71af0a3eea4f8c1546b4d3bc6b445
こうした事の他人事観は政策評価という視点では問題なのだが、そもそもこうした問題を発生させたのは万博を計画した側のマネジメント不足ではないかと疑われる。
○「不眠不休」で万博マルタ館建設も費用未払い 提訴の1次下請けが元請けに告げられた理由
2025/6/14
「戦場と化した現場だった」
男性はこう語り、「本当に24時間、不眠不休で、睡眠も食事もまともにとれない過酷な状況で働いた」と訴えた。工事終盤は自宅に帰れず、風呂にも入らず、現場に泊まり込んで作業したという。
https://www.sankei.com/article/20250614-ZEJ7HC2Q3ZJNTMHUIBQFSMVJO4/
現場に様々なモノを押しつけて、「万博は成功だった」と発言する人たちの厚顔無恥には呆れる。
■ 政策評価についての整理
政策評価が難しいのは、おそらくは50年前から変っていないだろう。当時も、政策評価の数値化は論文のテーマになっており、コンピューターを駆使して客観的票ができないかと四苦八苦していた。
基本的に政策評価は下記の基準で考えることが求められている。
・Relevance(適合性):政策が本当に「やるべきこと」をやっているか
・Coherence(整合性):他の政策との総合的なつながり
・Effectiveness(有効性):目標が達成されているか
・Efficiency(効率性):資源がどれだけ有効に使われたか(費用対効果)
・Impact(インパクト):社会・経済・環境面に与える効果
・Sustainability(持続可能性):効果がどれだけ持続するか
数値化できるかどうかはともかく
事前に目指した成果/実際に達成できた成果
が基本にあり、結果を都合の良い様に解釈する事は避けるべきである。
大阪万博に関して批判的な目で見るのは、来場者数を指標とするなら、あらかじめ指標(例えばパビリオン別の入場者目標、リピート数を除いた入場者数など)を決めておく必要がある。そうしないと「10万人を越える日が圧から成功」と後付の評価になる。
政策評価については法律で求められていることを知っているだろうか。
○行政機関が行う政策の評価に関する法律
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/hyouka/houritu.htm
この中では、
◇基本方針の策定(政府レベル):
「政策の効果はできる限り定量的に」「学識経験者の知見を活用」などの原則を定める◇省庁・行政機関は3~5年ごとの基本計画を策定し、
・事前評価 → 決定前に効果を予測
・事後評価 → 実施後に効果を検証
・知見活用・評価結果の反映・情報公開も義務付けられる
◇予算編成や他省庁にまたがる政策の立案時には評価結果を活用するよう努める
◇政策決定と予算配分に連動させる
などが記載されている。
事前評価、事後評価が必要になる。
はたして、大阪万博ではどうなのか。
Google検索で「大阪万博 政策評価法」で検索しても、報告書は検索できない。AIでは以下のように回答される。
大阪・関西万博の政策評価法に関する情報は見つかりません。
万博の準備状況と課題:
・建設スケジュールの遅延:
海外パビリオンの建設が予定通りに進んでいない状況です。
・資材不足と人手不足:
コロナ禍の影響で、資材や労働力が不足していることが課題となっています。
・参加辞退:
複数の国が参加を辞退しており、ロシアの不参加は国際的な緊張の高まりを象徴していると展示会営業マーケティング says.
・会場内での問題:
メタンガス検知や通信障害など、会場内で問題が発生しています.万博の評価:
・来場者の満足度:
PR TIMESによると、来場者の約半数が「とても満足した」と回答し、「ある程度満足した」と合わせると約86%という高い満足度を示しています.
・開催前の不安:
開幕前や直後には、準備の遅れや会場設備への不安など、否定的な声も一部見られました.
(ここまで)
こうした情報は、課題などがあらかじめ想定している姿勢が見られることを示し、それ自体は評価できるだろう。しかしここで求めているのは、あらかじめ何を想定し、計画し、成功したかどうかの基準を事前に合意しておくことである。
その中に、水質問題、熱中症問題、食中毒問題など開催時に露見することもある。工事の労働安全の軽視、未払い問題での開催できないパビリオンの発生など、都合の悪い事象を意図的に無視する姿勢も評価できない。
■終わりに
オリンピックや万博など大きなイベントは、娯楽の一環としては否定するものではない。しかし、最先端技術や世界を知るという意味では、すでに高度な通信技術の発展と普及、AI検索の常態化されているなかでの目新しさはない。
もちろんイベントして開催することの意味はある。
しかしビジネスと言うことで社会を見ている人間からすれば異様だ。
『企業にとっては、IT投資も他の投資も変ることはない。つまり、投資は利益を生み出さなければならない。それができないなら、企業は最終的には倒産してしまうだろう。このようにIT投資だけを対象に一般の投資と異なった徳辺つんマネジメントを必要とするわけではないが、IT投資は多くの企業で最大の金額を占める投資項目である事実には留意すべきである。』
もし、採算度外視というなら、「最初に言っておいて欲しい」
やってしまってから「採算は目標はない」というのは“詐欺”である。
■おまけ
公共事業あるいはこれに準じる活動は利害関係者も多く、その関係性も複雑になる。
だからといって、誠実さに欠ける態度をとっても「しかたない」と済ませるのは無責任である。
○ 【訴え】「“民民”の問題として救済もしない」“国家プロジェクト”万博で相次ぐ工事費の未払い 150人近くが生活に追い込まれる中、外資系の元請け業者が主張する驚きの言い分
2025年6月20日
「過去の万博では、こういう問題が起きたとき、国が支払いを補償する場合がありました。日本も、こういう問題に巻き込まれたときには、まず国が代わりに払う制度を用意しておかなければいけなかったはずですが、それを保険で賄おうとしたところ、非常にテクニカルな問題になりました。また、その保険に加入するのは業者ですから、そういう仕組みがあることを事前に聞いておらず、保険に入っていない人たちがいる可能性もあります。下請けを守る仕組みが不十分だったことについて、国や万博協会は“自分たちは関係ありません”と及び腰になっていますが、そこは第三者弁済として代わりに払って、自分たちが相手側に取り立てることを考えなければいけないタイミングだと思います」
https://news.ntv.co.jp/n/ytv/category/economy/yt8c4aa0a241de4999b70d9a7a56789eb9
さて、いったい国は何を優先して、何を犠牲にしたのだろうか。再考する機会にして欲しい。
2025/06/22