未来への手がかり:分身としてのロボット、拡張される〈働く〉という行為


未来への手がかり:分身としてのロボット、拡張される〈働く〉という行為

■ 難病ワーカーと言う言葉

不勉強で申し訳ないが、障害者雇用は法律で一定の雇用がある事を知っていた。しかし難病については、内面的な疾患(たとえば自己免疫疾患(SLEやクローン病)、血液疾患(白血病、再生不良性貧血)、呼吸器や循環器、皮膚、視覚・聴覚といった外見からは見えづらいが内的な不安定性を持つ病気)である事が多く、表面化しにくいと言うことから就労支援については目立った情報を持っていなかった・

その中で、下記の記事で「難病ワーカー」という言葉を知った。

○「難病ワーカー」増加中 就労率7割、テレワーク活用
2025年7月3日

治療方法が解明されていない病を抱えながら働く「難病ワーカー」が増えている。行政による就労支援などが広がっているためで、独立行政法人の調査では就労率は7割近い。テレワークなど柔軟な働き方ができれば活躍できる人はさらに多いとみられ、当事者からは「過剰なケアはいらない。できることはまかせて」との声も上がる。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD239ZC0T20C25A6000000/

しっかりした裏付けがあるわけではないが、厚生労働省の資料を基にした「難病患者の就労・雇用状況からの就労支援の考察」(https://www.nivr.jeed.go.jp/vr/news/h3iskd0000001ktl-att/r13-12.pdf)などから、2018年頃は、難病患者91万人に対して就業者数49万人(54%)であり、それが向上していることがうかがえる。

今後、AIやロボティクスの発展で、彼らの働き方にどのような状況の変化が起きえるのかを探ってみたい。

■ ロボティクスへの期待

AIとロボティクスの技術の進化は急激であり、人間の作業の代替(特に、危険、汚い、きつい(あるいは退屈)などの作業の代替)としてのロボティクス、さらにヒューマノイドの研究・開発が進んでいる。

一方で、「分身」ロボットの様な研究・開発も進んでいる。

○心のモビリティを目指して
見た目はロボットですが、人工知能で自動で動くAIロボットではありません。
その場にいない人がリアルタイムに見渡せて、会話でき、
首や手を動かす事ができる、いわば”乗り物”です。
https://orihime.orylab.com/

自律型のロボットではなく、ヒトとヒトとのインターフェースとしてのロボットである。
・人間は人型に近い形の方が「意図」「行動予測」「感情の読み取り」がしやすい。
・顔、腕、視線、姿勢などが社会的手がかり(social cue)として働く。
という、ヒトが心理的・対話的な合理性を求めることが補完されることを意味している。

先のorihimeでの事例でも
・羽田空港でのカフェ勤務(難病患者がOriHime-Dを遠隔操作し、接客する)
・分身ロボカフェ「DAWN」:難病ALSや重度障害者がバリスタとして就労
などもあると聞く。

こうした乗り物としてのロボット言う発想を拡張すれば

・ホテルでの業務
ホテルでのドアボーイ、フロント、荷物の搬送などもヒューマノイドで行なう。しかし、接客としての対応は、こうした分身型でのインタフェースでお客様に安心感を与える。
・秘書業務
分新型ロボットを手元に置き、対話しながら、出張手配(ホテルやチケットの手配)、あるいは会議のセッティングなどを行なうなども可能であろう。ヒトであるからこその柔軟性を期待できる。

といった場所を選ばないと言う働き方を支援することができる。

■ 難病ワーカーと社会参加の新しいかたち

分新型ロボットには、機械的なヒューマノイドと異なり
・表情・声・間(ま)などの非言語的情報が含まれる
・その場で相手に「委ねられる」感覚(信頼の基礎)
という安心感、すなわち「自分が見守られている・理解されている」という感情的な支えを創り出すことができる。

こうした働き方の活躍できる場としては、接客・サービス、教育・研修だけでなく、事務(法務、会計、財務)などの専門領域、研究・分析などの知的活動支援なども想定できる。長時間稼働ができない場合、「仕事を短時間で区切る」ことが可能な職種も利用可能になる。

そうした分野において、ヒトとしての経験と高い知識を持つ人材は、職場に出向いての働くことのハンディキャップが制約条件になる人たちにチャンスが生まれることになる。当然、子供のいる女性や介護が必要なヒトを抱える人々にもチャンスが生まれる。

もちろん、働く人々に「能力」を求めることにはなるが、距離な制約・時間的な制約が解消されると言うことは、生産活動に従事できるヒトを増やすことができる。Input(働く人々の多様性による就業者数の拡大)は、総量としてのOutputを増やすことができる。社会全体での生産量の拡大につながるだろう。

しかし、そのためには、企業(あるいは社会全体)で就業システム(あるいは生産活動プロセス)の再構築をしなければならない。「働けない人に仕事を作る」のではなく、「働くという行為そのものを拡張( たとえば「意思の表明」「参加の形」「時間的断続性」への要素への配慮)」して考えて欲しい。

「難病ワーカー」とか「障害者雇用」といった差別的な言葉がなくなることが望ましい。そのために「AI+ロボティクス+コミュニケーション」(人がいて/技術がいて/社会との接点がある)という技術が脚光を浴びるようになることを願う。

2025/07/10