本棚を歩く:「最高の結果を出すKPIマネジメント」

本棚を歩く:「最高の結果を出すKPIマネジメント」
中尾隆一郎 2018年

■印象として

著者は、リクルートで実務にかかわる傍ら、KPIの研修などを担う立場の人のようであり、この書籍の内容も実践的であり、参考になる。もっとも、具体的なKPIは参考にはなるが、そもそも企業の置かれている立場は異なり、戦略も異なるだろう。そうした中で示されるKPIの例は、そのままでは仕えない。

それでも、従来の勘違いをただしてくれるこの書は有益である。
その中で、はっとさせられるのは「KPIマネジメントとIndicateマネジメントは違う」と言うことだろうか。

KPIとは何かと言うことよりも「KPIマネジメント」とは何かが記載されていることを理解すると、折に触れて参照したくなる本である。ただし、KPIマネジメントは万能ではない。
KPIマネジメントに取り組むプロセス自体が万能のツールであると言える。アンチョコにはならないが本棚に置いておきたい。

■KPIマネジメントの特質

経営という視点で見れば、「我々は何をすべきか」という企業理念と「我々はどこに向かうのか」という、経営理念、ミッション・ビジョン・バリューがあり、その延長線上で戦略が展開される。戦略の実現は、結局のところ「経営資源の再生産と極大化」であり、ゴーイングコンサーンである。従って、その原資である「利益獲得」が制約条件であり、多くの活動が個々につながる。

そうした意味では「はじめに」記載される
①現在の事業の都っての最重要プロセスを明確にし(=CSF)
②それをどの程度実行すると(=KPI)
③事業計画が達成できるのか(=KGI)
は、当然であるが、この視点が忘れられることがある。

●KPIマネジメントでは最重要な数字に焦点を絞ることであり、いろいろな数値を管理することではない。数値マネジメント(Indicator Mnagement)と混同しないこと。

は重要な視点であろう。
KGI、CSF、KPIへの役割の違いなどを下記の様に指摘している。

①KGI(Key Goal Indicator)
最終的な目標数値。
利益や売上、ユーザー数など。
理念や状態ではなく、具体的な数値でなければならない。さもなければ達成できたかどうかが判定できない。
②CSF(Critical Success Factor)
最重要プロセス。事業成功のポイント。
きちんと実行していれば、結果としてゴールにたどり着けるプロセス。
現場がコントロールできることが必要。
③KPI(Key Performance Indicator
最重要プロセスの目標数値。事業成功の鍵なので「一つ」である。
KPIは、KGIの先行指標であり、CSFの数値目標である。
KPIとは、「事業成功」の「鍵」を「数値目標」で表したもの。

■KPIマネジメントの要諦

KPIマネジメントは下記の流れで実施される。

① KGIの確認
② ギャップの確認
③ プロセスの確認
④ 絞り込み
⑤ 目標設定
⑥ 運用性の確認
⑦ 対策の事前検討
⑧ コンセンサス
⑨ 運用
⑩ 継続的に改善

注意点は下記の通りである。

・現場で管理できない事象(書籍の中ではGDPが挙げられている)はCSFとは関係ない。
・時間軸を明確にすること、その際下記に留意すること
あらかじめ決めておくべき事
①いつ(時期、スパン)
②KPIがどれくらい悪くなったら(程度、基準)
③どうするのか(対応施策の選択肢)
④最終判断者(決裁者)は誰か
・改善を行なうサイクルをまわすこと
①よく考えて
②素早く絞り込んで
③徹底的に実行して
④きちんと振り返る
・「振り返り」は「犯人捜しではない」
・プロセスの確認においては数字で表現できるモデルを言語化すること
例えば 売上=営業活動量×受注率×平均単価 であり、このうちのどれを管理(コントロール)できるかを合意すること

■ 書評

「会社は従業員の物心両面の幸福を追求する」というのは、企業経営をする上での指針であり目標となりうる。これをそのままKGIにはできない。数値化した指標を設定した瞬間に別物になる。多くは手段と目的が混同され、数値を達成することにだけ目が向く。
すべてを数値化できないことも理解すべきである。

それでもこの本の有用性は理解できる。

多くの事業計画(特に株式公開をしている企業の年度計画など)は、まずは売上や利益があり、これを達成するための指針が提示されるが、5W1Hに基づく計画ではなく、単なる宣言である。

自社の価値創造のプロセスなどは議論されない事が多い。
もっと困ったことに、こうしたKGI,CSF,KPIが無くても企業経営ができてしまうことも多い。

経営者は年頭所感も出さず、単に現場に「業績」などのノルマを示し、社員も「日常業務」をこなすだけのことも多い。しかし、そこには「経営者」と「社員」との信頼を醸成するためのコミュニケーションなどは確立されない。

「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこに向かうのか」を提示し、システム思考でプロセスを把握し、できることは何かを明らかにし活動を促す「KPIマネジメント」は必要である。

2025/08/14