未来への手がかり:地方都市でのタクシー事業の戦略(分社化もしくは撤退)


未来への手がかり:地方都市でのタクシー事業の戦略(分社化もしくは撤退)

■気になった記事

先日、「ヤマト運輸が初のライドシェア 北海道奥尻島、専用車で実証開始」という記事を見た。

○ヤマト運輸が初のライドシェア 北海道奥尻島、専用車で実証開始 2025年8月29日

ヤマト運輸は29日、北海道南部の奥尻島で貨客混載型の公共ライドシェア「島のりあい」の実証運行を始めた。ヤマトのドライバーが配達しながら、無料で人も運ぶ。荷室を分けた専用車を使い予約・配車も受ける。実証事業は奥尻町が運行主体となり、年末まで続ける。事業費は2000万円。ヤマトは初めてライドシェアを手がけ、利用者は事前予約により好きな場所へ移動できる。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFC295RU0Z20C25A8000000/

こうした、貨物とヒトとの混載については、それを示唆する記事は以前にも見たことがある。

○「ライドシェア」といっても日本版は規制ガチガチで普及にはほど遠い! 「軽バン貨物便」がお客も運べれば超便利だと思うがどうだ? (1/2ページ)  2025年5月25日

海外のライドシェアサービスは、自家用車でお客を希望する目的地まで有料で乗せたいというひとと、そのようなサービスで移動したいというひとを、プラットフォーマーがスマホ(スマートフォン)アプリ上でマッチングさせるサービスとなる。

一方で日本型ライドシェアのドライバーは、サービスを実施するタクシー事業者とドライバーの間には雇用関係が存在するところが大きく異なる。ドライバー、車両、そして実際の運行などの管理業務はタクシー会社が行う。

https://www.webcartop.jp/2025/05/1624018/

同様な例ではJRでも実証実験が行なわれており、その有効性が分かれば制度的な規制緩和も進むのだろうと思う。こうした事がもたらすモノを考えてみたい。

■地方都市でのライドシェアの苦境

こうした地方での物流や交通弱者対策としてライドシェアが注目され、一定の広がりは見せている。

○公共ライドシェア 導入へ2700万円計上 三重・名張市の補正予算 2025年6月4日

一般の人が有償で旅客を運ぶ「公共ライドシェア」の実証運行は、薦原(こもはら)地域で地元の運営委員会が運行しているコミュニティバス「コモコモ号」の一部路線で10月~来年3月に行う。高齢者がバス停まで行かなくてもドアツードアで移動できるよう導入を目指している。他地域への導入も視野に分析を行う。

https://www.asahi.com/articles/AST635DB7T63ONFB005M.html

しかし、上記の記事にある「ライドシェア」が地方の交通事情の改善につながっているのかと言う視点では否定的にならざるを得ない。

地方都市では元々交通需要がなく、一定の自家用車比率が高い地域ではタクシー業者は苦境にあり、経営が困難になる傾向がある。倒産の報道なども聞こえる。首都圏でも、三浦市のライドシェア事業が効果を出せていないという報道もある。こうした流れで見ると、今の制度でのライドシェアが存続できるとは思えない。下記の記事などがそれを示している。

○日本版ライドシェア開始1年 全国で導入 利用伸びない地域も 2025年4月14日

ドライバー不足を背景に、タクシー会社が研修や運行管理などを行う運営主体となり、一般のドライバーなどが有料で人を運ぶ「日本版ライドシェア」は、2024年4月に、東京23区と武蔵野市、三鷹市などからサービスが始まりました。

開始から1年となる中、今では、すべての都道府県で導入され、900以上のタクシー会社が運行の許可を得るなど、運用が全国的に広がっています。

一方、このうち、2024年12月に運行が始まった松山市など4つの市や町からなる「松山交通圏」では、2025年3月中旬までの、車両1台の1時間当たりの運行回数の平均は0.1回にとどまっています。

運行するタクシー会社によりますと、さまざまな業種で人手不足が続く中で、ライドシェアのドライバーを確保するのが難しいことなどで、運行台数が増やせていない実態があるということです。

車両1台の1時間当たりの運行回数は、ほかにも、「富山交通圏」で0.3回、「沖縄本島」で0.1回、「長崎交通圏」で0回などと、利用が少ない地域も多くあり、全国の平均でも0.3回にとどまっているのが現状です。

一方、「大都市部」では、「東京23区と三鷹市、武蔵野市」が1.5回、「札幌交通圏」が1.7回、「名古屋交通圏」が1.7回などと、利用が伸びている地域もあります。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250414/k10014778451000.html

仙台市では、ライドシェアの導入後もタクシーの供給過剰が懸念され、一部で「タクシーは多いが需要がない」という状況が発生していると報じられていることが記憶にある。これは、ライドシェア導入前の懸念が現実のものとなり、特にタクシー需要の少ない地域で顕著になっている。

この状況は、以下の要因が複合的に影響していると考えられる。

・仙台市では、以前からタクシーの供給過剰が指摘されており、ライドシェア導入前からタクシーが余っている状況があった。もともとタクシーの供給過剰がみられる。
・タクシー需要は地域によって異なり、都心部や観光地では需要が高い一方、郊外や地方では需要が少ない傾向がある。地域による需要の偏りも配慮が必要である。
・タクシー需要は時間帯によって大きく変動し、特に夜間や早朝、雨天時などに需要が高まる傾向がある。時間帯による需要の変動への対応が必要である。

■問題の混在

もともとライドシェアの話が出てきたことの一つの理由は、運転手不足であったと記憶している。しかし、その問題は、過疎地などのヒトがあまりいない地域と観光地などの過剰なニーズのある地域への対応を混在していたと認識している。

地方都市へは「ライドシェア」が有効でないことは上記の通りだが、では、大都市圏では問題は無いのかと言えばそうではない。

○初のライドシェア常時・全域運行低迷 大阪万博開催エリアで稼働2割 2025年7月11日

大阪・関西万博でのタクシー不足に備え、大阪府・市の要請に応じる形で国が全国で初めて常時、かつ営業エリアをまたぐ府内全域運行を認めた「万博ライドシェア」が低迷していることが11日、日本経済新聞の調べで分かった。会場を含む府中心部でさえ、稼働率は2割弱。7つのエリア中、3地域では事業者の応募もなく、採算性に高いハードルがある状況が浮き彫りになった。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF043S30U5A700C2000000/

これは、問題の焦点化がまちがっていたのではないかと感じる。当初ライドシェアの心理的な不安として下記が上げられていた。
・安全性への懸念
・他人との相乗りへの抵抗感
・ドライバーの質への不安
・トラブル発生時の不安
・プライバシーへの配慮
こうした事はライドシェアの管理をタクシー会社が行なうことで払拭されているはずだ。にもかかわらず利用者が伸びないと言うことは、こうした事はビジネスモデルの構築とは次元が異なることを意味している。

では何が問題なのだろう。

■需要ごとの事業分化

タクシーという交通形態はニーズへの柔軟な対応が可能という意味では存続することは有意義ではあるが、今のような事業形態では経営が行き詰まる気がしている。タクシー会社の戦略の選択肢にはどのようなモノが考えられるか?

一つはニーズに応じた業態を考え、利益が望めないのであれば撤退することであろう。
そこで暮らす人々と訪れる人々ではニーズが違うと言うことにたった戦略になる。

1.生活インフラ向け
 公共交通補完(デマンド交通、乗合タクシー)。
 行政補助や地域包括ケアと組み合わせた「半公共サービス」。
2.観光・インバウンド向け
 高付加価値(観光ガイド、空港定額送迎、多言語対応)。
 市場価格に基づき、観光客から収益を確保。

「同じタクシー会社の中でも、生活サービス部門と観光部門を分ける」ことで経営の透明性を保てる。それぞれが配慮すべき事項は異なる。例えば

◎デマンドとダイナミックプライシング
都市部では「需要集中」に応じて動的に料金設定(配車アプリで実現可能)。
地方では「最低限の移動を確保するために定額制・サブスク」を導入。
ニーズに応じた料金体系で両者を調整。

◎貨客混載・複合利用
 地方では「空気を運ぶ」コストを減らすために、人とモノを同時輸送。
 都市では「観光+買い物配送」などのパッケージ化。
 暮らす人と訪れる人のニーズを一部重ね合わせる。

◎自治体と事業者の役割分担
 地方の生活インフラ部分は「自治体が需要保証」または「補助金」で担保。
 都市の観光需要は「民間の自由競争」に委ねる。
 公共性と市場性を明確に切り分ける。

当然、AIの普及は、こうした交通システムの最適化を促してくれる。
地方では、行政が普及の旗振り役になり、都市部では経営基盤のしっかりした民間企業が担えば良い。配車サービスなどは一定のボリュームゾーンのある地域でしか有効にならない。自動車の台数が少ない地域では官民で最適化を図るしかないだろう。

棲み分けが必要である。

2025/09/02