戦略人事:採用コストに目を向けるべき時代(くじ引き採用の合理性)
2025/10/28
■3年内離職率の普遍性
3年内離職率に関する記事を見た。
○大卒3年離職率、33.8% 4年ぶり低下―厚労省調査
2025年10月24日
厚生労働省は24日、2022年3月に大学を卒業し、就職後3年以内に離職した人の割合が前年比1.1ポイント低下の33.8%だったと発表した。16年ぶりの高水準を記録した前年調査からは下落したものの、より良い労働条件を求めて転職活動する人は依然として多い。低下は4年ぶり。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025102400649
3年内離職率とともに語られる言葉が753である。これは、中卒では7割、高卒では5割、大卒では3割の新卒が3年以内に辞めると言うことを表した数字だ。近年はこの比率が上がっているという指摘もあるが、厚生労働省のデータなどを見ると、多少の増減はあるもののそれほど大きくは変っていない。
今回の33.8%という数値も、長期トレンドから見れば「想定内」であり、ニュース的には「微減」ではあっても、構造的変化を示すものではないと考えている。むしろ、企業側の怠慢さが気になる。
20年前から言われていることだが、「やりがい」「人間関係」「働き方の柔軟性」など、非金銭的要因での離職は依然として大きいと感じている。つまり、学生の職業観形成や企業の採用・育成手法が、この20年で本質的には変わっていない、という構造的停滞が背景にあるのではないだろうか。
最もこうした離職率の安定は、反面、人材の流動化を市場が受け入れていることと捉えると悪いわけではない。
■採用コストについて
バブル崩壊の頃に、どこぞの会社が内定を出した応募者全員の取り消しを行なった。それも、入社日間近にである。これは当時は大きなニュースになったと記憶している。それ以降は、複数の会社に応募を続け複数の内定をもらい、ギリギリになって「断る」という大学生もいると聞く。
こうした事は、応募者だけはたくさん来るが、他社との掛け持ちのために有効な応募者は思ったより少なくなり、予定人員を確保できないと言うこともありうる。また、ネットで応募できる環境は、応募者にとっては効率的になり、ますます市場は膨張してゆく。
その状況においては、採用コストは膨れ上がり、一方でヒット率は下がるので結果としては(採用者)一人当たりの採用コストも上がっているのではないかと想定される。
ただ、実体が分からないのでAIに調べてもらった。あくまでも参考であり、普遍的でもなければ信頼性も不明だ。それでも参考になるので引用する。
☆ マイナビの「中途採用状況調査2024年版(2023年実績)」によれば、2023年の中途採用で 1社あたり平均採用費用総額 629.7万円。採用人数平均21.8人。よって単純計算で “1人あたり約28.9万円” とされています。 マイナビキャリアリサーチLab | 働くの明日を考えるなど
☆ 過去比較で、同じくリクルート「就職白書2020」では、2019年度の新卒採用1人あたり平均で 93.6万円(2018年度は71.5万円)というデータ有。つまり前年比で約30%近く増加。 careermart.co.jp など
+2☆ 採用コストが「増加している」と感じている企業が、調査上、 およそ7割 に上っています。採用コストを押し上げている要因として、「人材紹介費の上昇」「採用広告費の高騰」「採用イベント関連費用の増加」「採用担当者の人件費増加」などが挙げられています。 roomsofknowledge.com など
実際の採用コストの水準は分からないものの、採用コストが上がっているという印象はそれなりに妥当なのだと思う。同様に、採用コストを上げている要因についてもAIに聞いてみた。
★ 労働市場がタイトである(求人数/応募数の変化)。したがって企業が母集団確保・優秀人材獲得のために広告費・紹介費・フォローアップなどを強化せざるを得ない。
★ 採用手法が多様化・高度化しており、従来型の大量採用・一括採用モデルからポイントを絞るため、あるいはミスマッチを減らすためのコスト(例えば面接回数、選考時フォロー、内定辞退防止施策など)が増えている。
★ 応募者側の自由度・流動性が上がっており(複数応募、転職回数の増加、キャリア意識の変化等)、企業側の“見極め・定着”リスクが増大している。その分、採用コストが単に採用時だけでなく“定着まで含めたコスト”という観点で上がっている。
という事のようだ。
■採用コストの軽量化
人事部門の方向性として、離職率を下げると言うことよりも、「誰を採用しても離職を止められない」のであれば、そもそもの採用コストを下げる(例えば、事前のふるいなどはなくして基本は早い者勝ちなど)の政策でも良い様な気がしている。
さすがに早い者勝ちは極端であるが、「ふるい(面談・適性検査など)の省略」も、部分的には現実化しているようだ。
・リファラル採用(社員紹介):見極めよりもスピード重視。コストも低い。
・スカウトマッチング系(ダイレクトリクルーティング):応募→即面談→即内定、という超短期プロセス。
・SNS採用:公式なエントリーシートなし、価値観マッチング中心。
・アルバイト・インターン経由採用:採用プロセスを実質「試用期間化」。
「離職を止められないなら、採用コストを抑える」という発想は乱暴な発想ではないト考えているし、いま多くの人事部門がこの発想に近い方向を模索すべきであると考えている。
すなわち、
・若手の価値観の多様化により、どれほど丁寧に育成しても離職する人は一定数存在する。
・採用の「精度」を上げることに限界(=見極め不可能な要素が多い)がある。
・採用〜定着までの投資回収リスクが高まっている(=採用ROIの悪化)。
「完璧な採用」や「離職ゼロ」は、もはや非現実的であり、、もし層ならば「採用コストをどう下げ、母集団を広く取り、定着する人を自然選抜的に残す」というアプローチは、“ある種の経営合理性”を持ちえる。
■くじ引き採用の合理性
あなたの会社はどんな基準で選抜しているのだろう。もし、その人の能力という視点で選抜しているなら辞めた方が良い。そんなものは計れるわけでもなく成果も安定しない。おすすめするのは以下の通りである。
(1)価値観の共有
以前、ある企業の経営者と話をしていたときに
・当社の企業理念に賛同してくれること
・実際に職場を見て直感的にやっていけそうかを判断できること
・当社の業務プロセスを理解し参画する意思があること
が重要であると言っていたことを思い出す。
上記に賛同できる人材を選抜する。
上記の項目は、少なくとも応募者自らが宣言することができる、するもしないも自己責任になる。
(2)くじ引き
その上で、応募者を集めて(あるいはネット上でもよいが)「くじ引き」で決めても良いかとも思う。これは、採用コストを下げることができる。
つまり、
・理念に共感し、
・現場を見て納得し、
・業務内容を理解して意思を示した、
という段階までは“自己選抜”が完了している。
そのうえで「最終的な選抜をくじに委ねる」ことは、企業と候補者双方の“過剰な見極めコスト”を削ぎ落とす行為となる。
重要なのは、この方法が持つ倫理的な側面になる。
・“誰にでもチャンスがある”という平等性
・“企業側の恣意性”を排除する透明性
・“結果を自己責任として受け入れやすい”心理的公平性
是非考えて欲しい。
■戦略人事
さて、この投稿のメインテーマである「戦略人事」。
漫然と今までの採用戦略にあぐらをかいていてはいけない。新たな制度設計が求められる。
下記に一例を示す。
(1)理念・価値観フィルタの可視化
→「企業理念・文化・働く価値観への賛同」を可視化する。
(説明会や動画、職場体験など)
(2)自己適合の確認
→職場見学・社員対話で「直感的に合うか」を応募者自身が判断できるようにする。
(3)業務理解と参画意思の確認
→業務の流れや目標を理解し、自らコミットを表明させる。
(4)応募者全員をくじ引きにかける
→同意条件を満たした人のみ対象。あくまでも自己完結。
(5)採用後3ヶ月をトライアル期間として評価・再選抜
→企業側も「適合性」を確認。当然、再就職支援も行なう。あるいはリスキルの身も用意する。
どうだろう。
閑話休題