ISO9001と経営:法令遵守は当然のこととして・その4(昭和の時代の「業者扱い」との決別)
記憶だが、ISO9001:2008では、「法令遵守は当然のこととして」という一文があった気がしている。いつの間にか忘れていないだろうか。
4回シリーズの最後になります。第4回目。
■ないがしろにされる「業者」
私自身は昭和の時代を生きてきており、当時の商慣習は記憶にある。その時代は「業者」という言葉が平然と使われており、管理すべき対象だった。私自身は下請けだったので「業者」扱いをされ、曖昧な契約の基に仕事を押しつけられたり、無償サービスのようなこともさせられた。「業者は黙っていろ」と侮辱されたこともある。
まだ、ビジネスパートナーという言葉がなかった頃だ。
令和の時代になり、改善されているかと言えば怪しい状況である、下記の様な事件は相変わらず報道される。
○金型約9000個を下請け事業者57社に無償で保管させる…下請法違反で公正取引委員会が勧告
2025年10月10日(金)
トラクターやコンバインなどを製造する松江市の農業用機械メーカーが、部品の金型などを下請け事業者に無償で保管させていたのは、下請法違反に当たるとして、9日公正取引委員会から保管費用を支払うよう勧告を受けました。
下請法違反で勧告を受けたのは、三菱マヒンドラ農機の100%子会社で、松江市東出雲町に本社を置く農業用機械メーカー、リョーノーファクトリーです。
公正取引委員会によりますと、リョーノーファクトリーは、部品の発注を1年以上しないにも関わらず農業機械の製造に使う金型など8993個を、おととし10月から、下請け事業者57社に無償で保管させていました。
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/bss/2220667
■社会からの圧力の節目の変化
業者を奴隷のように捉える商慣習は今だ残っているが、社会からの圧力の節目は変ってきているのだろう。法律面での監視が強くなってきている。
昨年に話題になった「フリーランス新法」や「金型の無償保管の下請法違反」などは記憶にあるだろう。来年からは、この下請法の内容も強化される。
○2026年1月より「下請法」が「取適法」に変わります
2025年10月21日
2025年5月16日に「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」が可決・成立し、2026年1月1日より施行されます。この改正により、規制内容の追加や規制対象の拡大が行われ、法律名も変更されます。主な内容は以下のとおりです。
●法律の題名
下請代金支払遅延等防止法⇒ 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(新通称:「取適法(とりてきほう)」)●用語の変更
・下請代金⇒製造委託等代金
・親事業者⇒委託事業者
・下請事業者⇒中小受託事業者●適用対象の拡大
従来の資本金基準に加え、従業員数基準(300人、100人)が追加され、規制および保護の対象が拡充されます。また、適用対象となる取引に、製造等の目的物の引渡しに必要な運送の委託が追加されます。●禁止行為の追加
「協議に応じない一方的な代金決定」の禁止、「手形払」等の禁止が追加されます。公正取引委員会のホームページには、この改正内容が盛り込まれたガイドブックが公開されています。該当する企業は内容に目を通しておきましょう。
「2026年1月から「下請法」は「取適法」へ!」というパンフレットが公正取引委員会から提示されている。詳細は下記も参照して欲しい。
https://www.jftc.go.jp/file/toriteki_leaflet.pdf
この中に、4つの義務と11の遵守事項(禁止項目)が記載されている。
これらのうち、旧法では取り締まれなかった項目は「協議に応じない一方的な代金決定」になる。今回新たな禁止項目になる。その他の項目も旧法ではあったものの「強化」されていると考えられる。また、「手形払等(支払手段として手形等を用いること)」の禁止も追加されている。旧法上「支払遅延」等は規制対象だったが、手形を“支払方法”として用いること自体を原則禁止する条項は今回の改正で追加された。
AIに改正の「本当の狙い」を訊ねると下記の回答があった。概ね賛同できるので記載する。
単に「親事業者を縛る」法改正ではなく、次のような構造変化を促している。
・価格交渉の場を制度的に開く(協議拒否禁止)
→ 「協議に応じない一方的決定」の禁止は象徴的。
・多重構造の透明化
→ 発注内容・支払条件の明示義務が全ての層に課される。
・中小企業の交渉力強化
→ 「くじ引き採用」に似た発想で、恣意ではなくルールで公平性を担保する方向。
・賃上げと一体の政策
→ 法の目的に「中小企業の利益確保」が明記された点が旧法との決定的な違い。
(ここまで)
参考にして欲しい。
■規格で書かれていることと書かれていないこと
ISO9001:2015では、箇条8.1に下記の記載がある。
組織は,外部委託したプロセスが管理されていることを確実にしなければならない(8.4 参照)。
詳しい要求事項は「8.4」に記載されているものの、顧客に製品サービスを提供する際には、責任は自社にあるのだから「外部委託」しているからと言って責任を免れることはない以上は、自社と同等の管理を求められる。というのが主旨であろう。
そのため、「管理下に置く」事が主眼であり、昭和の時代の価値観から言えば「業者」としての上位下位の関係性を強要する文化が根底にある。
そしてそれに対しての善し悪しは規格要求事項には書かれていない。しかし、こうした、外部委託する事業者を「業者扱い」してトラブルが起きることを社会は容認しなくなっている。
こうした「社会通念」のようなモノは規格には記載がない。しかし、ないからと云ってないがしろにして良いわけではない。
■発想の転換
従って、規格を表面的に捉えるのではなく、理念の転換という側面で捉えて欲しい。
(1)「評判資本(Reputational Capital)」
すでに、非財務指標の重要性が説かれている。こうした非財務という側面は投資基準にもなっている。当然、社会的な合意形成もあり、一定の基準はあるだろうが、もっと踏み込んでも良い。いまの時代、企業の信用は財務諸表には出ないが、取引先やフリーランスが語る“評判”が資本になる時代になるという発想も有益である。
SNSや口コミでの悪評は、ブランド毀損の引き金になり、業績を左右する恐れもある。
「評判資本を守る」という考え方を取り入れて欲しい。。
(2)「信頼コスト」
これに関連して、「信頼コスト」にも着目してみてはどうか。すなわち
「取引条件を曖昧にしたり、無理を通したりすれば、信頼コストが上がる」
「短期的には得でも、信頼を失うと調達コストが何倍にも跳ね返る」
信頼コストとは、再交渉の手間、品質トラブル、離反、評判リスクなどを含む“目に見えないコスト”のことをさす。ISO9001でも「関係の維持」(8.4.1) に言及しており、信頼を維持する設計=品質保証の一部だと言える。
(3)「パートナー戦略」
戦略の拡大も煩慮して欲しい。例えば「サプライヤー管理」ではなく「パートナー戦略を設計する」、あるいは「取引先をどう支配するか」から、「どう共に成長するか」へなどがあるだろう。
「安く買う」ではなく「価値を共創する」
これが品質マネジメントの最前線と考えても良い。
(4)「リスクマネジメントの再定義」
単に「リスクと機会」という表面的なことではなく、より深くリスクを捉える個々と身もして欲しい。「法令遵守を“守り”ではなく“攻め”に転換する」とは何かも課題になる。
たとえば
「フリーランス法への対応は“コンプライアンス”ではなく、“調達リスクをコントロールする仕組みづくり”と考えるべきである」
このような再定義をすれば「リスク管理」は理解しやす句なるのではないか。