世間に転がる意味不明:コスト抑制は共通課題になる(BYDに関する悪意ある記事に思う)
「リスク」と「機会」を考える。
最後に「流星号、流星号、応答せよ」という閑話休題を付す。
■扇情的な記事
○中国BYD、下請けに「10%値下げ」圧力 苦境の部品メーカー「搾取ではなく供給網の健全な発展を」 2024年12月24日
自動車メーカーの値下げ圧力により、強みのない企業は最終的に淘汰されるかもしれない。業界関係者は、自動車メーカーには部品メーカーの技術革新を支援し、供給網全体の発展を促す責任があると指摘もした。
値下げ交渉は業界の慣行だが、ただ単に消費者のニーズに応えるだけでなく、サプライチェーン全体の持続可能な成長を目指すことが、今の中国自動車メーカーが心がけるべきことだろう。
私自身は、中国を礼算する気は無いし、BYDの事業展開も他者を踏みにじるという印象があり、好きになれない。それでも、上記の記事は、企業が収益を上げてゆく際の基本理念を無視しているように感じている。
企業はゴーイングコンサーンという制約があり、業績志向もやむを得ないことであろう。
■BYDの事業戦略のリスク
BYDの業績は成長を続けており、下記の数字を得ることができる。
年度 総売上高(億元) 純利益(億元) 販売台数(万台)
2020年 約153 約42 約42
2021年 約216 約30 約74
2022年 約424 約166 約186
2023年 約602 約300 約302
2024年 約840 約402 約427
(注:Googleに聞いてみた)
こうした成長の原動力は下記の様なことが指摘されている。
1.新エネルギー車(NEV)へのシフト:
2022年にガソリン車の生産を完全に停止し、電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車(PHV)に注力したことが、その後の飛躍的な成長につながった。中国政府の環境政策と、消費者からのNEVへの需要増加を的確に捉えたことが成功の鍵。
2.プラグインハイブリッド車(PHV)の急成長:
2024年には、PHVの販売が前年比72.8%増と大きく伸び、総販売台数の5割以上を占めた。これは、充電インフラがまだ不十分な地方都市でも利用しやすいPHVの需要を取り込んだ結果。
3.中国国内市場でのシェア拡大:
2024年には、BYDの年間自動車販売台数が427万台を突破し、これまで国内トップだった上海汽車集団を抜いて、中国市場で初めて販売台数首位に立つことになった。
4.海外市場への積極的な進出:
2024年、BYDは海外販売台数を前年比で約132%増加させるなど、欧米や東南アジアへの輸出を急拡大させている。これにより、中国国内での熾烈な価格競争による収益悪化を補い、全体の成長を維持しています。
こうした事はBYDに限った話ではなく、日本の自動車産業やアメリカの自動車産業でも成長を目指すのであれば類似の戦略を採るだろう。しかし、市場を中国国内だけではなく海外にも求めるとなると話が違ってくる。
一般的に、ドメスティックな市場展開をしている企業がグローバルな市場に展開をするときには、コストの抑制が重要課題となる。一般的には調達コストの抑制と人件費の抑制が効果が高いと言われている。従って、多くのグローバル展開をする企業は、これらの調達や人件費に関して低コスト国へ工場移転あるいは調達先の変更を行なうことが効果的であると言われる。
しかし、中国は「低コスト国」と言われており、そこに拠点を持つBYDは海外へ移転する選択肢は採りづらい。ではどうするのか?
■垂直統合の徹底
BYDは、バッテリーから半導体、モーター、そして車両本体まですべて自社で生産するという「垂直統合」を採用しており、サプライチェーンの混乱に強く、コスト競争力を維持しながら、迅速に生産台数を増やすことができると言われている。
しかし、すべての部品を自前で作りコスト競争力を維持するためにはスケールメリットが求められる。十分なサイズでなければ外部調達になる。
しかし、だからといって野放図にコストはかけられない。また、価格圧力をかけ続けることは有力なサプライヤーの離反を招きかねない。
これを食い止めるためには
・自社のコスト水準をサプライヤーに示し「当社はここまでできているのだから、貴社もこれに従ってくれ」
・できなのであれば指導するから対応してくれ
と言う文脈がなければ、サプライチェーンは維持できない。
そうした目で改めて下記の記事を見ると別のことが分かってくる。
○中国BYD、部品メーカーに「10%値下げ要請」の波紋 過当競争の中、「価格破壊王」の動きに業界騒然 2024/12/16
このメールの中で、BYDは2025年の(EVとPHVを中心とする)新エネルギー車市場が「生き残りをかけた大決戦に突入する」と強調。BYD車の競争力をさらに高めるため、サプライチェーン全体が共同で努力してコスト削減を続ける必要があるとし、2025年1月1日から納入価格を10%下げるよう求めた。
・・・
にもかかわらずBYDが強気の行動に出たのは、同社との取引から得られる規模のメリットをちらつかせて、交渉を有利に運ぶためとみられる。
https://toyokeizai.net/articles/-/845784
もちろん発注してからの値下げは違法であろうが、コスト低減に向かわなければいけないほど追い詰められているともとれる。価格競争力への関心は無視できない。
■市場からの価格圧力
価格競争力に関してはいくつかの側面がある。
・テスラなどが高価格帯のEVに注力する一方、BYDは比較的安価なEVやPHVを豊富に揃えているとされていた。この価格戦略は、充電インフラが未整備で、かつ購買力が低い新興国市場で圧倒的な強みとなりうるが、低価格戦略は他企業も行なっているので油断できない。
・中国国内では、BYDの成功を受けて、多くの新興EVメーカーや既存の大手自動車メーカーが低価格EVを投入している。この過酷な価格競争が続けば、BYDの利益率は圧迫される可能性がある。
したがって、低価格車の開発や投入は継続的に行なわれる必要があり、この戦略自体が経営を圧迫する恐れもある。
○BYD、最大117万円値引き 国内EVで最安価格に 中国苦戦、日本で攻勢 現代自は158万円安く 2025年9月2日
中国電気自動車(EV)大手の比亜迪(BYD)が日本でEVの値引きを始めた。引き下げ幅は50万~117万円で、小型車はEVとして国内最安になる。主力の中国は成長に急ブレーキがかかっている。市場の成長が見込める日本で価格攻勢をしかけてシェア拡大をめざす。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO91044480R00C25A9TB2000/
■価格破壊のリスク/海外移転のリスク
価格破壊は諸刃の剣である。
一方が安さを武器にすれば、それに応じるしかなく、それは収益の悪化を招きかねない。
○テスラ、日本で「モデル3」最大55万円値下げ 実質300万円台に 2025年5月22日
米電気自動車(EV)大手のテスラの日本法人は22日、主力車種「モデル3」を日本で値下げすると発表した。値下げは6月までの期間限定で引き下げ幅は最大55万円。EV購入時に国から出る補助金を考慮すると実質399万円から購入できる。世界で不買運動が続くなか日本では好調を維持しており、値下げでさらなる販売拡大を目指す。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC221YP0S5A520C2000000/
これに下記の記事を重ね合わせると、今までの成功企業がそれを継続することの難しさを感じ取ることができる。
○中国車、「勝ち組」BYDや吉利も減速 価格競争が供給網にも打撃 2025年8月30日
中国の自動車大手の業績が悪化している。30日までに大手6社の2025年1〜6月期決算が出そろい、5社が最終減益か赤字になった。唯一増益だった比亜迪(BYD)も増益率は前年同期を下回った。激しい価格競争で各社の採算が低下し、サプライチェーン(供給網)にも影響が広がっている。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM22B8R0S5A820C2000000/
コスト抑制のために生産拠点を中国(低コスト国)から別の国(もっと低コスト国)へ移転する場合、新たな工場建設や現地サプライヤーとの関係構築に多額の投資と時間を要する。なぜならば、低コスト国に移転したとしても、そこでの生産は自社ブランドを毀損させるモノでは意味が無いからである。これは、企業のグローバル展開のスピードを鈍らせる要因となり得る。これを無視すれば、思わぬ自体を誘発させる
○BYD工場建設で「奴隷状態」 ブラジル、中国人163人救出 2024/12/25
中国の電気自動車(EV)最大手、比亜迪(BYD)がブラジル北東部バイア州に建設中の工場で、中国人作業員163人が「奴隷のような状態」で働かされていたとして、ブラジルの検察当局などが24日までに作業員を救出し、建設現場の一部を閉鎖した。
当局や地元メディアによると、作業員はBYDと契約する企業に派遣された。パスポートを取り上げられ、賃金の6割を保証金として取られ自由が制限されていた。作業員が寝泊まりする施設の衛生状態は劣悪で、現場の安全管理にも問題があった。長時間労働などが原因の労働災害も複数発生していたという。
https://nordot.app/1244393888044155691
こうした事態は、企業にとってプラスにはならない。
「価格戦略」、「コスト抑制戦略」だけでは不十分である。
■テクノロジー戦略の向こう側
では、どのような戦略を考えるべきであるのか。
一事例として考えると下記が列記される。
① 製品・サービスの「差別化」
・ソフトウェア重視:EVはソフトで走りが変わるため、OTA(無線アップデート)や独自OS・アプリの強化で差別化可能。
・安全性・品質:安さより「安心」を求める顧客層にアプローチ。日本車が長く強かった領域。
・デザイン・ブランド力:高級ブランドのように「欲しいから買う」を狙う。
② 顧客との長期関係(製品寿命を超えるビジネス)
・モビリティサービス:購入から利用(サブスク・カーシェア)への転換。
・バッテリーリース/交換ステーション:初期費用を抑えつつ継続課金モデルに移行。
・車両データ活用:走行データを使った保険・メンテナンス・都市交通サービスへの展開。
③ サプライチェーン全体での付加価値
・循環型モデル(リサイクル):使用済みバッテリー・部品の回収再利用を仕組み化し、資源価格変動に左右されにくくする。
・地域最適化:単純な「低コスト国移転」ではなく、需要地近傍での分散型生産。物流・為替リスクの低減。
④ 技術の跳躍
・新エネルギー源:次世代電池(全固体、LFP改良)、水素燃料とのハイブリッド化。
・自動運転・AI活用:単なる車両から「走るスマートデバイス」へ進化。
⑤ エコシステム型ビジネス
・異業種連携:IT企業・エネルギー企業・都市開発との提携。
・プラットフォーム戦略:車を単体で売るのでなく、「移動のインフラ」として位置づけ。
もちろん、これは一例にしか過ぎない。また、これらをそのまま組み替えても成功するビジネスモデルにつなげられるわけでもない。世界観が必要である。
かつてテレビで「スーパージェッタ-」という番組があり、「流星号、流星号、応答せよ」で乗り物が飛んでくるシーンがあった。都市部で一人で移動するのにそれほどたいそうなモノは必要ない。パーソナルモビリティの簡易版が、各駅に待機して呼び出しに応じてきてくれるという世界を考えてみても良い。
その特徴は下記の様に整理できる。
1.簡易パーソナルモビリティ(PM)
自転車サイズや小型EVスクーター程度。
都市部の短距離移動(駅⇄オフィス、買い物)に最適。
2.駅ごとに「スタンバイ」している
いわば「モビリティ置き場」+「AI管理」。
呼び出せば最寄りのPMが自動で走ってきて、ユーザーを拾う。
3.利用はサブスク or ワンコイン
車を所有するのではなく、必要な時だけ使う。
「シェアサイクルの進化版」として都市インフラに組み込む。
戦略的に見ると…
自動車の代替ではない
→ 大きな移動は鉄道・EV・バスで。
→ “都市内の最後の1〜2km”を埋める手段として成立。
技術のハードルは低い
→ 既存の小型EV+自動走行補助(低速・短距離なら技術的に容易)。
→ 「空飛ぶクルマ」より現実性が高い。
都市計画と親和性が高い
→ 歩行者専用道や商店街に導入すれば「車はいらない都市」も可能。
→ 高齢者・子ども・観光客に便利。
と言った視点で見ることができる。
さて、この先は自分で考えて欲しいな。
2025/09/05
2025/09/03