■はじめに
2024年問題から派生した人手不足問題からタクシー運転手の不足、これの解決策の日本版のライドシェアというゆがんだ制度設計が進められている。こうした問題の根本は、様々な課題を混ぜてしまうところにある。
地域交通の問題で言えば、過疎地、地方都市、観光地、都市部では課題が異なる。
タクシーの問題で言えば、経営上の課題が先に来るはずであり、運転手不足はその付帯条項である。
タクシー運転手の問題で言えば、賃金問題は避けて通れない。
観光地・都市部の交通問題には“渋滞”と言う問題も含まれる。
交通手段は、バス(BRTを含む)、鉄道(LRTも含む)、タクシーだけではない、モノレールなどもあるだろう。
こうしたことを混在させて議論をすると「解決」すべきことから目をそらしてしまう問題がある。この一連の投稿は、問題の整理をすることにより課題解決の糸口を考察するため
のものである。
■正社員でもなく個人事業主でもなく
日本型ライドシェアは海外のそれとはことなり、運行時間帯や地域が限定され、タクシー会社が運転手や運行管理を引き受ける。また運転手の人数が国から割り当てられると言う報道もある。
タクシー会社に雇用される彼らは正社員なのかと言えば、そうではない。ここで言う正社員とは、勤務時間が決められ月例給与をもらう人々を指す。もちろん多少の歩合制があるとしてもだ。様々な情報から、ライドシェアで募集される彼らは正規の社員ではなくあくまでも都合の良いアルバイトであることが想像される。
これは、正規の賃金ではタクシー運転手が集まらないからバイトで賄おうという発想に他ならない。
それを良とする人々もいるだろうが、そうした報道はミスリードさせているのではないかと疑念する、
○「すき間時間でやってみたかったタクシー業務を…」日本版 “ライドシェア”がスタート 愛車をメンテナンスし出発式に
2024年4月26日
普段はネット通販関係の自営業をしていますが、「すき間時間」を利用して働けることが魅力だといいます。
「すき間時間を使って、やってみたかったタクシーの業務を体験できることに興味を持った」
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/cbc/1140599?display=1
そして、働く側は都合の良い「副業」感覚でいるのかもしれない。それを示唆するような記事も見る。
○新たな「副業」として関心急上昇 「ライドシェア」求人サイト検索
2024/5/2
ライドシェアの仕事が4月に求人情報サイト「Indeed」(インディード)で検索された件数は、制度開始が決まった昨年12月に比べて29倍に増えた。検索時に組み合わされたキーワードは「副業」「土日のみ」「週1~2日」といった隙間時間に関連する言葉が他の求人検索より突出している。
https://mainichi.jp/articles/20240502/k00/00m/020/080000c
彼らは正規社員でもなく個人事業主でもないだろう。新たな非正規社員である。
■タクシー会社はリスクを負わないというドライブが働く
ライドシェアを運行管理するにしても費用は発生する。
①安全指導
現時点では2種免許は不要であるにしても、タクシー会社から安全移管する講習を受けそうだ。その費用はタクシー会社が負担するにしても最終的には他(運賃や報酬)に移転される。これが不透明である。
②保険
事故が起きることはありうる。その時の保険は自賠責で賄われるのか。保険費用はライドシェアのドライバーが負担するのかタクシー会社か。
③車の整備
車の車検などの整備費用はだれが負担するのか。自家用車であればお客が乗れば汚れる。そのせい総費用は個人負担か。
こうした費用負担がだれにしわ寄せられるのか。
おそらくは「ウーバー」の仕組みが「ウーバーイーツ」と同じであれば、すべて個人負担になるのだろうが、「日本型ライドシェア」はわからない。というかこっそり運賃への加算や報酬からの天引きのような形で企業が出さないようにするだろう。
もう一度、2024年問題とタクシー運転手の不足について思い出そう。
2024年問題というのは残業規制問題である。
あたりめに考えれば「残業させなければ良い」と言うことだが、実際には当たり前の時間で働いていても生活が出来ないから困るというのが背景にあると考えている。従って正規の時間で働いていても生活できないのでタクシー運転手の魅力は無く人が集まらない。これが問題を文脈で捉えたときの一つの姿である。
そこには、タクシー会社があたりめの収益構造を作れないという背景がある。何かしらの収益構造を改善しなければ、費用負担をすることは無理だろう。従って、繰り返すが、ライドシェアで発生する費用は国からの補助金か運転手からの搾取でしかまかなえない。
■紛争、貧困、有名無実化
(1)紛争
タクシー会社が管理するということで、おそらくは雇用契約をタクシー会社と結ぶことになるだろう。しかし、それは、どんな形であれサービスを提供する側と受ける側では当然のことであり、バイトであろうとフリーランスであろうと変わらない。
しかし、月例給与という形でない以上、おそらくは社会保険や雇用保険の対象外であろう。また、収入や雇用を約束するものではない以上、契約解除は簡単に行われ、現在起きているアマゾンやヤマト運輸の雇用打ち切りはいずれ起きることである。
(2)貧困
ウーバーイーツも最初は隙間時間でのバイト感覚ではじまったであろうし、仕事のない人々にとっての福音であったかもしれない。趣味や遊びのお金が必要なバイトは苦ではないかもしれないが生活のためのバイトは苦痛以外の何物でも無い。
ウーバーイーツでマック地蔵と呼ばれた現象はそれを象徴する。
ライドシェアも根底には貧困層問題を置き去りにしている。
長時間労働が前提にしなければ十分な収入にならない今のタクシー運転手が置かれている状況は変わらない。安定した収入の必要な人は積極的にタクシー運転手にはならないだろうし、ましてや部分的な収入にしかならないライドシェアの運転手にはならないだろう。
それでもせざるを得ない人々が発生することは、現在かろうじて踏みとどまっている既存のタクシー運転手すらも貧困に導いてしまうのではないかと危惧する。
(3)有名無実化
民泊問題も忘れられている。
業界を守ろうとするドライブが働けば健全な業界の育成は出来ない。
市場で働く人々に主導権を渡そうとしない行政主導のライドシェアはその機能を果たせないままに終了するだろう。
■解決したかったのは何か(再びの確認)
ライドシェアの話題が出た発端は、観光地でのタクシー運転手の不足であろう。その理由を少子化というが、それは嘘だ。本質的には低賃金である。それから目をそらすために2024年問題、すなわち残業規制であるというが、それはない。なぜならば、定時でまっとうな賃金がもらえるなら、もっと人が集まるはずである。ライドシェアを推進したとしても、彼らにはまともな報酬を支払うことはない。そんなところに容易に人が集まるとも思えない。
行政はオーバーツーリズムを解決したいと口では言うが、それに向けて真剣に議論することはない。つねに業界保護が優先する。嘘だと思うなら、B&Bから派生した民泊を思い出すとよい。
とても定着したとは思えない。
ライドシェアも同じ運命をたどるだろう。
(2024/05/05)