解決されていない「廃ホテル問題」(20251212)

解決されていない「廃ホテル問題」(20251212)

ふと思い出したことがある。何をどうしろというわけではないのだが、気になったこと、感じたことを記載する。

作成者:中野康範

作成日:2025/12/09

訪日客増加と宿泊業の現状

現在、中国政府による実質的な日本への渡航禁止の処置の影響はわからないが、それでも昨年の日本への渡航者の数は増えており、4000万人近くになるという報道もある。さぞや日本の観光業も潤っているのかなといえばそうでもないらしい。

「老舗ホテル」がなぜ破綻?インバウンド特需の裏で広がる「地方ホテルの明暗」 2025年10月17日

> 東京商工リサーチの調査で、主要な上場ホテル15ブランドの平均客室単価は1万6679円(2025年3月期、前年同期比12.6%増)と上昇が続いている。15ブランドすべて前年同期の客室単価を上回り、コロナ禍で人流が制限された2021年同期の7755円から、4年で2倍以上に上昇した。

> こうしたホテルの多くは集客の見込める繁華街やビジネス街に立地する。稼働率は15ブランドすべて70%を超え、このうち、9ブランドは80%以上の稼働率を誇る。

では、実際にどうなのかを少し数字で見てみよう。

1点目は訪日外国人の数の推移だ。

日本政府観光局 JNTO 訪日外客統計

|年別|訪日外客数|

|—|—:|

|1965年|37万人|

|1977年|103万人|

|1984年|211万人|

|1990年|323万人|

|2002年|524万人|

|2013年|1036万人|

|2016年|2400万人|

|2024年|3687万人|

コロナの影響で落ち込んだ時期があるものの、1990年代から10倍以上の数字になっていることがわかる。日本人の人口に比べると、特に都市部などで周りが外国人だらけという印象があることも納得できる。

2点目はインバウンドによる宿泊に対する貢献度になる。

国土交通省 観光庁 旅行・観光消費者動向調査 2025年7-9⽉期(1次速報)

【図表3】 ⽉別⽇本⼈国内旅⾏消費額 単位︓億円

|年・期|宿泊旅⾏消費額|前年同期⽐|

|—|—:|—:|

|2023年 1-3⽉期|36,462|+89.6|

|2023年 4-6⽉期|44,250|+29.5|

|2023年 7-9⽉期|53,042|+20.9|

|2023年 10-12⽉期|46,020|+12.5|

|2024年 1-3⽉期|38,699|+11.7|

|2024年 4-6⽉期|50,756|+14.7|

|2024年 7-9⽉期|60,659|+14.3|

|2024年 10-12⽉期|53,212|+15.6|

|2025年 1-3⽉期|45,758|+18.2|

|2024年 4-6⽉期|52,433|+3.3|

|2024年 7-9⽉期|67,303|+11.0|

注:2025年は速報値

もちろん宿泊料金の高騰もあるとは思うが、旅行に費やすお金の中で「宿泊」に対する支出も膨大であることがわかる。しかし、だとしたら最初の記事は何を意味するのだろう。

集中と空白:観光地の濃淡構造

ゴールデンルートへの偏り

昨年、秋の旅行で安曇野に赴いた。車で小一時間のところに黒部ダムがありそこを訪れた印象では、やはり外国人旅行者が大半であった。一方で、安曇野にある「碌山美術館」は、その作風はブロンズ像で有名なロダンの影響を受けており、そのアートに触れることができる優れた美術館だと思うのだが、外国人旅行者には見向きもされないようだ。

安曇野のホテルなども、外国人が皆無とは言わないがほとんどいない。

訪日外国人旅行者における「人気の観光地(濃い部分)」と「あまり訪れることがない観光地(薄い部分)」の差(濃淡)を感じる。この点について少し調べると、下記のような指摘を受けた。(Google検索やGemniなどを活用)

1 圧倒的な「ゴールデンルート」への集中(濃い部分)

内容事実訪日旅行者の行動は、依然として東京・大阪・京都を結ぶ「ゴールデンルート」への集中が極めて高い。特に初めての訪日旅行者(ファーストタイマー)の大部分がこのルートを主要な目的地としている観光庁のデータによれば、特定の時期において、東京都の訪問率が約50\%前後であるのに対し、地方の県では1%に満たない、あるいは数パーセント程度という大きな差が指摘されている。

2 地方への訪問率の低さ(薄い部分)

 三大都市圏や沖縄・北海道などの主要な観光地を除く地方圏の多くの県では、訪日外国人の訪問率が低く、「薄い」部分を形成している。主な障壁として地方では、多言語対応の不足、公共交通機関の利便性の低さ、そして主要な旅行情報源(SNS等)での情報不足といった課題を抱えていると考えられる。

こうしたことを見ると、例えば、東北の内陸部、日本海側、九州南部などは、あまり観光客が集中しない地域となるだろう。

訪日旅行者にとっての「アクセス」と「情報」の障壁

その背景として指摘されることの一つに「アクセスと情報の障壁」が考えられる。

これについてもAIに尋ねるとうまく整理してくれたので引用する。

すなわち、

1 交通手段の「シームレス性」の欠如

ゴールデンルート(東京・大阪・京都)は、新幹線や国際空港からのリムジンバスなど、移動手段が直線的でシームレスです。一方、地方では、新幹線駅から地域内のバスやローカル線、タクシーへの乗り換えが必要となり、交通手段が断片化し、旅行計画が複雑化する。

2 料金体系とチケット購入の複雑さ

地方の交通機関では、ICカード(Suica/PASMOなど)が使えない地域や、外国人向けの周遊パスが存在しない、あるいはその情報が非常に限定的であることが多い。外国人旅行者は、チケット購入や料金精算の際、現地通貨や特定の決済方法に依存することを避けたがる傾向があり、料金体系が複雑で、事前にオンラインで予約・購入できない場合、「計画外の追加コストや手間」のリスクとして認識され、障壁となりうる。

3 信頼できる情報源の欠如

訪日旅行者は、訪問先を決定する際、SNS(Instagram、YouTube)や個人のブログ、そしてトリップアドバイザーなどの口コミサイトを重要な情報源とする傾向が強い。地方の情報は、これらのグローバルなプラットフォームでの露出がゴールデンルートに比べて圧倒的に少ない。旅行者は、「誰かが体験した、信頼できる情報」がなければ、訪問先を決定しない恐れがある。

4 魅力の「翻訳」の失敗

>地方の観光資源(例:伝統的な祭り、自然体験)は、その背景にある文化的な物語や歴史が深いものが多いですが、その「物語」が多言語で適切に翻訳され、魅力的に伝えられていません。推論魅力的な物語や背景情報が伝わらないと、地方の観光地は「ただの古い建物」や「ただの景色」として認識されてしまい、「わざわざ遠くまで行く価値がある」という動機付けが弱くなる傾向がある。

地方ホテルに蓄積する“負の遺産”

以前、湯田中に温泉旅行に行ったことがある。すでに衰退しているのだろう。外国人どころか日本人も見かけない。廃屋とかした旅館が「幽霊屋敷」のような様相を醸し出しており。これを放置することに呆れたことを思い出す。

こうした廃屋の問題はここだけではない。記憶にある限り、最初に話題になったのは鬼怒川だったと思う。最近、まだ問題が解決していなかったのかと再認識した記事を見た。

アスベスト飛散など危険も…温泉街の“負の遺産”が観光スポット化 “廃ホテル”にユーチューバーなど相次ぎ無断侵入 栃木・日光市鬼怒川 2025年3月29日

>栃木県日光市で人気の鬼怒川温泉にある“廃ホテル”が、“観光スポット化”で影を落としている。アスベスト飛散など危険性もあることから、市が立ち入り禁止にしているが、ユーチューバーらによる無断侵入が相次いでいる。

私が住む地から鬼怒川はアクセスは悪くなく、浅草からは直通電車もある。にも関わらず、それほどの知名度はないのではないか。一つの問題としては、外国人旅行客が三大都市圏を拠点としている場合、アクセスルートは「(新幹線を含む)JR」になり、日光に比べてわかりにくいのではないかと思う。また、日光などと違い知名度も低いこともあり衰退することになる。

したがって、インバウンドで恩恵を受けていない観光地は、そのまま何もしなければ衰退を止めることができないということになる。

解決に向けた仕組みと課題

以前、鬼怒川の廃屋問題がクローズアップされた際に地元のホテルの女将が「自分のホテルではないのになぜウチがお金を出さないといけないのか」と答えていたことが印象的だった。もちろん、廃屋となったホテルは所有者がいるはずだが実際は「夜逃げ」して所在もわからない。また、そうしたホテルは金融機関や不動産業者が抵当権を持ち権利関係も複雑化している。したがって、ここの関係者だけでなんとかなる問題でないことは理解できる。

法整備と負担の分散が求められ、その試みもいくつか見ることができる。

参考になりそうな記事を2つ挙げておく。

放置の廃旅館、撤去に補助 地域再生へ跡地活用―観光庁検討 2025年11月08日

>観光庁は、温泉地などで長年放置されている廃旅館の撤去を支援する制度を2026年度に創設する検討に入った。事業者が跡地を活用することを条件に費用の一部を補助する方向。廃旅館は倒壊の危険があるほか、観光地の魅力向上の足かせとなっている。撤去を後押しすることで、地域再生につなげる考え。

温泉の空き旅館・ホテル解体へ、会津若松市が入湯税引き上げ…150円から350円に 2025/09/30

>両温泉は合計で年間約70万人が訪れる人気の観光地。しかし、一部の空き旅館・ホテルは老朽化し、景観の悪化が課題となっている。中には20年以上使用されず、壁がはがれたり、ガラスが割れたりしたまま放置され、廃虚化した大型の建物もある。

>両温泉の観光協会と市は2023年2月、空き旅館・ホテルの解体、撤去などの景観整備事業を盛り込んだ計画をまとめた。ただ、大型建物の解体、撤去には1棟あたり1億円以上の費用が見込まれ、民間だけでは対応が難しいとされる。官民一体で事業を進めるため、市は24年12月、税条例を改正して入湯税の引き上げを決めた。期間は25年10月~35年9月で、増額分の200円はすべて基金に積み立てて、事業計画の支援に生かす方針だ。

とはいえ、当該温泉への訪問客数を上げなければ衰退を止めることができず、新たな廃屋を作るだけである。環境戦略を練り直す必要がある。例えば、伊東などは従来の大企業の保養地ではなく家族連れ・ファミリー層向けにホテルのリニューアルや環境情報の展開をしたと聞く。

訪日外国人向けであるかどうかはともかく、顧客層の焦点化、それに合わせた施設の再構築、訪問してからのアクセスの利便性向上、多言語対応、積極的なSNSがは心を組み合わせた観光戦略が必要である。

といったことを、最初の記事からつらつらと思い出し感想めいたものを記す。

以上