差別化される世界(ワーカー、クラフター、リコンテクスター

差別化される世界(ワーカー、クラフター、リコンテクスター)

文責:中野康範

分野:経営戦略

作成:2026/1/15

この資料は、分析的なものでも何かの提言を行うものではない。

「働き方」や「価値創造」という視点で社会を眺めた時に感じたことを書いたものになる。

◆ 言葉について

  • ワーカー:ホワイトカラー、ブルーカラーと云った会社組織に所属するひとだけでなく、技能を持って個人として活動する人たち(また、エッセンシャルワーカー)を含む。
  • クラフター:職人という言葉に代表されるように他では代替できない個人の力量で活動している人を指す。
  • リコンテクスター:既存事業の再編などを含めて、新たな価値創造を目指す人達を指す。

こうした区分の対比は、ドラッガーの「石工の寓話」に対比して考えている。

  • 1人目の石工: 「これで食べている」

→ 目先の利益や生活のためだけの仕事。動機が経済的なものになる。

  • 2人目の石工: 「国で一番の仕事をしている」/「腕の良い仕事をしている」

→ 自分の技術や仕事の質に誇りを持つ。アウトプットの質の向上が関心事になる。

  • 3人目の石工: 「教会を建てている」

→ 共通の目標(教会建設)に貢献していると認識。仕事の目的がより大きなものと結びつく。

  • 4人目の石工: 「皆の心のよりどころを作っている」

→ 建物(教会)が人々に与える意味や価値(心の拠り所、信仰)まで見据え、使命感を持って仕事に取り組む。

注意してほしいのだが、私は「どれが優れている」ということを論じるつもりはない。それぞれの立場は合理的であり、非難されるいわれはない。しかし、その立場で仕事をするということのリスクや新たな機会の創出については知っておいてほしい。

◆ ワーカー(ブルーカラービリオネア)

米国で「ブルーカラービリオネア」現象 AI発展で潤う肉体労働者 2025年11月2日という記事の中で「「音響装置の修理技師がポルシェに乗ってやって来たよ」。弁護士の友人が苦笑する。マンハッタンの自宅アパートの天井や壁に取り付けたオーディオシステムが故障して修理に来た技術者は数千ドルの修理代を請求した。」という下りがある。まるでこれだけを聞けば、ブルーカラーに億万長者への道がひらけたように錯覚する。

しかし、「ブルーカラービリオネア」の定義は以下のようだと聞く。

「ブルーカラー・ビリオネア(Blue-Collar Billionaires)」とは、伝統的に「ブルーカラー」とされる現場仕事や肉体労働を伴う産業(建設、廃棄物処理、製造、運送、農業など)で巨万の富を築いた実業家を指す言葉です。 ITや金融といった「ホワイトカラー」の華やかな成功者とは対照的な、以下の特徴を持つ人々を指すことが多いです。

その主な特徴は

・ 叩き上げの成功者: 現場の作業員からスタートし、自ら会社を立ち上げて規模を拡大させたケースがほとんど。

・ 地味だが不可欠な業界: 派手さはないが、社会インフラとして欠かせない「エッセンシャル」な事業(例:ゴミ収集、道路舗装、トラック運送)を専門。

・ 実利主義: 最新のテクノロジーそのものよりも、現場の効率化や確実な収益性を重視。

少しわかりにくいが、「ブルーカラー」という対象に対してスケール化を図り利益を生み出す組織構造を作り、そこから富を得る人々のことを指す。決して「ブルーカラー」自体の高所得化を指す言葉ではない。

したがって、タクシー運転手は収入4割増 「ブルーカラービリオネア」日本では? 2026年1月10日などに記載されるように単純な「ブルーカラー」の高所得化には繋がらない。

重要な論点なので引用する。

厚生労働省の賃金構造基本統計調査で所定内給与を比較した。伸び率が顕著なのが「タクシー運転者」で40%増えた。とび職・鉄筋工・型枠工など「建設軀体工事従事者」は18%増え、事務職を含む全体平均(7%増)の伸びを上回った。一方で警備員(3%増)や板金従事者(1%減)は平均を下回った。

ブルーカラーはスキルが認められれば高収入を得やすいとあって海外で見直し機運が高まっている。日本でも建設工事現場で働くとび職や鉄筋工、型枠工など一部の技能職で賃金が上がり始めたが、タクシー運転手などを除いて人材流出に歯止めがかからない。違いは入職後に持続的に高年収を得られる「夢」を描きにくいことだ。

多くの業種での専門職は業種感での移動は難しい。鳶職は同じ鳶職になるだろうし、看護師は同じ看護職につくだろう。したがって、人財の取り合いになり賃金を手当できるところに人財が流れてゆく。必ずしも、仕事の評価価値が上がったわけではなく需要と供給の差である。

また、タクシー運転手などの報酬が上がっているということにも注意が必要だ。NAVIの浸透で道を知らなくても良くなっていること、ライドシェアに合わせて免許制度が緩やかになること、いずれ自動運転が標準になることなどを考えると、かならずしも「運転技術」がタクシードライバーの価値にならないこともある。

AIが及ぼす影響も配慮しておく必要がある。[1]

同じ記事の中に、下記が指摘されている。

可視化は製造現場でも遅れ、金属工作機械作業や板金の従事者は所定内給与の伸びが乏しい。製造業向け派遣大手UTグループの外村学社長は「現場の技術者は経験やスキルの習熟度が給与など処遇に反映されづらい。適切な評価制度が必要だ」と話す。

現在は、特定の業種(特にIT系)での転職サイトでしか「自身の評価の価値の可視化」ができていないが、いずれブルーカラー全体での価値の可視化が進むだろう。その時に、そこに至るキャリアアップを設計できない「ワーカー」は、貧困のままである。

「言われたものを作るだけでは生き残れない」ということを考えるべきである。

「知識」と「技術」と「ヒューマンスキル」を身に着けたニュー・ブルーカラーへの道を探るべきである。

[1]「ブルーカラービリオネア」という幻想 迫るAI失業、中高年にも脅威

2025年11月16日

>米国で人工知能(AI)で代替できないブルーカラーの高額収入が注目され、職業訓練校への入学者が増えている。「ブルーカラービリオネア」を目指す動きだが、若者の雇用の受け皿になり得るかは不透明だ。AI普及による労働需給の緩みへの警戒が強まり、不安と混乱が広がり始めている。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN11CTZ0R11C25A1000000/

◆ クラフター(ナレッジクラフター)

◆◆ ものからコトへ

以前、NHKの探検ファクトリーという番組で石田製帽について知った。創業時は、一つ100円程度の価値しかなかったものをラグジュアリー化して、それを見の纏う豪華さを「価値」として再編した例であろう。

良い製品を作ることが当然前提であり、その上で「それを所有する」、「それを使う」、「それを身にまとう」などの、「モノ」そのものの価値に、「存在意義」という付加価値を生み出すことで活路を見出している。

同じ様に、「奄美大島の泥染め」の付加価値を扱ったものとして目を引いたものに、泥染めをデニムに適用して販路を拡大した例として奄美泥染ジーンズ【D1839】が挙げられるだろう。

「奄美大島の泥染め」については、美の壺、ブラタモリなどいくつかの番組でも取り上げられていたので知っている人も多いのではないだろうか。記憶になるが

  • 従来の販路では和服にしか展開できない
  • 和服以外にも適用できないかとTシャツやデニムなどの可能性をファッション関係に¥の企業に働きかけた
  • あらたな「おしゃれ」という意味づけをし直した。
  • 販路はコラボレーション先で行う

ここで、特徴的であったのは「自ら企画をする」、「ものづくりは最高品質を維持する」、「自分たちの領域と線引する」などだろうか。

これは「ものからコト」への重要な示唆になる。

◆◆ 事例としての弁当事業

ここでは「弁当事業」を取り上げてみよう。

旅の定番が消えていく…駅弁業者が「ピークの2割」に激減した深刻事情 2026年1月9日では

> もっとも多かった時代に約400社あった駅弁事業者は、2025年12月現在、約80社にまで減少している。実に、最盛期の5分の1だ。

>「駅弁市場は確実に縮小しています。理由のひとつは選択肢の多様化。今や駅構内で購入できる食べ物は駅弁だけではありません。コンビニ弁当や総菜、パンなど、さまざまな商品が手に入ります。また、技術の発達によって新幹線や在来線の移動時間が短縮され、旅の目的地で食事をするニーズも高まっているようです」

とある。すこし実感と異なる。駅弁などはデパートや東京駅などのエキチカなどで常に競い合うように店舗を広げ、それなりに販路は拡大しているのだと思う。一方で、上記にあるように「駅弁」という食事以外にも多種の選択肢があり、また、「電車」の中で食べることにこだわらねば、選択肢が広い。

おそらくは、ここでいう「駅弁」は、ブランド化している駅弁を指し、例えば「峠の釜めし」や「崎陽軒のシュウマイ弁当」などを指すのだろう。定番と言える商品しか持たない企業は、今後の市場拡大は難しく、「イカ飯」などの地域の特産品も、大量生産ができるわけでもなく、売上も減少していると聞く。

多くの駅弁が、工場での一括生産であることも興を削ぐ。

駅弁が、大量生産(たとえばスーパーでも手に入る)であり「そこでしか食べることができない」特別なものでなくなっていることは、果たして市場の安定につながるかがわからない。その意味で、最初の記事のように「駅弁市場は確実に縮小しています。」は納得できる。

では、どうするかは簡単に出てくる話ではないが、「ものからコト」という発想の一例は「(高級感を押し出した)観光列車」であろう。観光列車は、「早く目的地につく」という機能性を犠牲にし、「窓の景色を楽し娯楽性」、「調度品を高級にした快適性」、「地元の食材を楽しめる特別な料理」という特性を持つという。ここでの「駅弁」も、「駅弁」という特別感を出すことで存在意義を高められるし、その駅弁を体現できる高級な雰囲気の飲食店の展開なども可能であろう。

それは、「食事を提供する」という機能性から、「豪華」、「美味しい」、「(そこでしか味わえない特別な料理による)場の雰囲気」という“場”の創造にシフトするコンセプトになる。当然、「圧倒的な美味しさ」が必要である。凡庸な駅弁に未来はない。

◆ リコンテクスター(事業の意味の問い直し)

事業を進めるためには前提条件があり、それに縛られた発想では先に進めない。

それを打破する発想の一例を、人材派遣業と調剤薬局について考えてみる。

◆◆ 人材派遣業

人材派遣業の倒産が健在化している。

2025年1-11月の「労働者派遣業」倒産 82件 通年では16年ぶりに90件台に乗せる可能性も 2025/12/24では下記指摘がある。

>1-11月の「労働者派遣業」倒産のうち、「人手不足」に起因する倒産は10件(前年同期4件)と2倍に増えた。労働者派遣業もまた、派遣スタッフの確保が厳しくなっている。 形態別では、破産が79件(構成比96.3%)と大半を占めた。人的・資金的リソースが乏しい労働者派遣業は、いったん経営が躓くと再建が難しくなっている。

いわゆる、弾である「人手」が揃えられない以上事業の継続は難しい。

ここでの発想、「ヒト」という経営資源を「移動させる(紹介する)」という「機能(もの)」だけに囚われ、なぜ「ヒト」が必要なのかという意味論(コト)を追求しないところにある。

例えば、下記の戦略を展開したらどうなるだろう。

・企業コンセプトを「技術者育成」として全面に出す。

・企業からは、現在あるいは未来に必要な技術の棚卸しを要請する

・従業員(あるいは就職希望者)は、身につけたい技術・資格を申請する

・企業は、資格取得・技術取得のロードマップを提示し、必ず取得させる支援を行う。

・顧客には、通常の技術者以上のスキルを保証し高額商品として提供する

当然、様々なコミットが前提となる。成果を出せなければ「違約金」が発生しても良いとすれば確実性が増すであろう。

これは、唐突に思いついた例ではない。かなり以前、こうしたビジネスモデルで成功を収めていた企業を知っている。同じような発想は色々なところでできる。

◆◆ 調剤薬局

調剤薬局は、基本は「処方箋」に従った薬を処方するが、その費用は法律で決まっており、むやみに安くはできないし、勝手に高額にできない。また、人手不足という点では「薬剤師」も同じであり、少ない人数で処理をしなければならず労働が過負荷になる。当然、待遇の良いところに移動し、奪い合いも起きるのであるから過当競争になり、倒産も加速化する。

「調剤薬局」の倒産が止まらない、過去最多の38件 大手は統合再編へ、小規模店は倒産が加速 2026/01/11

調剤薬局の再編やM&Aが相次ぐ背景には、深刻な薬剤師不足もある。大手が率先して賃金引上げなどの待遇改善に着手し、薬剤師の囲い込みが進んでいる。一方で、そのしわ寄せは中小の調剤薬局を直撃し、調剤薬局を取り巻く事業環境は大きな転換点を迎えつつある。

こうした状況に、「機能面」だけに目を向けた改善は「効率的な薬の提供メカニズム」という解決策になる。例えば、「自動調剤ロボット」(棚から薬を数えてかごに入れる)の導入、「集中配送センター」の共用という水平展開がある。もちろん「自動調剤ロボット」の導入にあたっては薬事法の制限や、薬の包装の差異による難しさはあるが、いずれ技術革新で解決できるだろう。

しかし、これでは調剤薬局は単なる薬の供給センターになってしまう。上記の人材派遣業のように、供給するものは「マンパワー」ではなく「テクノロジー」であるという発想であれば、

・病院にゆくのは「健康になりたい」という欲求を解消するためである。

・調剤薬局は、「健康」に関する相談ができる場所であるという考え方もある

・地元の人達が集まって、健康維持(未病)のための教室を開くという考え方もある。

・そこでは、体を動かすための指導、薬膳などの料理教室などの開催、

・あるいは乳幼児の離乳食、子供の不調に見分け方などを話し合うコミュニティ形成もできるだろう。

かつて、歯医者が「虫歯を治す」という立ち位置から「虫歯にならない」ようにすることで、その存在意義を高めた事例を見聞きした。「病気を治す」ではなく「病気にならない」をサービスにできないかを考えてはどうか。

◆ 居心地の良い場所からの脱出の覚悟(言われたものを作るだけでは生き残れない)

中小企業(零細企業)が、「ものからコトへ」と転換するためには、スケールへの拡大という方法論もある。それは、垂直統合にによる上流から下流をカバーする「仮想カンパニー」の創造であったり、水平統合による「規模の効率化」を目指す方向であったりする。制度的には企業協同組合もある。

もっとも、「ものからコトへ」という言葉はわかるものの、多くの中小企業にとっては絵に描いた餅にしか過ぎない。

・もともと特定企業の下請けとして起業した会社は、特定顧客のコントロール下に置かれ、価格決定力も生産調整もできない。

・金属加工などを含め、顧客から提示された設計図面で物を作るような業態では、最終顧客へのリーチができない。そもそも何を作っているかがわからない場合がある。

・工程が細分化された(分業化された)業態では、お互いの接点がない場合があり、市場コントロールはできない。一人親方などはその例になるだろうか。

・とりあえず、今の事業が継続しているので、自分の代では挑戦したくない。

ゆとりのない中小企業は、まずは心配事は常に事業の安定化になる。しかし、そのためにどうすればよいかを悩むだけであり、次の一手をどう考えるのかの手がかりがないというのが本音であろう。

とはいえ実は答えはそれほど難しくはない。

  • 言われたものを作るだけでは生き残れないと自覚すること
  • そのために、利益の一定程度を将来に向けた投資に回すこと

がその答えだと思っている。

私自身は「日本経営品質賞」の審査員をしていた時期があり、優れた企業とも接点があった。もちろん、最初からエクセレントと言える企業もあったが、いくつかの事例では、「ほとんど壊滅的な自体になり」、「追い込まれ」、「それでも新たな取組に資源を集中させた」というストーリーがあった。

今いるところが「居心地の良い場所」であり、そこからの脱出の覚悟がなければ、明日を迎えることは困難である。

以上