「走って、走って」と煽り続ける世界(高市内閣の経済支援と補助金の活用)
作成者:中野康範
作成日:2025/12/31
※なぜこのような「文書名」にしたかは最後まで読んでもらえればわかる。ただし、かなり長い文書なので少しづつ読んでもらって構わない。
下記コンテンツで構成されている。
1.序文 《倒産という新陳代謝と増え続ける投資意欲》
2.中小企業政策
3.補助金の趨勢
4.成長戦略
5.補助金の注意点
6.「雇わない生き方・雇われない生き方」
はじめに
小規模事業者を含め中小企業の経営は安定性がかける、というのが私の印象だ。
これは経営資源としての「ヒト・モノ・カネ」が潤沢にあるわけではなく、常に何かが不足した状況で経営を強いられるからだ。
そうした中で、2025年の高市内閣が成立させた経済対策とそこで示された中小企業に対する支援は福音になり得るのかを少し考えてみたい。
補助金というと「ものづくり補助金」を思い出す。「ものづくり補助金」は2012年ごろ、安倍政権下で始まった中小企業・小規模事業者の設備投資や生産性向上を支援する制度である。いまだリーマン・ショックの影響からんぬけ出せないでいる中小企業にとっては、何としてもすがりつきたい制度だったと思う。
守秘義務があるので詳しくは話せないが、私は20社近くの企業の補助金申請の手伝いをした。しかし、この「補助金」は”欲しい”といえば誰にでもくれるものでもない。また、補助金をもらっても利益を出さなければならない。注意が必要である。
そこで、このドキュメントは、実際に中小企業の補助金申請と取得に関わった経験から、中小企業の経営者が考えるべきポイントについて整理したい。
また整理の都合上、かなり多くの引用を行う。ある意味では「情報源」になりうるので利用してほしい。
1.序文 《倒産という新陳代謝と増え続ける投資意欲》
倒産
帝国データバンクのサイトを見ると、2025年の倒産件数について年間で1万件を超えるという。
>倒産件数は796件(前年同月834件、4.6%減)と6カ月ぶりに前年を下回った。2025年1-11月の累計は9380件となり、前年同期(9053件)を327件・3.6%上回った。このペースで推移すると、12年ぶりの年間1万件超えが見込まれる
もっとも負債総額を見るといわゆる「大型倒産(100億円を超える負債)」はあるものの、かつての「日本航空」のような世間を驚かす倒産はない。2025年は「FUNAI」が世間を騒がせたが、社会的な影響は限定的であっただろう。
一方で、日本の企業数は500万社(中小企業や小規模事業者が大半を締めている)ほどあり、そのうちの1万社の倒産は、望ましいかどうかはともかく健全な新陳代謝とも言える。
投資意欲
経営資源として「ヒト・モノ・カネ」が挙げられるのは、それがなければ経営活動ができないからである。ヒトの増強にしても設備の最新化にしても投資が必要である。
第176回 設備投資トレンドレポート(民間設備投資動向調査) 2025年9月調査によれば、企業の投資意欲については下記の指摘がある。
▶設備投資マインドは全体として旺盛さを維持している。建設投資は積極性を維持しつつも、先行きにかけてやや鈍化が見られる。機会設備投資は前向きな傾向が継続される見込みである。
▶投資額は年度当初計画から減額修正とする慎重な意向がある中、調達コストの高止まりの影響を踏まえつつ、必要性の高い建設・機会設備投資を着実に実施していると見られる。
濃淡はあるものの、堅調な投資が続いていると見ることができる。
資金調達
こうした投資を自己資本だけで賄えることは稀で、何らかの資金調達が必要になる。当然、安定した「資金調達」は必須であり、高性能の製造機械、新規出店、工場拡大にしても、大きな資金を調達しなければならない。
資金調達の選択肢は広がっている。
昭和の時代であれば、資金調達は「銀行」からの直接融資だった。中小企業であれば、ビジネスローンという物に手を出す企業もあったであろう。「銀行が晴れの日に傘を押し付け、雨の日に傘を取り上げる」ということはバブル崩壊後の「貸し剥がし」での経験からリスクを感じている経営者も多いと聞く。銀行融資には慎重になる。これに変わり、公的融資・補助金・助成金などが拡充されたことで、選択肢が広がっている。また、近年はベンチャーキャピタルや個人投資家などへのアプローチがしやすくなっている。クラウドファンディングなども一つの方法論であろう。まれに私募債の話を聞くし、M&Aによる資本力の増強も選択肢に上がっていると聞く。
選択肢が数多くあるなかで補助金は返済が不要ということで魅力的である。
資金調達の有効手段として考えるべきである。
その補助金は、どんな動きをしているのだろう。
これが、このドキュメントの主要テーマになる。
2.中小企業政策
このドキュメントの指摘事項に政府の行う中小企業対策は慈善事業ではないという物がある。では政府はどんな認識を持っているか。いくつかの行政文書(内閣府の発表資料や中小企業白書、その他の関連資料)から少し読み解いてみておこう。
日本経済レポート(2024年度)
漠然と「中小企業」というと曖昧になるが、以下のように定義づけされている。
- 製造業・建設業・運輸業など: 資本金3億円以下、または従業員300人以下。
- 卸売業: 資本金1億円以下、または従業員100人以下。
- サービス業: 資本金5千万円以下、または従業員100人以下。
- 小売業: 資本金5千万円以下、または従業員50人以下。
こうしてみると、資本金や従業員が幅が広く、卸売業・サービス業は5人以下、製造業・建設業などは20人以下は小規模事業者と区分けされていることから、同じ中小企業であっても「体力差」があることがわかる。
この体力差は資金調達やこれに伴う投資行動に差をもたらすことになる。
内閣府の日本経済レポート(2024年度)[2]から、これを示唆する部分を引用する。(一部中野が編集)
>・資金繰りの状況はコロナ語に回復してきているが製造御衣は相対的に低い。特に化学などの一部の製造業において、資金繰り判断DIが低下傾向にあり、業種間の差の拡大に影響している。
>・中小企業に目を向ける収益や売上などで上位と下位の格差の拡大が見られる。原材料コスト(商品仕入原価・材料費)については、総じて上昇がみられる一方、労務費・人件費については、労務費・人件費の下位企業では横ばい傾向で推移しているものの、労務費・人件費の上位・中位の企業では上昇し、企業間の差が顕著に拡大している。
すなわち
・大企業と中小企業で回復の差がある
・製造業は資金繰りや回復が相対的に弱い
・企業内部でも収益・費用構造で格差が拡大している
となり、結果として「政策としては単なる資金支援ではなく生産性向上支援が必要とされている」という認識で経済対策の方向性が決定されていると感じる。
中小企業白書
では、こうした中小企業のハンディキャップを解消するという方向で政策が展開されるのかといえばそんなことは無いだろう。
一般的に、政府が中小企業支援をするのは、下記の特徴を持つ中小企業の集合体が「社会的安定装置」になりうるからだ。
- 経済の基盤: 日本の全企業数の大半(約99.7%)を占め、国民生活に不可欠な財・サービスを提供。
- 雇用の担い手: 全従業員の約7割が中小企業で働いており、重要な雇用創出源。
- 経営の特徴: 経営者と現場の距離が近く、市場変化への対応が迅速で、多様な仕事に携わりやすい。
しかし、この99.7%をすべて「グローバル社会」での勝者になどできない。生き残れる企業にだけ支援をするという方向性になるだろう。では、どのような企業が対象なのだろう
2025年版中小企業白書を見ると、
多くの中小企業はまず帳簿管理や在庫管理のソフト導入、現場業務の一部自動化、オンライン商談への移行など、身近な業務のデジタル化から着手。こうした基礎的なIT活用の段階を経て、データ分析による業務改善やマーケティング高度化などDXの深化に取り組む企業も増え始めてる。とはいえ、デジタル技術でビジネスモデル自体を変革し競争力強化まで実現している企業はまだ一部にとどまり、真の意味でのDXを果たした中小企業は限られているのが現状。(注記:中野が一部編集。原文を参照のこと)
さて、ここから「支援ができる」中小企業は「真の意味でのDXを果たした中小企業」であることがわかる。生産性向上のためにIT活用の戦略を描けること、結果として高い確度で成長を約束できることが必須である。
これに該当しない企業は、現状維持のための活動にとどまるを得ず、それすら叶わないようであれば市場から退場するしか無い。事実、年間1万社もの廃業が出ると言う事は、そういうことである。
経済対策
行政の支援の方向性としてDXがキーワードになってきていることがわかる、
こうした状況を前提にして、高市政権の経済対策を見てみると、その方向性がわかってくる。
2025年11月に成立した高市早苗内閣での補正予算において中小企業の競争力を上げるための予算措置が含まれ、投資を促す記述が含まれており、中小企業にとっては投資のための資金調達に道筋が見える。[3]
様々な補助金に関連する記述が見られる。特に下記の記述は目を引く。
●業務改善助成金
最低賃金近傍(*)の中小企業が業務改善・設備投資をする場合、最大600万円を支援
*事業所内最低賃金が地域別最低賃金+50円以内の場合
●省力化のためのシステム構築及び設備投資を支援。
従業員規模に応じて上限最大8,000万円、補助率1/2 等
最低賃金近傍の従業員を抱える事業者 (※) については、補助率を 2/3 に引上げ 。
支援事例:高精度の素材加工設備導入、ドローン導入、受注管理アプリ開発、ビッグ>データ(POSデータ)分析サービス開発 等
※3か月以上地域別最低賃金+50円以内で雇用している従業員が全従業員の30%以上いる場合
先にも述べたが、「自らの成長戦略(確実な利益創出と従業員への還元を含む)を描けない」中小企業には支援の手を差し伸べることはない。漫然とした経営をしている企業はフェードアウトしても仕方がなく、グローバル競走のレースに出ることはできない。
中小企業の支援策は慈善事業ではないことを理解すべきである。
3.補助金の趨勢
IT導入補助金2025
こうした補助金の理解を促進できる事例がある。『IT導入補助金2025』である。[4]
この補助金は2023年から継続的に実施されており、「IT導入補助金2023」の採択件数は70,742件、「IT導入補助金2024」の採択件数は50,175件と、広く利用されていることがわかる。また業種別でも、建設業、卸売業、小売業など幅広いことがわかる。
特徴的な点があるので列記する。
① 補助対象
●ソフトウェア
ソフトウェア購入費、クラウド利用料(最大2年分)
●導入関連費(オプション)
機能拡張やデータ連携ツールの導入、セキュリティ対策実施に係る費用
●導入関連費(役務の提供)
導入・活用コンサルティング、導入設定・マニュアル作成・導入研修、保守サポートに係る費用
すなわち、IT投資に特化した補助金である。
② 業務プロセス
面白いのは補助率に関する下記の付帯事項である。
- ITツールの業務プロセスが1~3つまで:補助額5万円~150万円未満(補助率1/2以内)
- ITツールの業務プロセスが4つ以上:補助額150万円~450万円以下(補助率1/2以内)
すなわち、自社の「業務プロセス」の改善が対象である。したがって、自社の業務プロセスの可視化ができていなければ申請の枠組みを描けないことになる。すなわち、漫然と経営をしていただけの中小企業は除外である。
③ 費用対効果
さらに注記として下記がある。
- ※令和6年10月から令和7年9月の間で3か月以上、令和7年度改定の地域別最低賃金未満で雇用していた従業員数が全従業員の30%以上であることを示した場合は、補助率2/3以内。
- ※ITツールの業務領域が4つ以上の場合は、事業計画期間において、給与支給総額を年平均成長率1.5%以上増加させ、事業場内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上の水準にする賃金引上げ計画を策定し、従業員に表明していることが必要。
すなわち、利益を賃金として還元せよということである。
①生産性を上げること、
②その利益を従業員に還元すること
を求めている。実際、採択した企業の事例を見ると、成果を強調している事例が見られる。下記に引用する。
>⚫ データ管理も自動化されたため、手作業が一切不要となった上に発送件数も増え、人的ミスも解消され顧客数が増えました。
>⚫ 注文時のオペレーションが飛躍的に早くなり、お客様をお待たせすることがなくなりました。
補助金の特性が理解できるだろう。
### 補助金の拡大
かつての「ものづくり補助金」をさらに拡大させる動きがある。
例えば、高市内閣の令和7年度(2025年度)補正予算では「生活の安全保障・物価高への対応」「危機管理投資・成長投資による強い経済の実現」などを柱としており、中小企業支援策が盛り込まれている。その内容は、たしかに「積極的」であると言える。その一例を見てみよう。
① 大規模成長投資補助金:中小企業が新事業展開への挑戦や、生産性向上と人材確保(処遇改善)の両立に取り組むための支援策[5]
将来の売上高100億円を目指して、大胆な投資を進めようとする中小企業を支援する「中小企業成長加速化補助金」は、2025年度補正予算で拡充を予定しています。
とあり、賃上げへの貢献、輸出による外需獲得、域内の仕入による地域経済への波及効果が大きい売上高100億円超を目指す中小企業の大胆な投資を支援する補助金として期待される。大きな変革を狙う企業は注目して良い。
② デジタル化・AI導入補助金、2026年に公募開始へ ツール導入費も支援 2025.12.26 [6]
> デジタル化・AI導入補助金とは、業務の効率化やDXの推進、セキュリティ対策に向けたITツールやAIの導入費用を支援する補助金です。これまでのIT導入補助金に代わる補助金であり、補助額は1社あたり最大450万円で、補助率は1/2~4/5です。
とあり、比較的少額であるが、まだ十分にIT化が進められていない中小企業にとっては取り組みやすい分野になる。
4.成長戦略
こうした補助金に対峙するためには注が必要である。例えば、先の「デジタル化・AI導入補助金」には、下記のような説明が付帯事項にある。
> 通常枠は、業務効率化やDXなど生産性の向上に資するITツール(ソフトウェア、サービス)の導入費用を支援します。このほか、クラウド利用料を最大2年分補助し、保守運用等の導入関連費用も支援します。
注意しなければ行けないのは「業務効率化」とこれに伴う「生産性の向上」である。
では具体的な事例としてはどのようなものがあるのか。参考になるのは100億企業成長ポータルで示された実例であろう。
少しくどいが下記に引用する。(会社名は公開されているのでまま引用する)
- コーリョー建販株式会社(卸売業)
・主力製品の適用範囲を拡大し、設計・建築工事の省力化と施工性の向上、さらに労力の削減を提供。
・補強計算の共有システム構築により、補強計算対応の省人化と迅速な対応を実現可能にする
・工場の新設、製造ラインの自動化等の大規模な設備投資により製造量拡大
・開発中のプロジェクトの商品化・日々の開発強化
- 東和化工株式会社(製造業)
・新工場を建設する
・経営幹部候補人材の採用、及び育成
・最終商品に仕上げるための協力加工会社の選定
・既存の市場において新たな価値を提供することで、競争を避けながら成長を目指す
・展示会への出店や商社との協業による販売
- 株式会社NBM(飲食業)
・新規出店数の拡大促進
・競合店舗の商圏や人口のデータに基づく科学的な出店エリア選定の推進
・テストマーケティングを元に、店舗ブランド、地域に合わせた出店体制の確立
・全国レベルのブランディング、マーケティング展開へのSNS活用
・店⾧、エリアマネージャーといった人材採用と育成
- 株式会社山口製作所(製造業)
・エネルギー業界、航空・防衛業界、鉄構業界、土木・復興業界など、成長が見込まれる業界に経営資源を集中
・山口グループ各社で生産能力の増強に向けた設備投資
・製品およびサービスの低コスト化・短納期化に向けた、国内企業と海外子会社のDX連携
いずれも、企業の成長をどの様に実現するのかの具体的な道筋を手元に持っていることがわかる。
したがって、単に「設備が老朽化した」などという理由では補助金の申請は受け付けられないと考えるべきである。極端なことを言えば「今までにない何か(新規性)」を実現するために「投資が必要」であり、それは「企業としての躍進」が約束されることを保証できる企業にだけ「補助金」は手厚くしてくれるということである。
それ以外の中小企業は「門前払い」である。
5.補助金の注意点
### 「投資とはなにか」をわかっていないと見誤る
「投資」に対して異なる概念として使う言葉に「コスト」がある。
私は、コストは「なにかの生産物を生み出すものではなく、できれば節約したいもの」、投資は「それがなにか利益を生み出すもので、投入すればするほど成長を促すもの」と説明している。
消耗品(コピー用紙やインクなど)にもお金がかかる。これにかかる費用は「コスト」と呼び、投資ではないことがわかるだろう。この論で言えば品質を維持するための「原材料費」もコストだ。よく勘違いされるのは、「設備に使うお金はすべて投資である」である。老朽化した設備を交換するために資金を投入することは投資ではない。生き残るためのコストに近い。
「IT導入補助金2025」を取り上げた時に説明したが、補助金で支援するのは投資である。投資である以上
・企業の生産性向上、市場拡大
・結果としての利益拡大と賃金への還元
が求められる。その利益率の期待もありふれたものでは相手にされないだろう。補助金は一定の採用社数などの制限があるからだ。
今までの事業の延長線上を出ることのない老朽化した設備の更新やありきたりな事業戦略の展開では「コスト」の延長線上にしかいない。投資ではない資金の投入は行われない。投資とは何かを改めて経営者がシナリオとして描かなければならない。
行政はあくまでも企業体力の底上げや競争力回復につながる支援が必要という文脈で政策を考えていることを理解すべきである。
### プロセスの革新をシナリオに描くこと
一般的に中小企業を支援する補助金は、「中小企業・小規模事業者が直面する様々な制度変更(働き方改革、賃上げ、インボイス制度導入など)に対応し、革新的な新製品・新サービスの開発、試作品開発、生産プロセスの改善などを行うための設備投資を支援することを目的としています。」という説明がされる。
私がこれまで支援してきた企業において、この「革新的な新製品・新サービス」がアピールできない事業計画はまず採用されない。これは、ビジネスプロセスの再構築が要求される。
それは何を意味するのかといえば、新旧のプロセスを並列に並べ、「投資を行うことで」なにがどう変わるのかを見せることである。
例えば、「奄美の泥染め」のグローバル展開をしている事例を考えてみよう。
「ステュディオ・ダ・ルチザン」22~23年秋冬 奄美泥染め、草木染が好評 2022/06/07
> ジーンズカジュアルメーカー、ステュディオ・ダ・ルチザン・インターナショナル(大阪市)の「ステュディオ・ダ・ルチザン」22~23年秋冬物は、奄美泥染めや草木染を活用した提案を強める。国内、海外の販売先に好評なことから、充実する。
> 奄美泥染めは、奄美大島に自生する樹齢10~30年のテーチ木(車輪梅)の煮汁を使用。鉄分を多く含む泥田で何度も繰り返し染める染色法で、やさしく奥深い色に仕上がる。リラックス感のあるテーパードシルエットのジーンズをはじめ、ジャケット、ネルシャツ、トレーナーを3色展開で打ち出す。
奄美の泥染めを和服だけに限定した強度の地場産業でとどめていれば、市場も限られていただろう。これに対し和服以外にも活路を見出し、ビジネスパートナーとの協業に展開することで市場拡大につなげることができる。
(従来)
① 和服の染め物に限定
② 個人での家内工業
③ 限られた市場規模
(未来)
① 和服だけでなく、ジーンズ、ジャケット、シャツなどに展開
② グローバル展開する企業との連携
③ IT化により、顧客アプローチの強化と注文の先読みの実現
④ 生産体制を強化し、多品種生産の実現
⑤ 市場拡大の好循環の実現
というシナリを描ける。もちろん、高度な技術が必要であるし単純な大規模化はできないだろう。それでも、投資(IT投資によるCRMの強化、SCMの強化)が高い成果を生み出すことを示せなければ、補助金の獲得はできない。
プロセスチェーンへの理解
補助金の申請書作成の支援をしていた時に気がついたのだが、ほとんどの経営者、あるいは担当者はバリューチェーンを知らない。バリューチェーンはサプライチェーンとも言われ、製品が原材料の調達から製造、物流、販売を経て消費者に届くまでの一連の流れ(供給連鎖)を指し、この流れ全体に関わる企業やプロセスを包括する概念になる。
参考:サプライチェーンの構成要素と流れの例
原材料の調達: 農場や鉱山などから原材料を仕入れる。
製造・加工: 部品メーカーや工場で製品を組み立てる。
在庫管理: 各段階での在庫を適切に管理する。
物流・配送: 倉庫での保管、輸送を経て小売店へ。
販売: 小売店(コンビニなど)で消費者に提供される。
消費: 最終的に消費者が製品を手に入れる。
この「製造・加工」に着目した価値連鎖としてエンジニアリングチェーンがある。製造業において製品の企画・設計から生産準備、製造、保守までの一連の業務プロセスを指し、特に設計部門を中心とした「ものづくり」の上流工程のつながりを意味する。情報共有や連携を強化することで、品質向上、コスト削減、開発期間短縮を目指し、企業の競争力強化に繋がる。
参考:エンジニアリングチェーンの主な工程
企画: 市場調査、研究開発、商品企画など。
開発: 製品設計、工程設計、設備設計など。
生産準備: 生産ラインの立ち上げ、品質の作り込みなど。
製造: 実際の生産。
保守・アフターサービス: 製造後のサポート
自社の革新をどこで実現するかを明確化/言語化できなければ説得力のある説明をすることはできない。
「IT導入補助金2025」の説明の中での下記を配慮すべきである。
- ITツールの業務プロセスが1~3つまで:補助額5万円~150万円未満(補助率1/2以内)
- ITツールの業務プロセスが4つ以上:補助額150万円~450万円以下(補助率1/2以内)
原資は税金である
さて、補助金について少し注意が必要である。
それは、多くの補助金では成果を数字で示すことが求められる。それは売上であったり付加価値労働生産性出会ったりすることが多い。どれだけ儲かったかということである。なぜそのようなことを求めてくるのか?
一つは、補助金の原資が税金であることが原因と思っている。基本は、「政府は個人の資産形成には関与しない」という原則がある。したがって、老朽化した設備の交換は、その会社の資産を増やすだけであり、補助の対象としては適切ではない。たとえIT投資といえども維持管理のための投資は対象ではないと考えるべきである。当然、運転資金には使えない。(例外:持続化給付金)
また、補助金は全額補助されるわけではなく、また補助金が支払われるのは事業計画が予定通りに行われたときである。したがって、①一定程度の自己資金力(仮に金融機関からの借り家れであっても)が必要であること、②利益が上がりそうもない事業をでっち上げては破綻すること、に気を配わなければなければならない。
6.「雇わない生き方・雇われない生き方」
さて、ここからは政策論ではなく、私自身の価値観の話になる
DX化への強迫観念
2025年の崖という言葉がある。
ネットで検索すると
「2025年の崖」とは、経済産業省が2018年の「DXレポート」で指摘した、日本企業がレガシーシステム(複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システム)の問題を2025年までに解決しないと、年間最大12兆円の経済損失が生じ、デジタル競争で敗者になるリスクのこと。DX推進の遅れによる競争力低下や維持管理費の高騰が問題で、これを乗り越えるにはITシステムの刷新、データ活用、人材育成など、企業全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)が急務とされている。
と出てくる。しかし、デジタル庁の対応やガバメントクラウドの遅延などを見ていると、このDXが簡単でないことがわかる。こうした声に押されて中小企業でもDX化が急務とされているが本当なのだろうか?
先に示した「奄美の泥染め」なども、事業全体としてのDX化は必要かもしれないが、個々の業務、特に「泥染めの専業工房」にはIT投資化は不要であろう。IT投資が利益を生むわけではない。注文がFAXでだめな理由はない。
もちろん、IT化を否定するつもりはない。しかし、数百万円方始まる投資を「しなければならない」と時代に取り残されるような社会的風土に違和感を持つ。
成長をしないという選択肢
私自身は、20世紀最後の年に、IT関連のサービスを行うために起業した。もっとも、誰かを雇うつもりはなく、一人で活動できる範囲でやることを旨としていた。人的財産は自分だけである。もっとも、すべてを自分で賄うわけにはゆかないので「ビジネスパートナー」と業務分担をしていた。当然、パソコンやプリンター(当時はレーザープリンターで40万円ぐらいした)が必要であり、設立時の資金をこれに当てていた、したがって、「投資」らしきこともしていた。
ただし、事業拡大は目指しておらず、その時点での「価値のあるサービス提供」ができれば良いと考えていた。当然、安定性(そのための現状打破)は必要であり、そのための活動はしていたが、積極的ではなかった。
補助金があることがわかっていても。おそらくは私は活用しなかったであろう。
この選択肢が否定されることに違和感がある。
流行語大賞
西暦2000年になる前だった。マイクロ法人として起業した。その時に、市の職員と話をする機会があり、3つのお願いをされた。
1 永続してほしい
簡単にやめてほしくない。会社がずっとそこにあるということが地域の安心につながる。頻繁に会社が入れ替わることは地域の住民にとっても「また変わった」という不安を醸し出すことになる。
2 雇用を創出してほしい
会社が社員を雇ってくれると、雇用に安定につながる。なるべく会社を発展させ、働く場を作ってほしい。そうすれば、地域に税金が入ってくることになる。
3 誠実であってほしい
反社会的な勢力とは付き合わないでほしい。税金を誤魔かさないでほしい。地域の発展のためにお金を流してほしい。
誠実ではあったつもりではあるが、20数年で会社を解散し、従業員を雇うほど発展はさせられなかった。何が悪かったのだろう。
出発点が異なっていた。当時の私はダニエル・ピンク氏の「フリーエージェント社会の到来」に影響され「雇わない生き方、雇われない生き方」を表明していた。そもそも、企業として成長戦略を内包していなかった。
企業としては「スローライフ」な活動だったのだろう。
そうした生き方をしていると、今年の流行語大賞には違和感を覚える。
「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」
これが流行したか疑問ではあるが、多くの人に刺さった言葉なのだろう。
しかし、「生き残る」は重要かもしれないが、「走れ、走れ」とおいたてられる人生などまっぴらである。
政府が「グローバル社会での競争力強化を目指す企業」を支援する姿勢を否定はしない。しかし、それ以外の企業が生き残れるようなセーフティネットは準備してほしい。さもないと、脱落する企業が増え、社会が不安定化する。
「ゆっくり歩く企業」も使える補助金を望む。
以上
引用した情報源
[1] 第176回 設備投資トレンドレポート(民間設備投資動向調査) 2025年9月調査
[2] 内閣府の日本経済レポート(2024年度)
第3章 コロナ禍を経た企業の倒産・起業の動向(第1節)
https://www5.cao.go.jp/keizai3/2024/0212nk/n24_3_1.html
[3] 国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策
~全ての世代の現在・将来の賃金・所得を増やす~
2024年11月 内閣府特命担当大臣
https://www5.cao.go.jp/keizai1/keizaitaisaku/2024/1122_taisaku_file.pdf
[4] サービス等生産性向上IT導入支援事業 『IT導入補助金2025』の概要
令和7年10月 中小企業庁
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/yosan/r7/r6_it_summary.pdf
[5] 中小企業成長加速化補助金、拡充へ 採択結果から見る「100億企業」戦略
2025.12.24
中小機構の特設サイト[「100億企業成長ポータル」](https://growth-100-oku.smrj.go.jp/index.html)によると、中小企業成長加速化補助金とは、賃上げへの貢献、輸出による外需獲得、域内の仕入による地域経済への波及効果が大きい売上高100億円超を目指す中小企業の大胆な投資を支援する補助金です。
https://smbiz.asahi.com/article/16220983
[6] デジタル化・AI導入補助金、2026年に公募開始へ ツール導入費も支援
2025.12.26
https://smbiz.asahi.com/article/16252898