戦略人事:狭いパイの中で循環する人々(人材の争奪戦は改善しない)


■改善しない人手不足

出生率の低下による労働力人口の減少はすでに20年以上前から警鐘はならされていた。にもかかわらず何も対策を取ることもなく漫然と経営してきたツケは当然支払わなければならない。今の人手不足を認識することは悪いことではないが、人手不足への対策を怠ってきたのであるから、状況は好転しない。

○人手不足に対する企業の動向調査(2023年10月)
2023/11/14

人手不足が事業継続を揺るがす経営リスクとして顕在化しているなか、企業の人手不足の状況について調査を実施した。

正社員の人手不足企業の割合は52.1%となった。業種別ではインバウンド需要が好調な「旅館・ホテル」(75.6%)がトップとなり、エンジニア人材の不足が目立つ「情報サービス」も72.9%で続いた。また、2024年問題が懸念されている建設/物流業でも、それぞれ7割近くに達した

https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p231103.html

当然正社員でまかなえない戦力は非正規雇用、ギグワーカー、外国人労働者に頼るという選択肢を取る傾向があるが、訴訟を起こされるリスクなどがありコンプライアンス上のリスクも高く、問題解決の決定打にはならないだろう。

■リストラされた人々の行方

海外ではあるが昨年から今年にかけてIT企業でのリストラの記事が多く目につく。

○米イーベイが1000人削減、契約社員も削減へ
2024年1月24日

米電子商取引(EC)大手イーベイ(EBAY.O), opens new tabは23日、従業員の9%に当たる1000人程度の人員を削減すると発表した。
ジェイミー・イアンノーネ最高経営責任者(CEO)は文書で、従業員数と支出が業績の伸びを上回っているため、組織変更を行い、E2Eエクスペリエンスと世界の顧客ニーズへの対応を改善していくと説明した。

https://jp.reuters.com/business/technology/U3KARY6N6JP6LBF2IOF4CPJ4WY-2024-01-24/

○独SAP、全社的なリストラ計画を発表 従業員8000人対象
2024年1月24日

ドイツのソフトウエア大手SAP(SAPG.DE), opens new tabは23日、従業員約8000人を対象とする全社的な事業再編計画を発表した。併せて2024年通期の売上高見通しも示した。
事業再編は希望退職制度と社内のリスキリング(学び直し)措置を通じて進め、今年時点の従業員数は「現在に近い水準」だとした。

https://jp.reuters.com/markets/world-indices/Z52I56JY5BPHPBJPCKT3P2MVPI-2024-01-24/

こうした大手ITサービスグループ企業のリストラは一時的なものではなく事業の再編に伴い盛んに行なわれている。

○Microsoft、1万人削減を発表 テックの人員整理続く
2023年1月18日
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN183KM0Y3A110C2000000/

こうした大規模リストラは海外だけに限った話ではなく、日本の大手銀行でも話題になったことがある。また、事業の悪化に伴い、工場閉鎖などに伴うリストラもある。

では彼らはどこに行ってしまったのだろうか。
これは単なる憶測では在るが、
①新たな職種になるための訓練がされない限り同じ職種に向かう。
土木建設に従事していた人は、当然土木建築に向かう。
研究職は研究職に、営業職は営業職にと言うように移動コストが少ない方法を選択するだろう。
②収入が増える職種に移動する
賃金が安い単純労働者はより付加価値の高い職種を目指すであろう。
タクシー運転手、バスの運転手がより賃金の高い、あるいは労働条件の良い職種に移動してゆくであろう。

したがって、産業毎の労働者のパイは増えることはなく人手不足は当面解消されない。

■採用戦略の間違い

同じパイの中での人材の争奪戦であれば、従来の採用の戦術は効果はない。
すなわち、リクルート媒体への掲載、ハローワーク、高度人材を対象としたヘッドハンティング、高校・大学への形式的な訪問などの従来のやり方は功をそうしないのはいろいろな見聞で明らかである。

従来の方法は「来てください」あるいは「来てくれるなら来ても良いです」という思想がから抜け出せていない。kわれが「来たい」と思わせる魅力を創り出すことを戦略の最大の焦点にしていない。

来たいと思わせるためには、誰でもがアクセスできるように情報を整理して公開すべきである。

①安定性
会社の行く末が不安定では困る。最低限、財務状況は公開すべきである。これに合わせて離職率、中途採用率、事業戦略など経営に関わる情報も公開すべきである。正体の分からない会社には行かない。
②見返り
度処遇体系も公開すべきである。単に初任給を示すだけでは十分ではない。会社が考えるキャリアプラン、教育計画なども示さなければならない。自分はどういう扱いを受けるのかが分からないままでは、「とにかく頑張れ」と云われかねない不安がある。
③快適さ
ある建築土木の会社に行ったときに、女性の採用ができないと嘆いていた。当然だろう、こんな汚いトイレしかない会社に誰が行くか。油まみれで空調設備もない工場では皆すぐに辞めると嘆いていた。こんな劣悪な環境で誰が働くか。
社員食堂に力を入れている会社、工場の清掃に力を入れている会社、社員教育に力を入れている会社はそれだkで魅力が増す。何をアピールできるかを考えるべきである。

正解はない.時間をかけること、色々試してみることである。
現状打破はじっとしていても、相当の幸運がなければ解決しない。

人は循環するかもしれないがパイは増えない。
争奪戦に身を置く覚悟がいる。

(2024/01/27)