戦略人事:無視できない賃金カーブ(初任給の無思慮な賃金アップが生み出すもの)


■賃金カーブ

すでに時代遅れと言われている年功型賃金ではあるが、いまだに多くの企業の賃金は年齢が上がるとともにアップする年功型の賃金カーブを描いている。

マクロなデータであるが、製造業男子の年収(17で割った目安としての月例)を見てみよう。参考までに、5%アップした月例も→で示す。

・20-24歳 336万円(20万円) → 21万円
・25-29歳 408万円(24万円) → 25万円
・30-34歳 490万円(29万円) → 30万円
・35-39歳 570万円(34万円) → 36万円
・40-44歳 660万円(39万円) → 41万円
・45-49歳 712万円(42万円) → 44万円
・50-54歳 714万円(42万円) → 44万円
・55-59歳 686万円(40万円) → 41万円

https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/04/dl/s0418-3q.pdf より概算

経験的に、比較的恵まれた会社の給与水準と感覚的には一致する。
さて、ここで、初任給だけ5万も上げたらどうなるだろう。

■逆転現象を起こさないために

初任給だけ25万円にすると、前の年の新入社員と逆転を起こす。そのために、30歳までは通常よりアップさせて緩やかに賃金カーブを調整しなければならない。例えば
・25歳 25万円
・26歳 26万円
・27歳 26.5万円
・28歳 27万円
・29歳 28万円
これで、30歳までの水準に届く。
もっとも、新入社員を含む若手だけをアップさせると、中堅やベテランには不満だけが残るリスクが高い。

結果として、賃金カーブを上方向にシフトせざるを得ない。会社全体の賃金アップを図ると言うことになる。さもなければ、下記の記事のようなことが現実に起こりかねない。

○初任給を引き上げた結果、既存社員が次々と退職…「給与の逆転」を防ぐために会社がやるべきこと
2024.04.30

連合(日本労働組合総連合会)が発表した2024年春闘における平均賃上げ率は5.25%(3月21日第2回集計時点)で、30年ぶりの高い伸びを記録した2023年同期の賃上げ率3.76%を大幅に上回った。

少子化による人手不足の影響で、初任給を引き上げる企業が相次いでいる。その一方で、「既存社員の給与は現状のまま」という企業も少なくなく、社員のモチベーション低下や離職が問題になっている。

https://gendai.media/articles/-/128153

若手人材の確保のために新卒社員の獲得は重要ではあるが、人材の定着もまた重要である。その意味で、会社の戦力として成長した社員を失うことは新規人材を獲得できなかった以上にダメージが大きい。

そこで留意することは「初任給を引き上げる場合、給与制度を見直し、既存社員の給与も引き上げること」である。

(上記記事から引用)

■労務コストの抑制

2024年春闘では初任給のアップが騒がれた。しかし、業績の改善や生産性の向上がない中での賃金アップは人件費の負担だけが増えてゆく。そのために,若年層の賃金アップを高齢者の賃金抑制や、場合に寄っては早期退職の思索の中に取り入れることもあり得る。

賃金カーブはかつてはS字カーブを描くと言われていた。すなわち若年層では低く、中堅で一気に立ち上がり、ベテランになった時点で高止まりというカーブである。しかし、抗した年齢に依存したカーブは有名無実になり、若年層では低いのはそのままで、あまり立ち上がらずに緩やかに横ばいが続く賃金カーブになって久しい。これはおそらくは今後も続く。

企業は体面上は賃金アップを言うが、結果としては高齢者の賃金の削減と早期退職を組合わせ総額人件費を押さえ込まざるを得ない。

これは何を意味するのか。
①定年後の雇用延長には消極的になり、50歳以上(場合に寄っては40歳以上)の社員への早期退職が促される。
②ベテランで技術のある社員であるほど転職の道を探し出す。
③年齢ピラミッドがゆがみ、技術伝承が滞り、組織能力は低下する。
④若手は「社員を大切にしない会社」というイメージが強くなり、早期退職の道を探し出す。

人財を大切にすると言葉で言っていたとしても人事制度がそうでないならば口先だけの事だと簡単に見抜く。

労務コストと考えている限り解決策はない。ひとに対する投資と考えて戦略的に人事制度を整備しなければ何も解決しない。

戦略人事などと言うのはお題目ではない。
全体の整合性も配慮すること。

■おまけ

労務コストがどうなるのかと言うことは簡単なシミュレーションで可能である。
Excelに計算式を入れるだけで出来る。
賃金シミュレーションを行なうことに興味があり、やり方が分からないという人には代行サービスも考えている。

連絡してください。

(2024/05/05)