戦略人事:辞めさせるのは罪悪感はなく、辞めるのはとがめる無神経(組織論の変質)


■組織の類型

かつて組織の特性を測るのにいくつかの類型でパターン化する試みをしていたときがある。

(意思決定)
皆で話し合いながら決めてゆく、例えば家族的経営と、上意下達的にトップダウンで決める、例えば軍隊的な経営が代表としてあげられる。これは民主主義と権威主義の対比でも理解ができる。

(イノベーション)
挑戦的に新しいことに活路を見いだす組織、例えば革新を中核とする組織、今までの市場を確実に維持させてゆく組織、例えば伝統的な経営を中核とする組織と言った類型が出来るだろう。

(社員)
終身雇用を前提として、例えば年齢給を中核とした報酬制度を用いて安定した組織運営を目指す組織、一定の流動性を前衛としてダイナミックに人の入れ替えで組織の成長を促す経営といった特徴で考える組織運エなどがある。

これ以外にもいくつかの類型は可能であろう。
ただし、どれが正解かは考える必要は無い。向き不向きはあるだろうし、組織が人々の集合体である以上、自然とそれに見合う組織形態になるだろう。

もっとも、こうした組織運営では信念が必要であり、風見鶏よろしく右往左往することは働く人々を不安にさせ、組織能力を損ないかねない。

■ダイナミズムへのシフト

2023年の「ジョブ型雇用」で見えているのはVUCAの時代には、意思決定の速さやイノベーションの希求の強さが必須となり、伝統的な家族的な経営は、それと意識しなければ維持できないという現実であろう。それは、2024年も賃上げとともに加速している「人員削減」の波が現実を示している。

○「早期・希望退職者」募集は年間1万人超ペース 空前の賃上げの裏側で加速する構造改革
2024/04/24

 深刻化する人手不足やコストプッシュ型インフレによる賃金上昇が続くなか、上場企業は今後に備えた構造改革で固定費削減を目指し、人員削減のフェーズに突入しているようだ。
募集した企業の直近本決算(単体)では、黒字が12社(構成比57.1%)と半数以上を占めた。上場区分では、最多は東証プライムが11社(同52.3%)と半数を超えた。
目まぐるしく変化する経済環境のもと、上場企業は事業セグメントの見直しや祖業からの転換を迫られている。こうした動きを反映し、賃金上昇による固定費上昇を抑制するため、構造改革による「早期・希望退職者」募集をさらに加速する可能性が高い。

https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1198524_1527.html

かつて、「会社は誰のものか」という書籍の中で、株式会社という組織構造の中では、株主が会社の所有者であると言う論の中で、運営管理をしているのは経営者であり、しかし実際に働いているのは社員であるといういろいろな視点で、会社の所有について記載があった。また、企業は社会の公器である以上社会が所有者に名を連ねても当然であろうという意見も見た。

おそらくはどれも正しくはない。会社には「達成すべき目的」と「生存し続ける義務」があり、それ自体が意思決定者であり、所有者であろう。その組織が今求めているのは「ダイナミズム」である。

従って、組織構造の変化の中で必要なのは「優秀な人材」ではない。その時の組織に必要な人材である。それはマッチングだけが基準になる。

■勝手な新入社員への思い込み

新入社員がすぐに辞めるというニュースはセンセーショナルな部分があり耳目を集める。

○なぜ、すぐに「辞めます!」という新入社員が増えているのか
2024年04月12日

 「入社前に聞いていた話と全然違う 」――。そんな理由で、入社早々に会社を辞める新入社員が話題を集めています。

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2404/12/news022.html

しかし、マクロデータを見れば3年内離職率はここ20年でほとんど変わらない。
新入社員の離職率が高まっているというデータは見かけない。

そもそも、さっさと見切りを付けた若い人材が市場に出ることは他社にとっては望ましいはずである。「第二新卒」が望ましいのならば、「すぐに辞める新入社員」は望ましい社会現象である。

「忠誠心がない」などと間の抜けた発言はして欲しくない。
自分の会社の組織構造にマッチした人材だけを残し、それ以外はリストラという名前で早期退職などを促す。そうした会社への誠実な対応を社員に求めるというのは矛盾している。

自分は勝手に社員を切るのはOKで、社員が自分たちを見限るのはNGというのは恥ずかしい行為である。

(2024/05/04)