ISO9001と経営:不正の根源としての組織文化(形骸化する規格要求事項への懸念)
■連鎖する不正
○川崎重工業、潜水艦エンジンも不正の疑い 海上自衛隊向けで 2025年8月28日
川崎重工業が海上自衛隊の潜水艦用のエンジンで燃費性能の検査結果を改ざんしていた疑いがあることが28日わかった。2021年までに製造された潜水艦用エンジンの一部で、検査に不正があった可能性がある。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC28BRO0Y5A820C2000000/
24年8月に発覚した同社の船舶用エンジンの検査データの書き換え不正に関する調査の過程で明らかになったという。
これは、特定の製品の不正と言うことではなく、「一事が万事」になる恐れがあると言うことだ。思い出されることに、昨年の暮れのパナソニックの不正事件だろうか。
○ パナソニックインダストリー品質不正、計93件…企業統治に厳しい目 2024年12月05日
パナソニックインダストリーによる品質不正の例
「銅張積層板」
UL認証登録時の測定データを改竄
「フィルムキャパシター」
UL認証などの規格に充足しない製品を出荷
認証登録以外の材料を使った特殊サンプルを認証機関に提出
「封止材料や成形材料」」
検査成績書の改竄、ロット番号の改竄、規格未達品の出荷
「リレー」
品質評価試験で不合格でも量産・出荷、顧客への虚偽報告も不正はなぜ生じたのか。調査委員会の報告書は品質保証に対する理解不足や品質部門の機能が弱かったことなどを挙げている。組織風土の問題もある。従業員や管理職の間で不正の事実が伝わらない硬直した組織だった。坂本社長は「現場の困りごとや実態を経営側が十分に汲み上げられなかった」とする。
今回のトピックで取り上げるためのキーワードの一つは
「現場の困りごとや実態を経営側が十分に汲み上げられなかった」
であることを念頭に置きながら整理してゆこう。
■有名無実化される要求事項
ISO9001:2015という規格でも、あまり不適合の対象とされない要求事項がある。
5.1.2 顧客重視
トップマネジメントは,次の事項を確実にすることによって,顧客重視に関するリーダーシップ及びコミットメントを実証しなければならない。
a) 顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を明確にし,理解し,一貫してそれを満たしている。
b) 製品及びサービスの適合並びに顧客満足を向上させる能力に影響を与え得る,リスク及び機会を決定し,取り組んでいる。
c) 顧客満足向上の重視が維持されている
こうした要求事項に対し、胸をはって「イエス」と応えられるのかを自問して欲しい。
■懸念されるのは製品品質への不安ではない
○YKKAPの「防火建材」玄関扉で不正試験、大臣認定取り消し…マンションなど117棟に設置 2024/07/23
国土交通省は23日、建材大手YKKAP(東京)が製造し、防火建材として大臣認定を取得した集合住宅用の玄関扉について、製品と異なるサンプルで試験を受けたとして、認定を取り消したと発表した。
実際にはこの試験で、ガラス窓を固定する部分について、製品と異なる構造のサンプルが使われていたことが23~24年の同社の調査で判明。同社によると、当時の担当者は「試験を通過するため、防火性能を向上させた」と不正を認めた。
https://www.yomiuri.co.jp/national/20240723-OYT1T50161/
この記事の中で「問題の扉について、防火上のトラブルは起きていないという。」という一文がある。これは何を意味しているかを考える必要がある。
まるで、特定の製品だけの問題かのように扱うのは危険である。
もう一つのキーワードは
「問題の扉について、防火上のトラブルは起きていないという。」
である。
■不正の温床
(1)「問題の扉について、防火上のトラブルは起きていないという」
これは非常に危険な発想だ。経験的には以下の考えに至るリスクがある。
・問題が生きていないなら規格外の製品でも売って良い
・規格外の製品であることを隠蔽しても良い
・不良品発生の是正も未然防止もしない
・責任ある管理部門には報告しない(社内にも社外にも隠蔽する)
・バレるまで誰も知らない
○住宅軒裏材で不適合仕様 24都府県で930棟―住友林業 2024年12月25日
住友林業は25日、施工した住宅などの軒裏の仕様が国の認定基準に適合していなかったと発表した。
防火地域や準防火地域に指定されたエリアに求められている耐火性能を満たしていない軒裏材が使われていた。同社は、軒裏材を切り替えた際に成分の配合比率などの確認が不十分だったと説明している。11月中旬に仕入れ先からの情報提供を受けて発覚した。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024122500788
(2)「現場の困りごとや実態を経営側が十分に汲み上げられなかった」
社内の情報共有の欠落である。その原因は「上意下達」と「権力の独占」である。
大企業の起きがちであるが、「利益がすべての優先する」という考え方では、現場は、それ以外の情報をあげようとしなくなる。業績の悪化の兆し、顧客からの要望、現場で起きている不都合な事象(労働災害や下請法違反なども含む)は、経営者に伝えれば「責任」をとらされると思えば発信などはしない。
かつて「社長室」を設け、専用のエレベーターでしかアクセスできない部屋にふんぞり返っていた社長が「もっと社員の声を知りたい」と言っていたが、呆れてものが言えなかった。
待っていて社員の声や現場の声などは集まらない。社長自ら動かない組織に未来はないと考える。
また、必要な技術情報なども共有されないのであれば「しなくてはいけないこと」ができない恐れもある。
○パナソニック業務用エアコンがカタログ性能を満たさず 能力2割不足 2025年5月16日
パナソニックは16日、業務用エアコンの一部でカタログに書いてある性能を満たさない製品などを販売していたと発表した。2015年以降にホテルや病院などに販売した「冷暖フリー」シリーズの63機種2916台で、冷暖房能力が2割不足するなどしていた。JIS規格を使わず、独自の測定方法を用いていたことが原因という。《「制度の理解不足が原因」(担当者)としている。》
昨年12月に発表した「設備用床置タイプ」の性能不足の台数も、8機種668台から20機種1477台に増えた。《設計変更の際に必要な試験をしなかった》ことが原因という。
https://www.asahi.com/articles/AST5J2JQHT5JPLFA004M.html
■経営者の機能不全
大企業病の特徴には、次のようなものがある。
・自分の仕事だけにしか興味がない
・チャレンジする意欲がなく、現状維持を求める
・臨機応変に対応できない
・意思決定のスピードが遅くなる
・顧客ニーズより社内ニーズを優先する
・責任の所在がわからなくなる
・既決感疲弊症(過去の成功体験に固執するあまり、新しいアイデアを排除しようとする否定的な感情が蔓延する)
・マニュアルに固執しすぎて臨機応変な対応ができない
・社内で対立が生まれている(会社全体の利益を求めるのではなく、部署やチーム内の利益を優先してしまう)
これは、大企業だからと言うことではなく、そうした組織作りをしている経営者の資質の問題である。なぜならば、企業は、最終的には組織作りを経営者に委ねるからである。社員との共生を配慮せずに、「売上至上主義」、「権限の独占」にしか興味が無い企業経営は、いずれ「ビッグモーター事件」につながる。
もう一度下記の規格要求事項を思い出して欲しい。
5.1.2 顧客重視
トップマネジメントは,次の事項を確実にすることによって,顧客重視に関するリーダーシップ及びコミットメントを実証しなければならない。
a) 顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を明確にし,理解し,一貫してそれを満たしている。
b) 製品及びサービスの適合並びに顧客満足を向上させる能力に影響を与え得る,リスク及び機会を決定し,取り組んでいる。
c) 顧客満足向上の重視が維持されている。
これらのために経営者は何をすべきなのか?
単に他社の不正事件を「文化」という2文字で他人事に感じているなら、次はあなたの番である。
2025/09/04