■コラボーレティブ・インテリジェンス
「社畜」や「ブラック企業」という言葉がまだ存在するモノの、そうした集団の行く末がまとものモノとは思えない。心ある企業経営者であれば、ヒトがその能力を発揮してもらうような環境の構築に励むだろう。
ヒトが能力を発揮すると言う視点では、物量としての人間をかき集めても成果は出てこないことは明らかであり、「ヒトとヒトとの協働」、「ヒトとAiとの共創」が重要な論点になる。
そうしたことを表す言葉として「コラボーレティブ・インテリジェンス」という言葉がある。これは、一人や一つのシステムでは不可能な問題解決や創造を、複数の主体(人・組織・AIなど)が協力して達成する知的能力と定義される。使われる文脈としては
1.人間同士のコラボレーション
チームワークや組織知、集合知(collective intelligence)に近い
例:オープンソース開発、Wikipedia
2.人間とAIの協働
「AIに任せる」のではなく「AIをパートナーとして使う」発想
人間が直感・倫理・創造性を担い、AIがデータ処理・パターン抽出を担う
例:医療診断でAIが候補提示、人間が最終判断
であろうか。
こうした知的活動が組織価値を生み出すということを重視する企業の人的資源に対する戦略はどうなってゆくだろう。
■人的資源の量から質への転換
まずは企業の人的資源への認識の変化を見てゆこう。
最近、オラクルがクラウドインフラ部門で人員削減をしていると言う記事を見た。
○オラクル、クラウドインフラ部門で人員削減-関係者 2025年8月14日
米オラクルが、クラウド部門で人員削減を進めていることが分かった。人工知能(AI)への巨額投資が続く中、コスト抑制に動く企業が増えている。
多くのテクノロジー大手は、AI関連のコスト急増に対応するため、他部門での経費削減を進めている。マイクロソフトは今年に入り約1万5000人を削減。アマゾン・ドット・コムやメタ・プラットフォームズも人員削減に動いている。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-08-13/T0XW22GP9VD300
アマゾンやマイクロソフト、メタなども同様な人材の削減をしている。
これを単なる業績への弾力性確保の為のリストラと見ることは、事象の1面性しか見ていないことになる。すなわちコラボーレティブ・インテリジェンスの視点で見れば、人というパワーの量的な面ではなく質的な面に、その比重が変っていることが明らかであろう。
◎昔のモデル:
大規模プロジェクト → 人海戦術 → 「量」が力
◎今のモデル:
AI・自動化・クラウド基盤 → 少数精鋭でも巨大なスケールを回せる
→「量」ではなく「質的な協働」(人 × AI、人 × 異分野)が価値の源泉
と見ることができる。
つまり、人数削減は「協働知性」を否定するのではなく、「協働の仕組み」を効率化する動きとも解釈できる。「数の論理」から「知の論理」への転換といえる。
■経営戦略のあるべき姿
従って、経営戦略は「単なる人員調整」としてのリストラ以上の視野が求められる。
ヒトという経営の重要な要素に対しては
1.再配置(Reskilling & Redeployment)
AIに代替される単純作業 → 新しい役割(顧客対応、AI管理、倫理監視など)へ再配置
例:クラウド運用担当 → AI運用監督/顧客課題解決チームへ
2.拡大(Expansion of Value Creation)
余剰労力を新規事業・未開拓市場に振り向ける
「削減」ではなく「拡大」に転じることで協働知性が社会的にも正しく機能
3.共進化(Co-evolution)
「AIが成長するほど人の役割も進化する」関係を設計
従業員を“AIのライバル”にするのではなく、“AIの相棒”にする発想
などが重視されるべきである。
では、昨日まで単純作業を行なっていた人材を、突然再配置したからと言って能力が発揮できるわけではない。長期戦略が必要である。
価値創造企業というのであれば、今後の企業の成長を担保するR&D部門(あるいは同等の機能)を組織内保持するという宣言とその方向性で組織運営すると言うことを社員全員へ意識付けして、ふさわしい教育機会の提供が必須である。
例えば以下のようなナラティブが考えられる。
・研究開発部門だけでなく、従業員全体を“分散型R&D”に巻き込む
・そのためには、基礎的な科学・技術・経営知識をアップデートする必要がある
・特にAI、環境科学、データ分析、国際経済などは大学レベルの再教育が必須
■戦略人事としてアカデミックな教育の質の担保
では、宣言さえすればこれが実現されるかと言えば、そんなに甘いものではないだろう。
高度教育を受けた人材で組織能力を高めるという視点では、今までのような受け身での「採用」、「教育」、「配置」といった場面毎の付け焼き刃的な活動は意味をなさない。組織全体での最適化を進めなければならない。例えば、高度な教育という面でも
・企業内大学:社内アカデミー+外部大学との連携講座
・産学協同R&D研修:大学・研究機関のプロジェクトに社員を派遣
・マイクロディグリー制度:短期集中で大学レベルの認定を取得できる仕組み
・リカレント教育の社会基盤化:文科省や経産省も強化し始めている流れ
などの選択肢がある。こうした施策のミックスを考えても従来のような社内でのキャリアプランでは対応でき無いだろう。あらたな教育システムを作ることも人事部門の責任である。
これに対応できずに「戦略人事」を語って欲しくない。
2025/08/31