赤の女王仮説(ワークマンとワコールの未来を読む力)


■赤の女王仮説

「その場にとどまるためには全力で走り続けなければならない」という台詞は不思議の国のアリスのハートの女王の言葉であり、それを引用した「赤の女王仮説」は進化論の議論の中では比較的有名な話である。

「軍拡競争はなぜ起こるのか」などの解説にも使われるが、進化論では、「雌雄による生殖活動」の意味などを解説する論拠としても使われる。

ただし、私は「昨日と同じことを今日行なったとしても明日生き残れる保証はない」という文脈で説明することが多い。

それは、昨日まで何をしてきたのか、今日は何をするのか、その結果をどう受け止めて明日すべきことをどのように準備するのか。これを毎日繰り返さなければ、生き残ることが難しいと思っているからである。

■100%の成功はない

○なぜ「ワークマン離れ」が起きているのか…快進撃を支えてきた「カジュアル路線」に潜む意外なリスク
2023/11/15

4月~9月の半年間は、客単価が上がっているのに、客数(買い上げ客数)が減ったために、前年売上高実績に届かなかったということです。これはなかなか危険な兆候です。それだけ既存顧客が離れているということにほかならないからです。

https://president.jp/articles/-/75678

詳細は記事に委ねるが、注目する点を下記に示す。

「・カジュアル色を強めたことによる弊害
しかし、近年のカジュアル用途でのワークマン人気の盛り上がりによって各店舗にカジュアル客が押し寄せ、店内が混雑していたり、駐車場に車が止められなかったりということが増えました。また、カジュアル需要の急増によって品切れ・品薄状態も増えました。こうしたことが不満となって職人客離れが起きつつあるようです。」

もしこうしたことをワークマンの経営者が認識しているのであれば大作は難しくない。
店舗を増やすか、セグメント別の店舗構成にするかが考えられる。しかし、そもそも既存顧客への訴求が限界になってきたからファッション性やデザイン性の重視に切り替えたのではないかと思うと微妙である。

問題が混雑だとすると必ずしもマイナス要因にならない可能性もある。
たとえば、ChatGTPに訊ねると以下のような回答が示される。

一般的に、混んでいる店が嫌われるかどうかは、人それぞれの好みや状況に依存します。以下に、混雑した店が嫌われる可能性がある理由や、逆に好まれる理由を挙げてみましょう。

混雑した店が嫌われる理由:
待ち時間の増加: 混雑している店では、商品を選ぶだけでなく、支払いやチェックアウトの際に待つ時間が増加する可能性があります。忙しい人々にとっては、時間の節約が重要な要素となります。

快適なショッピング体験の妨げ: 混雑していると、商品を見る・触ることが難しくなり、ショッピング体験が損なわれる可能性があります。特に洗練された買い物環境を求める消費者にとっては、混雑は嫌われる要因となります。

ストレスや混乱: 多くの人が一度に集まると、混乱やストレスが発生しやすくなります。混雑によって、買い物の楽しさやリラックス感が損なわれることがあります。

混雑した店が好まれる理由:

人気の証拠: 一部の人々は、混雑している店が人気のある場所であると捉え、その商品やサービスが良いと思うことがあります。特にセールや特別なイベントが行われている場合、混雑は期待感を高めることがあります。

賑わいがある雰囲気: 人が多いことで賑わいがあり、活気が感じられる場所は、一部の人々にとっては好ましいと感じることがあります。ショッピングが社交的な体験となることが重視される場合、混雑は好意的に受け止められることがあります。
(ここまで)

したがて、混雑がどの階層に対してどのような満足/不満足なのかを確認する必要がある。
こうしたデータのフィードバックで課題は解決して行くだろう。

■価値観の変更

生き残るためには、自社の製品・サービスの顧客価値を再定義することも必要になる。「エスキモーに肉などを凍らせない道具としての冷蔵庫を販売」というのは極端な例としても、誰に何を売るのかを見直さなければ、対策が付け焼き刃になる恐れがある。

○老舗下着「創立以来の危機」…ワコールが〝痛みを伴う〟構造改革
2023年11月30日

「当社がこだわっていた胸の形をきれいに出せる造形性よりも、今は快適性が求められる。またタイムパフォーマンスが重視され、長い時間接客を受けたくない人もいる」と矢島社長が振り返るように、旧態依然としたビジネスモデルから抜け出せず、自社のサプライチェーン・マネジメント(SCM)の弱みが顕在化したと分析する。

今回見直した中計では、不採算店の撤退や商品の削減など“痛みを伴う”施策を織り込んだ。構造改革の中心となるのは売上高の半分を占める、中核子会社ワコールの事業。SCMやコスト構造などの改革を柱に早期に収益体質への転換を目指す。

https://newswitch.jp/p/39484

下着というのは普段見せるものではない。男性なので、どこまでこだわるかは難しいが、着心地がまずは優先される。また、冬場・夏場などでの汗の対策、寒さの対策などの機能性も重視する。おそらくは、女性であれば、スタイルなども重要であろう。「寄せてあげる」は私にはわからないが盛んにコマーシャルを打っていたことから女性には重要なのだろう。

価値観が「胸の形をきれいに出せる造形性よりも、今は快適性が求められる」のであれば、素材メーカーとの協業を模索すべきである。ユニクロのヒートテックは参考になる。

販売スタイルが問題であれば変えれば良い。

顧客が商品を求めるスタイルがファストファッションに移行していることはすでに久しい。ザラやH&Mが日本に上陸したときに知るべきである。

もちろん衣料メーカー全体の苦戦は、消費者の嗜好の変化、貿易や原材料価格の変動、労働力コストの上昇、また、新型コロナウイルス(COVID-19)などのパンデミックが小売業全体に影響を与え、需要や供給の変動が生じた可能性がある。

だからこそのフットワークが必要であり、先の記事のように事業の再編ではなく、ビジネスモデルの再編につなげなければ明日を迎えることはできない。

■明日を迎えるために

「その場にとどまるためには全力で走り続けなければならない」の前提は、「周りの景色が高速で変化する」からである。今うまくいったことも、何かしらの問題を抱えている。ちょっとした変化はいずれ大きな波として襲いかかってくる。こうしたことを軽視してはならない。

(2023/12/5)