障害者雇用を考える

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○ 障害者雇用は特別なことなのか

日本経営品質賞の審査をしている際に疑問に思うことがある。

審査の見方の一つに「社会的責任」もしくは「社会貢献」というものがある。

私自身が、会社を興す時に行政から三つのことを言われた。

① 稼いで税金を納めてほしい。節税などしないでほしい。

② 社員を雇用してほしい。地域の活性化に貢献してほしい。

③ 法律を守ってほしい。社会に安全を提供してほしい。

最低ラインの社会的責任や社会貢献はこの三つを満たすことだろうと思う。

なので「雇用」については「社会的責任」という範疇は理解できる。しかし「障害者雇用」はどう考えれば良いのだろう?

雇用を「健常者」と「障害者」に分ける意味は何だろうか。

企業が生産性の向上を求め、利益の算出が義務づけられている以上、障がい者と共に働くこと自体が生産性の低下に繋がるのではないかという懸念があること自体は理解できる。そのため、何の戦略上の工夫もなく障害者雇用といっても企業が躊躇することになるだろう。

注意しなくてはいけないのは、個々人を「生産性」の対象としないコトだ。

あくまでも、生産性は「モノ」に対して使うべきであり、その生産性を支えるモノとしてヒトがいるという発想に立つ必要がある。

従って、施策の展開には少なくとも、下記の配慮が必要になる。

・働く人には、個々人に特性があることを組織全体で理解をすること

・働く人の特性に応じて、勤務時間、働く場所(サテライトオフィスを含む)、業務範囲を設計すること。

・働く人の特性に応じて、職務分担やバックアップ体制を構築すること

・人それぞれには特性があるので、その特性を活かすことで生産性の向上や付加価値の高度化ができるという認識を組織全体で持つこと

さて、こうして列記すると、最近の社会問題としての、少子高齢化特に肯定者雇用、外国人雇用を含むグローバル化、結婚・出産・子育てなどでハンディキャップを持つ女性活躍も同じ範疇であることがわかる。

障害者雇用という視点でしか人事戦略を見直せない企業自体に問題があると考える。

 

○ 本来目指すべき人事施策としての「ユニバーサルデザイン」

こうした問題を解決するヒントとしては「ユニバーサルデザイン」がある。

ユニバーサルデザインは、障害者だったロナルド・メイス氏が、バリアフリー対応設備の「障害者だけの特別扱い」に嫌気がさして、最初から多くの方に使いやすいものを作る設計手法として発明され、一方、バリアフリーは障害者・高齢者などの生活弱者のために、生活に障害となる物理的な障壁の削除を行うという、過去の反省に立った考え方で進化してきたと云われている。

結果として同じものであっても、最初の設計段階から配慮するという考え方になる。

そういう意味で、新たな障害者雇用ではなく、最初から障害者という区分にならない人事制度を考えるべきだろう。

 

参考:バリアフリーとユニバーサルデザインの比較

http://ud-shizuoka.jp/ubpla/bfud_chigai.html

 

  種 類 思想・発想 普及スタイル 対象者
ハード
整 備
ユニバーサル
デザイン
多くの方に
使いやすい
デザイン手法
良いものを褒めたたえ
推奨する
【民間主導型】
すべての人
バリアフリー 高齢者・障害者の
使いやすい街に変化
施設の計画に
規制する事で普及
【行政指導型】
高齢者
障害者等
ソフト
整 備
心の
ユニバーサル
デザイン
心のやさしさや
思いやり
啓 発
教 育
すべての人
心の
バリアフリー

 

さて、「ユニバーサルデザインとしての人事制度」という側面で配慮すべき事項は以下の通りとなる。

・就業規則

勤務時間(出社義務)などについて、原則と個別事情の配慮を含めなくてはならないだろう。一律に、9時~5時という考え方を変える必要がある。すでにあるコアタイム制やフレックスタイム制を拡張するという方法もある。

・有給休暇

個別に事情を配慮して、日数ではなく時間数で設定する必要もある。

給与体系も、時間数で支払うという選択肢もあるが、あまり現実的ではない。

・資格等級と給与

理念としての資格等級制度は理解できるが、実態としては年齢給になっている。

個々人の多様性を前提にした時に、年齢や勤続年数に左右される一律の給与体系は時代にそぐわない。また、個々人の貢献度合いに応じた給与体系も、本人がそれを望むならばともかく組織側が強制するものではない。

したがって、資格等級を廃止するとは云わないまでも、給与は働き方で支払われるようなデザインにする必要がある。

・賞与

何かしらのハンディキャップを持った人たちで成果を出すのであれば、その成果の出所を個々人に求めることは避けるべきだ。理由は簡単で、評価を公正にはできないことにある。だれも成果と個人の行動の因果関係を特定する能力を持たない。

その会社が成果を出しているとしたら、皆が等しく貢献しているコトになる。

かつて、NASAで掃除している人に「何をしているんですか?」と聞いた時に「私は掃除をすることで、人類を月に送ることに貢献している」と答えたという逸話がある。

貢献していない人などいないのであれば、成果を個人の活動に紐付けるのはやめた方が良い。

・採用

人が誰でも、その特性に応じて異なった能力を持っているという前提で考えるのであれば、一律の採用基準は見直した方が良い。

組織の、要員構成を維持するための枠組みを考えるべきだろう。

だれでも試験の点数が良ければ採用するという基準は組織構成をゆがめる。

最近のトレンドとしては「我が社を好きになってくれるか」「一緒に働きたいと決心してくれるか」など、能力ではなく相性で見る例が指摘されている。

・ローテーション

個々人の特性が多様化するなら「適材適所」は簡単には決まらない。

能力発揮できるように、適所を探してあげる必要がある。

判断基準も「能力発揮」でなくとも良いかもしれない。「長く働いてくれる」「楽しく働いてくれる」という基準でも良いだろう。

・能力開発

適所が見つかった後で、より生産性を上げてもらうため、もしくは新しい発想で新たな価値を生み出してもらうために、現状では不足しているものを補う必要がある。

プロセスに必要な「知識」「技術」「士気」について刺激する施策が必要だろう。

単に「階層別研修」だけでは何も生み出さない。

・福利厚生

健常者だけを想定した福利厚生では不十分であろう。

社外の施設に関しては、ユニバーサルデザイン・バリアフリーを求める必要がある。

社内の設備でも同じだろう。

何らかの理由で高等教育を受けられなかった人たちへの支援も必要かもしれない。

高卒の人々に大卒並みの知見を求めても良い。

家族への支援もある。子育てなどもその顕著なものになる。

身体的な問題で出社にハンディキャップがある人に、障害者向け自動車の貸し出しなども考えられる。

ダイバシティ発想の福利厚生を考える必要がある。

 

さて、こうしたコトに「できない理由」を探すのはやめよう。

「するために解決しなければいけないこと」を探そう。

 

○ 当面の問題:維持なのか増やすのか?

さて、障害者雇用に目を向けてみよう。

法律上、障害者雇用は義務づけられている。

さらに「働き改革」の一環として、法定雇用率が現在の2.0%から、2018年4月から2.2%、2021年には2.3%に引き上げられる。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaisha/04.html

また、障害者の範囲は「身体障害者・知的障害者・精神障害者」であることも注意すべきでろう。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page10.html

 

さて、雇用率が2.0%というのは、従業員、100人に対して2人。500人規模で10人となる。障害者の離職率はわからないが、あまり高くないとしたら、定期的に数人雇用すればすむことになる。

通常の採用プロセスに入れようとすると、仮に、新卒者が10人程度であれば専用の枠を設けることはできない。

いきおい、雇用率を維持するためだけの採用プロセスにならざるを得ない。

これは望ましいことなのだろうか。

「彼・彼女にしかできない仕事」という発想がなければ、障害者は在庫管理すべき「モノ」に成り下がってしまう。戦略上、「彼らの能力でなければできない領域」を設定してから「何人必要」という要員計画の上で考えるべきだろう。

例えば、「障害者に使いやすい製品」「普通にあるものをITで使いやすくするバリアフリー製品」の開発・企画などもありうる。

雇用率は維持すべきモノではなく、あるべき雇用率に企業が再設定して、そこに向かうべきだろう。

 

真面目に考えているかどうかはともかく、政府も「働き方改革」といっている以上、単なる名目上の数字ではなく、誰でもが働きたいと思った時に働けることを目的にすべきだろう。雇用率は最低ラインとみるべきだ。

 

○ 「働き方改革」は戦略的に考えるための指針になるのか

では、その働き方改革の中で、「障害者雇用」についてはどのように取り上げられているのか。 首相官邸のホームページを見てみよう。

(http://www.kantei.go.jp/jp/headline/ichiokusoukatsuyaku/hatarakikata.html)

 

その中の「」では下記を骨子としてあげている。

・同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善

・賃金引き上げと労働生産性向上

・罰則付き時間外労働の上限規制の導入など長時間労働の是正

・柔軟な働き方がしやすい環境整備

・女性・若者の人材育成など活躍しやすい環境整備

・病気の治療と仕事の両立

・子育て・介護等と仕事の両立、障害者の就労

・雇用吸収力、付加価値の高い産業への転職・再就職支援

・誰にでもチャンスのある教育環境の整備

・高齢者の就業促進

・外国人材の受け入れ

 

障害者の記述については、本ドキュメントの主題であるので、ままを転載する。

 

(2)障害者等の希望や能力を活かした就労支援の推進

障害者等に対する就労支援を推進するにあたっては、時間、空間の制約を乗り越えて、障害者の意欲や能力に応じた仕事を提供するなど、障害者等が希望や能力、適性を十分に活かし、障害の特性等に応じて活躍できることが普通の社会、障害者と共に働くことが当たり前の社会を目指していく必要がある。

近年、障害者の雇用環境は改善してきているが、依然として雇用義務のある企業の約3割が障害者雇用ゼロとなっているほか、経営トップを含む社内理解や作業内容の改善等にも課題が残されている。また、就労に向けた関係行政機関等の更なる連携も求められている状況にある。

このため、2018 年4月より法定雇用率を引き上げるとともに、障害者雇用ゼロ企業が障害者の受入れを進めるため、実習での受入れ支援や、障害者雇用に関するノウハウを付与する研修の受講を進めるほか、障害者雇用に知見のある企業OB 等の紹介・派遣を行う。

また、発達障害やその可能性のある方も含め、障害の特性に応じて一貫した修学・就労支援を行えるよう、教育委員会・大学、福祉・保健・医療・労働等関係行政機関と企業が連携する体制を構築する。

さらに、障害者の在宅就業等を促進するため、在宅就業障害者に仕事を発注した企業に特例調整金等を支給する制度の活用促進を図るとともに、ICTの活用を進め、仲介事業のモデル構築や、優良な仲介事業の見える化を支援する。

加えて、障害者の職業生活の改善を図るための最新技術を活用した補装具の普及を図るとともに、農業に取り組む障害者就労施設に対する6次産業化支援など、農福連携による障害者の就労支援について、全都道府県での実施を目指す。

今後、多様な障害特性に対応した障害者雇用の促進、職場定着支援を進めるため、有識者による会議の場を設置し、障害者雇用に係る制度の在り方について幅広く検討を行う。

(働き方改革実行計画 平成29年3月28日 P23,3より)

 

上記で「障害者と共に働くことが当たり前の社会」という記述がある。

社会を見渡した時に、何かしらのハンディキャップがある人々が普通に生活できることが当たり前の社会にする必要がある。

そのための環境整備は、単に「雇用率」の確保だけでなく、いろいろな視点が必要になる。例えば、「在宅就労」などもその一つになる。

 

「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」なども参考となる。

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-syokuan_480542.html

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_00679.html

 

障害者雇用の現状について「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会 報告書」では以下の記載がある。

直近(平成29 年6 月時点)の民間企業(常用労働者50 人以上に限る。)における障害者雇用者数は49.6 万人と、14 年連続で過去最高を更新し、法定雇用義務達成企業の割合も19 年ぶりに50.0%に到達する等、いわゆる雇用の量的側面については着実な進展が見られる状況にある。民間企業全体の実雇用率は1.97%と、平成29 年時の法定雇用率(2.0%)に迫る勢いであったが、特に常用労働者が1,000 人以上の企業における実雇用率は2.16%と、法定雇用率を大きく上回っていた。

参考:平成29年 障害者雇用状況の集計結果

(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000187661.html)

<民間企業>(法定雇用率2.0%)

○雇用障害者数、実雇用率ともに過去最高を更新。

・雇用障害者数は 49 万5,795.0 人、対 前年4.5%(2万1,421.0人)増加

・ 実雇用率1.97%、対前年比0.05ポイント上昇

○法定雇用率達成企業の割合は 50.0%(対前年比1.2ポイント上昇)

障害者雇用に対する意識は高まっているものの、やっと法定雇用率に達するかどうかの水準であり、今後の社会要請の変化に応じて、より一層の取り組みが求められるだろう。

その時、企業は単に法律の枠内で済ませれば良いというスタンスが企業責任を果たしているかを考えるべきだろう。

 

○ 企業の責任

最初の疑問。「障害者の法定雇用率を満たしていれば、社会的責任を果たしているのか」

答えはYESだろう。

しかし、社会から尊敬されるためには、雇用の質も高める必要がある。

「障害者だからこのぐらいの仕事で良いだろう」という発想では不十分だ。

「彼・彼女にしかできない仕事」を見つけ出し、リスペクトを勝ち取れる必要がある。

 

以上

 

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