■ テレワークがもたらすパンドラの箱

先日、LINEによる厚生労働省の調査があり、その結果が報告された。

テレワーク実行5% 厚労省LINEに2400万人回答
https://www.asahi.com/articles/ASN4472L7N44UBQU001.html

「「仕事はテレワークにしている」は5・6%にとどまり、」と記載があり、多くの報道では少ないことを焦点を当てている。

この数字は、新型コロナウイルスへの対策として実施しているかという文脈なのですでにテレワークを実施している数字は入っていないだろう。

私なども通常はスカイプなどの会議ですませられるものはそうしているので特に「テレワーク」と云うことは意識していないのでチェックは付けていない。

さて、回答者がすべてサラリーマンかというとそうでない人も混ざっているので数字を装丁することは難しいが、少し試算してみよう。

統計的な世界では「大数の法則」というのがあり、ある程度のサンプル数があれば全体にそれを適用しても良いと言う考え方がある。

LINEの利用者が8000万人と言われているのでそれを適用すると、今回のコロナウイルスの為にテレワークをしている人は、400万人と言うことになる。もっとも、主婦や学生なども含まれているはずなので、少々乱暴だが、仮に40%とすると160万人が新たにテレワークをしたことになる。

これはものすごい数になる。

○今まではどうだったのか

平成29年度テレワーク実態調査(平成30年3月)
http://www.mlit.go.jp/crd/daisei/telework/docs/29telework_jinko_jittai_gaiyo.pdf
によるとテレワークの精度がある企業が9%になっており、調査対象が限定的であるとしても一定程度の普及があることが分かる。
その業種は、情報通信が33.8%、技術サービスなどが27.0%であり、テレワークしやすい業種に偏っていることが分かる。

また、職種も管理職、営業職、研究職などが上位を占め、販売、保安、サービスなどは低いことからテレワークの向き不向きがあることが分かる。

メリットとしてあげられるのは、「自由に使える時間が増えた」「通勤時間が減った」「業務の効率が上がった」などがあげられている。

すべての企業や働く人にとってテレワークが向いているわけではないのだろうが、今回の騒ぎでテレワークを取り入れている企業が増え、社会のインフラが整備されると、働き方の選択肢が増える。

上記の新規に始めた人が160万人と云うことになるとこの数字は大きく変わるかも知れない。来年の統計を注視したい。

○変わりゆく未来

テレワークだけでなく、ITC活用が進むと今までは当たり前であったことが変わって行くかも知れない。

コロナで相次ぐ研修中止、今こそ考える「新人教育」の目的と6つのステップ
https://diamond.jp/articles/-/233581

いままでは普通にあった新入社員研修もオンライン研修や動画研修で実施しフォローをWeb会議などで実施できるようにする動きがある。

同じように、教育現場での動画配信、採用活動でのWeb活用と影響範囲は大きい。
同じ場所に集まると云うことは、時間も費用(交通費、宿泊費)も膨大なのでコスト負担が減って行くだろう。

もちろん、インフラの整備やコンテンツの整備、そして情報発信の専門家などの育成などの必要だろう。

それでも、いったんメリットが享受できることが分かった以上元に戻るのは難しいかも知れない。

現在、医療も非接触の診療を模索していると訊く。普及しない理由は、「ITを使いこなせない町医者の問題」「インフラの整っている大病院への集中による町医者の経営難」があるそうだ。相変わらずの本末転倒だが、いずれ変わってくるだろう。

どんなビジネスチャンスが巡ってくるだろう。
時間と場所に制約されない人材マネジメントが必要になる。

○大きくなる格差

「テレワークを導入する」と云っても簡単な話ではない。
単純に必要なリソースは以下のようになる。
・ファイル共有などを行うサーバー環境の構築
・セキュリティの確保
・テレワークさせるための通信環境の確保
・テレワークさせるためのハードウエア、ソフトウエアの提供
・社員のITに関するリテラシーの向上

こうした対応を中小企業がすべて用意するのは難しい。正直に言えばヒトモノカネが潤沢にない以上、中小企業がテレワークを実施するのは難しい。
結果としては、大企業の生産性は向上し、中小企業が取り残されることになる。

こうした格差は地域や業種にも出てくるだろう。

コロナ対応のテレワークに「格差」が生じている
https://toyokeizai.net/articles/-/342092

すべてを賛同できるわけではないが、以下の記事に示すように大企業と中小企業の格差は大きくなるに違いない。

「日本は生産性が低い」最大の原因は中小企業だ
https://toyokeizai.net/articles/-/339534

個人的には、中小企業の共同体をもっと効率的に運営できる制度の拡充と専門化の育成が必要になると思っている。

○不要になる管理職

企業間格差も問題ではあるが、企業内での格差も問題になる。

https://diamond.jp/articles/-/232997
隠れ「働かないおじさん」がテレワーク強制で次々あぶり出された理由

単純に「テレワーク」を強制し、Web会議で事を済ませてしまうと云うのは無理がある。
よく言われるのが、「会議は連絡する場所ではない」「聴くだけの人は会議に出席する必要が無い」と云うことなのだが、現実的にはできていない。これがWeb会議では議事録は「音声」にし、将来的には「文字おこしもAIで」と云うことになると、すべてが白日の下にさらされる。「サイレント」な出席者はいなくても良い。

それだけでなく、そもそも業務プロセスをテレワークに併せてチューニングしなければならない。それができないと、本来不要な人材の放置につながる。

「報連相」という言葉がある。かつて(私ではない)上司が「なんで事前に相談がないのだ」というと「貴方に相談しても解決することはない」「なんとかしろと言うだけなら貴方は要らない」と吐き捨てた輩がいる。

課長であるなら、「部下の動きを監視し、アウトパットに影響を与えそうな諸々のことを予見し対策を打つ」ことが必要だろう。アウトプットに何も影響を及ぼさないリーダーは不要だ。

ということが分かってしまう。本当に今の意思決定システム(部長がいて、課長がいて、主任がいると言う階層構造)が必要なのかを見極める必要がある。

○セーフティネットが必要

しかし、誰でも彼でもリモートワークができるわけではない。
今の様々な報道を見る限り、弱者への配慮が不足していると感じる

コロナ危機でも在宅勤務できない働き手を救え、動き出した人道企業
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/world/00194/

人道的なベーシックインカムを考えてほしい。

2020/04/06

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