戦略人事:ヒトに関わることは全て対応すべきである(社会問題と人手不足問題を考える)


■なにげなニュース

○「ビジネスケアラー」支援 今年度中に企業の指針策定へ 経産省
2023年11月8日

高齢化に伴って、働きながら家族などの介護をする「ビジネスケアラー」と呼ばれる人たちも増えていて、経済産業省によりますと、2030年には318万人と、10年で50万人以上増える見通しです。

介護の負担が重く、仕事に支障が出る人もいるため、介護離職と合わせた経済的な損失は、2030年には9兆1792億円にのぼると推計されています。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231108/k10014250961000.html

高齢者だけではない。若年層であっても「介護」が理由で離職するヒトもいると聞く。人手不足と言いながら彼らを放置することは得策ではないだろう。
ではこうした問題に取り組むのはどういった部署なのだろう。人事部にそんな余裕があるのだろうか。ミッションとして与えられているのだろうか。

■人事部がオペレーション部隊になってしまう背景

人事部というのは予想以上に過酷な部署かもしれない。
通年採用をしていない限り、採用活動は年のスケジュールに組み込まれており、面接などの時期は繁忙を極めるだろう。年初あるいは期の節目では教育の段取りをすることになるだろう。目標管理制度を入れていれば、期の変わり目では評価結果のとりまとめも発生する。労務管理はもとより、人事トラブル、ハラスメント、労基法の監視など管理機能のお守りも発生する。
そんな中で政策的なことを考えろというのは酷かもしれない。 人事部自体が人手不足という悪い冗談が発生しているのではないか。 ヒトがいない中での人事政策の策定は負担が大きい。

しかし、だからといって人事課題に戦略的に取り組まなくても良い理由にはならない。
だからといって「次年度の採用計画」を戦略的に考えろといっているわけではない。ますは、会社の置かれている課題を理解することである。それは例えば「人手不足」などといった抽象的な言葉を受け入れることではない。
そんなことをすると「採用強化」と称して採用媒体を増やすことに目を向けてお終いと云うことになりかねない。 問題を全体から俯瞰した「全体最適」の視点を持つことである。
事例で見てみよう。

■事例で考える(1 賃金問題)

○長野県内のバス・タクシー、運転手不足で悲鳴
2018年7月14日

長野県内のバス・タクシー事業者が運転手の高齢化と人手不足に苦しんでいる。過疎地のバス会社では路線廃止や事業縮小に追い込まれ、タクシー会社も予約なしの配車に応じられない例が出てきた。待遇面などから運転手への就職を敬遠する傾向も、事業者の苦境に拍車をかける。地域の交通手段を維持するため、行政も対策の検討に乗り出した。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32983230T10C18A7940M00/

タクシー運転手の高齢化と人手不足問題は2018年からすでに記事なるような問題であった。
過日、九州の地方都市でタクシーに乗車したときに、下記の様な話を聞いた。
・若い運転手はタクシー運転手にはならない。そもそも若い人がいない
・かつてタクシーは朝から深夜まで流してやっと食っていける程度の給料だった。
・今は体力がきつくて、一日8時間程度で済ましている。そうすると、とても食べてゆける給与ではない。
・まともな勤務時間で生活できない給与の仕事など誰がなるか。

要約すれば、「当たり前の働き方で当たり前の給料が欲しい」という欲求を満たせていなければ人は集まらない。

人事部は下記を配慮すべきである。
①世間水準(当然当たり前の水準)を満たしているか。
②労働分配率が適正か。
データを集めよう。
もしそうでないならば経営層にものを申すべきである。

■事例で考える(2 労働環境)

○大阪万博「突貫工事で下請けにしわ寄せ」 組合が時間外労働規制除外に反対
2023年10月17日

声明では、東京五輪・パラリンピックの関連工事でも過労による死者が出たとし、政府は法令順守の立場で対応すべきだと強調。突貫工事になれば労務管理のしわ寄せが下請けに行くなど労働環境の劣悪化につながるとし「命と健康と人権を最優先する対応を強く要請する」と訴えている。

https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/1130741

コンプライアンスについても注意を払うべきである。とはいえ、社内に「法令遵守」と叫ぶだけでは無責任である。
労働データを分析するのは当然のこととして、売上ノルマなど営業部門への負荷も監視しておかなければならない。さもないと、「売上市場主義」でとんでもないことをしかねない。ビッグモーターの問題の根底も「拝金主義」であることを忘れてはならない。

労働環境に問題を起こしそうな部門の監視もすること。

■事例で考える(3 DX化)

○「団塊世代」退職で人手不足、ロボット導入急ぐドイツ中小企業
2023年11月2日

研削加工部門長が退職の時期を迎えようとしている。深刻な人手不足に悩むドイツでは、こうした熟練を要する一方で危険で手を汚す仕事を引き受ける人はほとんどいない。

新たに研削加工部門のトップを探してくるのは難しい。シュレーダー氏はロイターに対し、「退職者の経験値が高かったからというだけでなく、こういう辛い仕事はもう誰もやりたがらないからだ」と語った。 機械による研削加工には高熱と騒音が伴い、飛び散る火花による危険もある。

https://jp.reuters.com/article/germany-economy-robots-idJPKBN31V0B3

人手不足は、流失する人材(定年退職も含む)に対して流入する人材が少ないという状況である。これは予測可能である。これを解消するために人材の調達を強化する施策もあるが、人手不足を前提とした対策もある。自動化やITサービスグループによる効率化などもこれになるだろう。

DX人材は人事部に最も必要である。まずは自らの能力開発が求められるのであろう。
業務プロセスの革新も必要になる。人事だけのプロでは通用しない。

■関連する要素を明らかにした戦略が求められる

単に退職と入職だけのシステムモデルでは不十分である。
上記の記事からは少なくとも下記が要素としてあげられる。

・人口減
・ケアラー問題(家族問題)
・給与水準(低賃金)
・労働分配率
・労働時間(過重労働)
・職場環境(3K)
・高い能力(DX)

さて、こうしたことを含めてシステム図を描いてみよう。
人事部が個別の木のことだけを考えていることは不適切であることが分かる。

システム図が分からない?
システムダイナミクスに関する本を読もう。
ピーターセンゲの「学習する組織」も役に立つ。
勉強をしない人事部に未来はない。

(2023/11/10)