世間に転がる意味不明:取り残される中小企業【1】(無い袖は振れない「賃金アップ」)


■止らない人材争奪戦

2024年春闘の焦点は当然賃上げであるが、その範囲は正社員にとどまらず非正規社員にまで広がっている。

○2024年春闘、『すき家』『松屋』など外食大手が賃上げ。今年は「非正規春闘」も
2024年03月19日

外食大手各社で賃上げが続く一方で、集中回答日の3月13日には非正規労働者による非正規春闘も行われた。外食業界では、『スシロー』『かつや』『スターバックスコーヒー』などの運営会社に対し、10%以上の賃上げを求めている。

外食企業の多くがアルバイトスタッフを中心に店舗運営を行っていることもあり、今後は非正規労働者が賃上げの波から取り残されないようにしていくことが課題だといえるだろう。

https://www.inshokuten.com/foodist/article/7409/

今後は「非正規社員」への拡大を課題としてあげているがその前に中小企業の問題がある。

もともと賃上げは2024年問題に端を発した「人手不足」が背景にあると思っておる。そうした中で人員の確保の為には「賃上げ」は欠かせないと云うことでこぞって対応をしている。またパートアルバイトなどもココスの事例を見るまでもなく確実に時給アップに傾いている。

しかし、周りを見れば景気が良くなっているという実感はないし、相変わらず下請けに犠牲を押しつける産業構造も改善されていない。したがって、原資のない中小企業は「無い袖は振れない」というのが現状であろう。

○関西の中小企業も人手不足で迫られる賃上げ 景気低迷では限界も
2024/3/13

令和6年春闘では関西に多く集積する中小企業でも賃上げに踏み切る企業が目立つ。ただ、中には業績が改善したわけではないものの人手不足の中で給料を上げて人材を確保する必要に迫られる「防衛的賃上げ」も多い。景気が本格的に好転しなければ、継続的な賃上げには限界がある。

「新型コロナウイルス禍が落ち着き、客足が戻りだしたことで人手不足が顕在化している」と話すのは、奈良市のブライダル会社。昨年に続き今年も平均3%の賃上げを予定している。「人材を獲得するには賃上げなどの待遇改善が不可欠」

https://www.iza.ne.jp/article/20240313-7OJFWKTF6VNMRA7TE3PV2UWEWU/

○中小企業の30.9%が「賃上げ予定なし」 大手は待遇改善が進むのに… 城南信金と東京新聞アンケート
2024年3月18日

 調査は今月13~15日、東京都と神奈川県にある城南信金の本支店が実施。取引先の中小企業811社に聞き取った。調査によると、今年は「賃上げをする予定」と答えたのは36.0%で、前回調査より約8ポイント上昇。これに対し「賃上げの予定はない」は30.9%。前回より約4.1ポイント減ったものの、多くは原材料高などで「賃上げの原資がない」としている。

人材に関しては「募集しても集まらない」「現場が高齢化している」といった声も目立った。昨年賃上げを実施、もしくは今年賃上げを予定している企業のうち、賃上げの理由として62.7%が従業員の意欲向上と人材定着を挙げており、中小の現場も「売り手市場」に拍車がかかっているとみられる。

日銀のマイナス金利解除の見通しについては約3分の2が「関心ある」。また半数以上が「(金利上昇への)不安がある」と回答した。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/315861

■入り口にさえ立てない

とはいえ、賃金アップに参加しなければ人材採用・人材争奪戦へのスタートラインにすら立てない。

○初任給44%上げ、社員273人企業が発表「年収500万円以上ないと採用できない」
Mar. 18, 2024

「群馬県にオープンした『コストコ群馬明和倉庫店』では、群馬県の最低時給を大幅に上回る時給1500円でアルバイトを募集し、結果的に周辺でのアルバイトの賃上げを誘発した例もある。

賃上げ実績をアピールすることで、就職や転職希望の増加も見込める。大企業、中小企業問わず人手不足が続いており、今後は賃上げに対応できない企業はさらに人材獲得が難しくなる。結果的に賃上げに対応できない企業は淘汰が進む可能性がある」

https://www.businessinsider.jp/post-284061

さらに追い打ちを変えそうな事態として、皆が賃金水準を公開するので、それがある意味ベースラインになる。

○阿波銀行 平均3.2%のベースアップ実施とともに2025年の新入行員の初任給を1.5万円引き上げへ【徳島】
2024年3月19日

 3月19日、阿波銀行は、非正規を含む行員約2000人を対象に、平均で3.2%のベースアップを行う方針を決めました。
定期昇給分を合わせると平均5.4%、最大で10%程度の賃上げとなります。
ベースアップは2023年に続き2年連続で、2024年7月の給与から反映されます。
また2025年4月に採用する新入行員の初任給についても、1.5万円引き上げる方針を決めました。
これにより初任給はそれぞれ、大卒が25万円、短大卒が21万円、高卒が19万7000円となります。

https://news.ntv.co.jp/n/jrt/category/society/jr8d954a2e8f3a441fa70c2cf7f6ef4f10

こうした世間相場を配慮しなければ新卒から見向きをされなくなり、採用戦線から取り残される中小企業が増え続ける。

下記の様な記事も「4・42%」という数字が一人歩きしかねない。

○春闘の賃上げ5・28%、33年ぶり5%超…中小企業は4・42%
2024/03/15

 組合員数300人未満の中小企業の賃上げ率(358労組)は4・42%となり、全体を下回った。中小企業では今後、組合と会社側の交渉が本格化する。深刻な人手不足などを背景に、大手企業では組合の要求を超える回答や満額回答が相次いでいる。

https://www.yomiuri.co.jp/economy/20240315-OYT1T50191/

■中小企業への処方箋

中小企業が漫然ととは云わないが、今までと同じように経営していたとしたら昇給原資などもないだろう。無理に金融機関から調達しようとすれば経営が立ちゆかなくなる恐れがある。ひどいようだが短期の対応は諦めた方が良い。その上で、

(1)会社の状況を港共有する
多くの中小企業では社長が何とかしようと孤軍奮闘し、二進も三進も行かなくなるまで秘密にして起きたがる。社員は馬鹿ではない。まずは、財務諸表や資金繰り表を公開しよう。その上で社員と一緒に財務諸表の読み方を学び、どの程度の昇給が可能かを話し合おう。

(2)利益率の確認
漠然と仕事をするのではない。製品やサービス、あるいは顧客別に利益率を計測しよう。利益当たりの工数なども測ること、歩留まりやクレーム率を計測する。その上で、手間ばかりかかりあまり利益の出ない仕事は辞めることを皆と話し合う。なぜなら現場の不満は現場にしか分からないからだ。お客様から無理を言われていても断れないようであれば社長が出て行くしかない。

(3)目標を立てる
昇給に必要な原資を計算する基準を設けること。たとえば、利益率あるいは利益額。労働分配率などを設定し社員に公開する。その上で、それを達成するために社員が何をすべきかを話し合うこと。

(4)会社の魅力を考える
何でも良い。トイレがきれい。仕事を懇切丁寧に教える。昼飯は社長の奥さんが作る。等々何でも良い。会社に来て良かったと思える何かを作ること。窮余以外の何かも工夫しなければ他社に勝つことはできない。

(2024/03/21)