戦略人事:障害者への理解が求められる件(代行ビジネスを非難する前に考えるべき事)


■障害者雇用に初めて触れた頃

障害者雇用の義務化は今のはじまったことではなく,かなり以前からある。
30年以上前だろうか、ある企業にインタビューに行ったときに、聞いた話である。
・比較的小規模の企業の集合体として経営している。
・一つ一つの企業体に一人二人の障害者を雇用していても仕事を作り出せない。
・障害者だけを集めた会社を作った
(一部脚色)
結果として、イベントの企画をする会社を作って、運営も障害者自身で行うようにしていた。当然、利益を出すことは必須である。

障害者が働けるようにバリアフリーは当然のこととしてやっていた。
「将来は障害者雇用のコンサルタントもしたい」と言っていたことが印象的であった。

義務化されている障害者雇用の比率は年々高くなっている。

○障害者雇用のルール

従業員が一定数以上の規模の事業主は、従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を「法定雇用率」以上にする義務があります。( 障害者雇用促進法43条第1項) 民間企業の法定雇用率は2.5%です。 従業員を40人以上雇用している事業主は、障害者を1人以上雇用しなければなりません。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page10.html#01

しかし、100人の企業であってもせいぜい2,3人である。健常者の中に障害者をマイノリティとして放り込んだとしても誰もしあわせにはならない。

■気になったニュース・記事

○障害者の雇用「代行ビジネス」は是か非か、専門家たちが出した結論は? 「働く場を提供」でも「社員という実感はない」 
2024/04/13

ある程度の規模の企業には、従業員の一定割合(現在2.5%)以上、障害者を雇うことが義務付けられている。障害者が働けるよう配慮や工夫が必要になるため、負担に感じる企業も多い。そこで、貸農園などの働く場を企業に提供して雇用を事実上代行するビジネスが近年、増えている。

https://nordot.app/1143790229697086106

ここで言う代行ビジネスというのは、
①簡易的な農場を用意する
②そこで働く人を各企業から集める
③彼らは障害者になる
④作られた農作物は各企業が買い取る
といった構造だったと記憶する。
これにより障害者雇用を担保しようとするものである。

上記の記事は、この点についての是非を議論している。
しかし、どうしても論点が倫理的なとこrに行きやすい。
間違ってはいないが、肝心な点が抜け落ちている。

それは、働く彼らの気持ちであり、その置かれている状況への配慮である。
障害者雇用を「慈善事業」にしてはならないし「施し」にしてもならない。
なぜならば、彼らの人間としての尊厳を傷つけるからである。

そのためには、「彼らの能力を活かせる事業プロセスを開発する」事が必要である。
それがなぜ出来ないのか。

■障害者雇用の実態(少し長いよ)

現状の障害者雇用の状況はどうなっているのだろう。下記の資料を見てみた。

平成30年度障害者雇用実態調査結果
厚生労働省  職業安定局  障害者雇用対策課 地域就労支援室
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000521376.pdf

自分の認識が狭いことが分かる。一口に障害者と言っても範囲が広い。
主に身体障害者、知的障害者、精神障害者(総合失調症、躁鬱病、てんかんなど)、発達障害、がある。身体障害者にはさらに下記の様に分類される。

視覚障害 視覚障害
聴覚言語障害 聴覚、平行機能、音声又は言語機能
肢体不自由 上肢切断、上肢機能、下肢切断、下肢機能、体幹機能、脳病変上肢機能、脳病変移動機能
内部障害 身体障害の重複 心臓機能、腎臓機能、呼吸器機能、膀胱直腸機能、小腸機能、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能

いずれも基本は障害の程度などが分かる障害者手帳が配布される。どのような障害かは本人には分かる。しかし、一般人は身近にそういう人を見なければ分からない。企業においても、こうした区分での働き方など考えもつかないだろう。

その結果、今の仕事のやり方で働けるかどうかが前庭になるのだろう。彼らが働いている産業については下記の記述がある。

(2)産業別
産業別にみると、卸売業、小売業で53.8%と最も多く雇用されている。次いでサービス業15.3%、医療、福祉11.6%となっている。 製造業で9.2%。それ以外は2%にも満たない。

すなわち、これ以外での働き口は少ないと言うことである。
こうした、自分たちの仕事のやり方をける努力をしないことは何を生み出すのかと言えば、できるだけ雇いたくないと言うことになる。それは、数字にも表われている。

6 今後の障害者雇用の方針について
1)今後の障害者雇用の方針
身体障害者の今後の雇用方針について、「積極的に雇用したい」が14.1%、「一定の行政支援があった場合雇用したい」が20.1%、「雇用したくない」が15.3%、「わからない」が50.5%であった。

積極性はないことが分かる。
では、積極的でない理由は何か。

(障害者を雇用しない理由)
身体障害者を雇用しない理由は、「当該障害者に適した業務がないから」が 81.7%、次いで「施設・設備が対応していないから」が32.5%、「障害者雇用について全くイメージが湧かないから」が20.4%となっている。
知的障害者を雇用しない理由は、「当該障害者に適した業務がないから」が 84.0%、次いで「職場になじむのが難しいと思われるから」が29.1%、「施設・設備が対応していないから」が27.7%となっている。
精神障害者を雇用しない理由は、「当該障害者に適した業務がないから」が 79.6%、次いで「職場になじむのが難しいと思われるから」が33.9%、「施設・設備が対応していないから」が26.0%となっている。
発達障害者を雇用しない理由は、「当該障害者に適した業務がないから」が 82.6%、次いで「職場になじむのが難しいと思われるから」が29.2%、「施設・設備が対応していないから」が26.3%となっている。

面白いのは、障害者の差異が無い事である。いずれも主たる理由は「当該障害者に適した業務がないから」が共通している。その他の理由を見ても、障害の区分による差異は無い。すなわち、現状の仕事の延長線上に彼らの仕事がないと云っている。しかし、これは当たり前である。なぜなら現状のほとんどの仕事は健常者であることが前提であるからである。

これは下記の裏返しである。

5 障害者雇用上の課題及び配慮について
(1)雇用するに当たっての課題
身体障害者の雇用上の課題について、66.9%が「ある」としている。課題として回答されたもののなかでは、「会社内に適当な仕事があるか」が 71.3%と最も多く、次いで「障害者を雇用するイメージやノウハウがない」が45.6%、「職場の安全面の配慮が適切にできるか」が40.9%と多くなっている。

では、彼らはどういうドライブが働けば障害者雇用が出来るのか。

(障害者雇用を促進するために必要な施策)
一定の行政支援のうち、身体障害者の雇用を促進するために必要な施策は、「雇入れの際の助成制度の充実」が58.3%、次いで「外部の支援機関の助言・援助などの支援」が54.7%、「雇用継続のための助成制度の充実」が53.8%となっている。

この結果も呆れてしまう。自ら解決する為の支援ではない。人頼み、あるいは他人事であることが見え隠れする。

■意識を変えなければ何も解決しない

大企業であればともかく小規模な企業で積極的な障害者雇用を単独で推進するのは難しい。何らかの支援策がなければ「徒手空拳」で対応せざるを得ない。

動機付けも必要である。飛躍的な生産性向上のきっかけにするぐらいの覚悟が必要である。
かつて、中小企業の製造ラインを見ていたら、作業点順がすべて写真やイラストになっていた。「どうしたの?」と聞いたら「ブラジル人の人が入ってきて日本語の文字が読めないから」と言うことであった。副作用として「事故やミスがなくなった」と言っていた。

ポカよけに最適なプロセス改善だったようだ。いろいろな工夫がある。生産性向上の為の具体的なプロセス改善がなければ障害者雇用は出来ない。仮にこうしたプロセス改善が出来るなら人手不足の解決にもつながる。

しかし、こうしたノウハウは余程の幸運でもなければ入手できない。
下記の様な取り組みも参考になる。

○課題山積 中小企業の障害者雇用 「組合」制度の導入で雇用率アップの企業も
2024年4月24日

単独では障害者雇用が難しい中小企業が雇用のノウハウを持つ中小企業と「組合」をつくります。この「組合」内で業務を発注することで、所属する全企業の雇用率にカウントできるというものです。

https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1134482?display=1

三人寄れば文殊の知恵を思いだそう。

(2024/04/26)