世間に転がる意味不明:取り残される中小企業【3】(下請けへのしわ寄せは解消できるのか)


■2024年賃金アップの偏在

2014年の春闘では大手企業での賃上げのニュースが続いている。

○アサヒビール、賃上げ6% ベア1万3500円
2024年03月19日

アサヒグループホールディングスは19日、傘下のアサヒビールが2024年春闘で、社員の賃金を6.0%引き上げることで労使が妥結したと発表した。このうち、賃金を底上げするベースアップ(ベア)は1万3500円。32歳以下の若手は3500円を加算し、1万7000円とする。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2024031900869

記事にもよるが、概ね大企業では6%前後、10%に及ぶ企業もあると聞く一方で中小企業はせいぜい4%程度、多くは賃上げできないという声も聞く。

大企業には昇給原資はあるが中小企業は難しい。
その一つの要因としては「価格転嫁」の問題があることは周知の通りである。

■価格転嫁の潮流

企業が簡単に設ける方法は「法律を守らない」ことである。信号無視、過積載は利益率を向上させてくれる。目に見える悪事は世間の目があるのであまりやらないかもしれないが目に見えないところでは行なわれており、利益創出に役立っている。

○観光庁、旅行3社に行政処分、貸切バスの営業区域外手配や下限運賃違反で
2024年03月19日

観光庁は2024年3月21日、旅行業者3社に行政処分を科すにあたり、旅行業法第65条第1項の規定に基づき、聴聞を実施する。いずれも、貸切バスを利用した旅行における営業区域外のバス手配や、貸切バス事業者の届け出運賃・料金の下限を下回る運賃でのバス手配など、旅行業法第13条第3項第2号で定められたサービス斡旋に違反するもの。

https://www.travelvoice.jp/20240319-155306

要は「まっとうな料金を払わない」というビジネスモデルである。
それはお金を徴収するだけでなく払うべきお金を払わないという行為でも同じである。

○『ビッグモーター』下請けにも悪質要求 自社で車検・保険契約強制、無償で雑草除去など 公取委は「わかりやすい下請けいじめ」
2024.03.15

公取委によると、ビッグモーターは下請け業者に対して、単価を一方的に下げるいわゆる「買いたたき」。また、洗車中に車内に水をかけた車両の買取、自社での車検・損害保険の契約を、業者に強制していた。さらに、仕上げ小屋の床や側溝の掃除、雑草の除去、展示車両のタイヤへのワックスがけ、車内のペットの毛除去を無料でやるように要請。
新店舗オープン時には、花輪や生け花の提供を要求していた。
公取委は、これらの行為を下請け法違反と認定し、過去最多となる17件の勧告・指導を実施。

『ビッグモーター』下請けにも悪質要求 自社で車検・保険契約強制、無償で雑草除去など 公取委は「わかりやすい下請けいじめ」

「下請けいじめ」という言葉で片付けてはならない。
自社の利益を他社からの搾取で生成しており、それを賃上げの原資としているのならば非難されるべきである。

特に「大手」「元請け」はそうしたことに対して手を染めやすい。日産だけの問題でないことを自覚すべきであろう。

■政府の潮流の変化・社会の目

岸田政権の思惑がどこに在るのかは理解しがたいが、確実に下請けに対するまっとうな商取引を確実にする動きがはじまっている。

○(令和5年12月8日)下請取引の適正化について
令和5年12月8日
公正取引委員会

下請事業者と親事業者との間で積極的な価格交渉と価格転嫁を行うとともに、下請事業者への不当なしわ寄せが生じないよう、親事業者となる会員に対して周知徹底を図ることなどについて、本日、関係事業者団体約1,700団体に対し、公正取引委員会委員長及び経済産業大臣連名の文書(別添)をもって要請した。

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2023/dec/231208/nenmatuyousei.html

こうした動きに呼応するかのように摘発の動きが活発になっている。

○「GRL」運営会社に勧告 下請法違反、8200万円不当減額―公取委
2024年03月19日

 発表によると、違反を認定されたのは衣料品企画販売会社「Gio(ジオ)」(大阪市西区)。同社は2022年1月~23年6月、衣料品の製造を委託する業者13社に対し、商品が売れるまで支払いを留保したり、売れ残るなどした商品を値引きして買い取ったりし、約6700万円を払わなかった。また、別の業者1社に対し、支払期日を早める代わりに約1500万円を下請け代金から差し引いた。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2024031900920

そして、明確な違反でなくとも告発する動きが表われ、牽制の意味合いも出てきている。

○ダイハツ工業、公正取引委員会に名指し公表—価格交渉を行なわず
2024年3月18日

公正取引委員会は3月18日、ダイハツ工業が労務費、原材料価格、エネルギーコストの上昇分を取引価格に反映せず、取引先と価格交渉を行なっていなかったとして、社名を公表した。

なおこの公表で、ダイハツが独占禁止法や下請法に違反したと認定されたわけではない。

https://response.jp/article/2024/03/18/380383.html

○「価格転嫁に応じない」企業として、ダイハツ工業、京セラなど10社の社名公開
2024年03月19日

公正取引委員会は、「独占禁止法上の『優越的地位の濫用』に係るコスト上昇分の価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」の結果公開の一環として、多くの取引先に対し協議なしに取引価格を据え置きする行為などが確認された事業者名を公開した。ダイハツ工業や京セラ、三菱ふそうトラック・バスなど10社が挙がっている。

公正取引委員会では、今回の個別調査の結果も踏まえ、独占禁止法の考え方の内、特に「受注者からの価格転嫁の要請の有無にかかわらず、価格転嫁の必要性について価格交渉の場において明示的に協議する必要があること」について、さらなる周知を図っていく方針を示している。

https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2403/19/news089.html

■中小企業/下請け事業者の覚悟

サプライチェーンも自社の製品・サービスを実現するための重要なファクターだという当たり前の認識を自覚してくれたのならありがたい。

○下請けに「代金減額」、日産へ注がれる厳しい視線
経済好循環を阻む「甘えの構造」に公取がメス
2024/03/17

前週の3月7日、公取が日産に対して下請け業者への納入代金を一方的に減額したとして下請法(下請代金支払遅延等防止法)違反を認定し、再発防止などを求める勧告を行った。

日産はアルミホイールを製造するなど36の下請事業者に対して、発注時に決めた金額から「割戻金」の名目で減額していた。こうした行為は下請事業者との合意があっても違法となる。

公取の片桐一幸取引部長は「適正な価格転嫁が強く求められる中、下請法違反がサプライチェーンの頂点に立つ企業で行われていたことは非常に遺憾だ」と強く非難した。

https://toyokeizai.net/articles/-/741477

それほど多くの事例を見ているわけではないが、多くの中小企業は「親会社」「元請け」「発注もと」に思っていることを中々言えず、値上げなどはどうしても交渉事の一貫として遠慮がちになる。

旨くやっているところとそうで無いところを見ていると以下の差異がある。

・日頃から、価格についての意見交換をすること。それは、単に値上げということだけでなく、労務費や材料費、設備投資、技術などについて自社の状況をなるべく知ってもらうことが重要だと云うことになる。

・不適切な値下げ圧力には明確に「ノー」ということ。1度なぁなぁで受けてしまうとずーっとその不平等が続くことになる。そしてそれは「法令遵守」を疎かにする企業との付き合いを続けることになりリスクである。

・まっとうな取引ができない発注先の仕事はしないこと。短期的には痛手であっても、そうした仕事は結局のところ社員を苦しめるだけだと自覚すること。

結構大変だが、大切なのは自分たちは「奴隷ではない」と声を上げることだろう。

(2024/03/22)