戦略人事:昨日までの常識を捨て去る覚悟(定期昇給を疑い、安定した雇用関係を疑う)


■イノベーションの前提条件

赤の女王仮説は有名である。
「その場にとどまるためには全力で走り続けなければならない」
いくら走っていても周りの景色が追いついてくる。
そこから抜け出すためにはもっと速く走らなければならない。

そのためのイノベーションが必須である。
昨日までと同じことをしていても明日を迎えられる保証はない。

こうしたことは数多くの識者が指摘していることである。
VUCAと言う言葉を持ち出すまでもなく、高速に変化する世界に対応するためには自分自身が高速に変化し柔軟性と強靭性をもtがなくてはならない。これも言い古されていることである。

にもかかわらず、今の様々な人事制度の前提が変わらないかのように振る舞うのは愚かである。

■横並びの愚

今年(2924年度)の春闘の賃上げは以上である。業績に関わりなく(正確には昨年度の業績が前年度より驚異的に向上したわけではないにもかかわらず)ほとんどの企業で賃上げを行なっている。そうしなければ「新卒」の獲得競争に競り負けるからである。しかし、戦略的な賃金制度の改訂方針を出さずにこの流れに乗るのは危険である。「金の切れ目が縁の切れ目」を誘発しかねない。

護送船団と揶揄されたことを忘れたのかと思う。
必要なのは、この時代にふさわしい「給与」「役割」の設計である。
その中には「定期昇給」などと言う前時代的な発想も疑う必要がある。
そうした意味で、下記の取り組みは評価したい。

○ルネサス社長、画一的賃上げに苦言 「意識変えたい」
2024年3月26日

オンラインで開いた定時株主総会で質問に答えた。ルネサスは3月、例年4月に実施する定昇を10月に遅らせることを決めた。定昇延期で浮いた資金を成長投資などに回すとしている。

柴田氏は「ベースアップなど日本以外ではほぼ聞かない。海外では事業環境が軟調な中で賃上げを実施することは考えられない」と述べた。ルネサスは約2万人の従業員のうち半分以上を外国人材が占め、売上高の大半も海外で稼いでいる。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC25BGR0V20C24A3000000/

もっとも、今までの“常識”あるいは“既得権益”に守られてきた人々には不評なのだろう。説得するのは大変だろう。

○ルネサスが定昇延期し人員削減 欧米流人事に従業員が反発も
2024年4月8日

 ルネサスエレクトロニクスが例年4月に実施する定期昇給を半年延期し、数百人規模の人員削減を進めていることに波紋が広がっている。浮いた人件費は投資に回すという。同社は2023年12月期の連結純利益が過去最高だっただけに、異例の人件費削減は従業員の反発を招いているという。

これに対し、ルネサスは今回の施策を伝統的・日本的な施策からグローバルな施策への移行に伴うもので、伝統的な日本企業の受動的なコスト削減策ではないと主張。

https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20240423/se1/00m/020/051000c

■リストラの常態化

昨年(2023年)から今年にかけて海外ではIT企業を中心に人員削減のニュースが頻繁に伝えられた。

○米デル、2月時点の人員が前年比約6000人減 コストカットの一環
2024年3月26日

米デル・テクノロジーズ(DELL.N), opens new tabは25日付の開示資料で、コストカットの一環として従業員を削減したと明らかにした。2月2日時点の従業員数は約12万人で、1年前の約12万6000人から減少した。
先月発表した第4・四半期決算では、この2年近くパソコンに対する需要が低迷していたこともあり、11%の減収となった。

https://jp.reuters.com/markets/world-indices/WQ34VMV5LBNLLARH5UWYTCIKFY-2024-03-25/

○米シティ、週内に組織再編完了へ 昨年9月以来5000人削減
2024年3月26日

米金融大手シティグループ(C.N), opens new tabは、昨年9月以来5000人の人員を削減したことを受け、組織簡素化と業績向上を目的とした抜本的再編の最終段階に入ったと社内に通知した。

「この数カ月は楽なものではなかった」とした上で「行った変革はわれわれの多くがシティで経験した中で最大のものであり、われわれを前進させ、競争力を高めた」と記述している。

https://jp.reuters.com/markets/world-indices/KFITH4ZKXRM3JOWRMIWBQA6YLY-2024-03-25/

○アマゾンのクラウド事業、セールスなど数百人規模で削減
2024年4月4日

米アマゾン・ドット・コム(AMZN.O), opens new tabのクラウド事業を手がけるアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)は、セールスやマーケティングなどの職種を対象に数百人規模の削減を進めていることを明らかにした。

AWSの広報担当者は「簡素化が必要な組織の幾つかの領域を特定した」と語った。

アマゾンは2022年と23年に2万7000人余りを解雇。過去数カ月でも、動画配信サービスやヘルスケア事業、音声アシスタント事業などで削減を行ってきた。

ニュースサイト「ジ・インフォメーション」によると、6万人規模のAWSのセールスとマーケティング、グローバルサービス部門における人員削減は、アマゾンのマット・ガーマン最高セールス責任者の下での幅広い組織再編の一環である可能性が大きいという。

https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/KLWCJLFUZJNN3DQNG7XHFQXYMY-2024-04-03/

アメリカの法律は分からないが、ある程度の補償をした上での解雇は容易なようで、苦情やストが頻発したとは聞いていない。事業再構築という文字通りのリストラが自然に受け入れられているのだろう。

こうした流れは日本でも主流になるかもしれない。

○コニカミノルタ 2,400人規模の人員削減
2024.04.04

コニカミノルタは4日、2025年3月末までに国内外のグループ全体で、2,400人規模の人員を削減すると発表しました。デジタル化が進み、オフィス向け機器の市場が縮小する中、余剰人員を減らして生産性の向上を目指します。25年3月期の連結決算で200億円前後の費用を計上します。

https://txbiz.tv-tokyo.co.jp/you/news/post_293955

少し興味を持ってニュース記事などを見て欲しい。いくつもの大手企業が事業の再編に合わせて人的資源のポートフォリオも変えている。

■変化する人事制度への備え

単に人員の削減だけではなく、ヒトの調達も積極的に行なっている。
従来の「新卒一括採用」による「時間をかけた社内の育成」と言う選択肢以外の選択が増えている。

○ニコン、24年度採用は745人計画 過去最大規模、中途人員拡大
2024年04月10日

 ニコンは10日、グループ全体の2024年度採用計画を発表した。25年4月入社の新卒採用と24年度中途を合わせて過去最大規模となる745人を計画する。中途採用を拡大し、社員の紹介によるリファラル採用、アルムナイ(退職者)採用を含め、事業基盤の強化や新事業開拓につながる即戦力人材の獲得を目指す。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2024041000832

しかし、これは諸刃の剣でもある。
昨年の大きな動きの一つに「ヘッドハンティング」に近い転職サイトが数多く立ち上がったことではないだろうか。「ジョブ型雇用」と企業側は都合の良いようにことばを使っているが働く側から見れば、「ジョブ」でしか評価されないのであれば会社にしがみつく理由はない。と言う発想も生み出されてゆく。

「社員満足」を向上させて組織能力を維持するという戦略が唯一の方策ではなくなる。
人の流動化を前提とした人事制度だけではない。
そうした多様な人々が混在する組織の維持管理も誰かがやらなければならない。

人事部門がその責を担うのだという気概がなければ、人事部門の存在意義もなくなるかもしれない。

こころして対峙して欲しい。

(2024/04/13)

■その他の参考記事

○コニカミノルタ・オムロン・資生堂…にわかに広がる大型リストラのなぜ
2024-04-09
https://maonline.jp/articles/jininsakugen_restructuring_20240409

○ノバルティス、製品開発部門で最大680人削減へ
2024年4月10日
https://jp.reuters.com/markets/bonds/SLXA5MUB5RIKDLPLA4NCV23FUU-2024-04-10/