■浮かれる賃金上昇のニュース
2024年春の賃金アップの話は景気の良い話である。それは正社員だけでなく非正規社員(パート・アルバイトなど)まで波及している。
○〈2024春闘〉国内鉄鋼大手3社、過去最大の賃上げ 日本製鉄はベア3.5万円
2024.03.14
国内鉄鋼大手3社は13日、2024年春季労使交渉(春闘)において、過去最大の賃上げを行うと発表した。組合員平均のベースアップ(ベア)で、日本製鉄は月3万5千円、JFEスチールは月3万円、神戸製鋼所は月3万円の賃上げを実施する。優秀な人材の確保が課題となる中「総合重工や電機、自動車など大手製造業の動向を注視し、そん色のない水準を目指した」(神戸製鋼)としている。
https://www.netdenjd.com/articles/-/299057
○パート賃上げ過去最高6.45% 正社員5.91%、UAゼンセン
2024/03/14
小売りや外食、繊維などでつくる連合傘下で最大の産業別労働組合「UAゼンセン」は14日、今春闘の平均賃上げ率がパートタイムで6.45%、正社員で5.91%といずれも過去最高になったと発表した。全国に店舗があるイオンのグループ各社が、競合他社に先駆けて大幅なパートの賃上げを打ち出したことで、人材確保に危機感を持った地方のスーパーやドラッグストアなどがパートの賃上げに応じたという。
https://nordot.app/1140871753260892585
このまま行けば、長らく停滞していた給与水準の上昇が行なわれる。
これ自体は望ましいことだろう。だが・・・
■原資の確保とリストラ
40年ほど前の経済状況を思い出すと、企業は拡大を目指し積極的な投資を行なっていた。それは人的資本についても同様であり、年率8%から10%程度の賃上げが実施されていたと記憶している。現在は、そんな余裕があるとは思えない。従って、賃金アップは喜ばしいことではあるが心配事は「原資はどうする」であろう。
もちろん、内部留保をずっと取り崩すことはないだろうし、それに見合った業績向上を狙うだろ。しかし、そう簡単に業績が上がるのであれば、これまでもそうしていただろう。では、どうするのかと云えば「人材ポートフォリオ」の組み替えであろう。
簡単に言えば、10%の賃上げに見合う「人員の削減」であろう。
その徴候はすでに見られる。
○オムロンが2千名の人員削減 中国減速で今期の純利益は98%減の見通し
2024-03-14
電子部品大手のオムロンが国内外で2千名の人員削減に踏み切る。中国経済の成長鈍化やサプライチェーン(供給網)の混乱など、事業環境が想定以上に悪化。大幅な業績悪化となり、収益・成長基盤の再構築に取り組むことになった。
社長の辻永順太氏は「現在の制御機器事業は、中国市場の投資需要に依存している状況」との認識を示した上で、「今後、変化の激しい事業への耐性を強化するために、特定業界や特定エリアに依存しない事業構造の構築に向けたアクションを加速していく」と話す。
https://www.zaikai.jp/articles/detail/3762
○ソニーグループが主力のゲーム事業で900人の人員削減に着手
2024-03-13
SIEが社員の8%ほどに当たる約900人の削減に着手する。欧米や日本などの全世界で開発や間接部門の従業員を減らす。日本では他社への再就職の支援をしていく方針だ。
ゲームはソニーGの連結売上高(約12兆円)の3割程度を占める主力事業であるものの、近年は計画通りに実績を上げられない場面が目立つ。同社は2月、24年3月期のPS5の出荷計画を従来の2500万台から2100万台に下方修正。ゲーム事業の通期売上高は、昨年11月時点の見通しから2100億円下方修正して、4兆1500億円の見通しだ。
https://www.zaikai.jp/articles/detail/3753
こうしたリストラの報道はこれだけではない。
企業は市場環境の変化に対応しなくてはならない。
それは組織の事業構造の変化に対応することを求められる。それは海外では特に顕著である。
○英シェル、M&A部門で20%超人員削減へ コスト抑制で=BBG
2024年3月14日
シェルの広報担当者は「当社は各事業の業績、規律、簡素化に着目することで、排出量を削減しながらより多くの価値を生み出すことを目指している。それには、ポートフォリオの改善、新たな効率性、組織のスリム化が必要になる」と述べた。
昨年1月に就任したワエル・サワン最高経営責任者(CEO)は、高収益事業と生産安定、天然ガス生産拡大に注力するため戦略を見直すと表明していた。
https://jp.reuters.com/world/europe/GOUWNZYOTZKR5JQQPQEIOL4MKU-2024-03-14/
■選別と定期昇給の幻想
ポートフォリオの見直しは、ヒトの選別という側面を持っている。
今回の賃金アップの報道の端々に「優秀な人材」という単語が出てくる。これは裏を返せば(今は)「凡庸」であっても(いつまでも}「凡庸」な人材は不要であることを示唆している。実際
そうしたことをうかがわせる報道もある。
○富士通、研究開発に従事するリーダークラスの賃金水準を413,700円に引き上げ 年収約1,000万円も可能に
2024.3.13
富士通は、2024年の総合労働条件改善交渉において、組合モデルの要求ポイントとなる研究開発に従事するリーダークラス(30歳相当)(※1)の現行賃金水準400,700円について、13,000円の賃金水準改善(※2)の要求に対し、満額となる13,000円の賃金水準改善額を回答したことを発表した。
※1 電機連合(全日本電機・電子・情報関連産業労働組合連合会)が定める開発・設計職基幹労働者の賃金モデルに基づき、富士通労働組合が設定した要求の起点とする職務、職層。
※2 一律額のベースアップではなく、職層やパフォーマンスの高さに応じて引き上げ幅を決定するもの。
そして人事制度に関する潮流の変化も忘れてはならない。それはジョブ型雇用の廃止と自動的な昇給プロセスの廃止である。
○「定期昇給廃止」も視野に賃金体系見直しへ 日本郵政が労組と協議
2024年3月12日
日本郵政グループが今春闘の交渉で、従業員の定期昇給の見直しに向け、廃止の可能性も含めて協議するよう労働組合に求めたことがわかった。一般職の賃金を上げて職種間の格差をなくすため、従業員全体の昇給を抑えて財源を確保する狙いがあるとみられる。
https://www.asahi.com/articles/ASS3C6J49S38ULFA002.html
○三菱電機、管理職や高度専門職にジョブ型 6000人対象
2024年3月12日
三菱電機は12日、管理職などを対象に職務内容を明確にして成果で処遇する「ジョブ型雇用」を2024年度に導入すると発表した。海外拠点を含む管理職やエンジニアなどの高度専門職6000人が対象となる。一般従業員も含めて等級や評価など人事制度を刷新し、キャリア形成を会社に委ねず自律的に取り組む「キャリアオーナーシップ」の育成につなげる。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC122820S4A310C2000000/
上記を別々の報道としてみるのではなく、潮流の兆しとして見ることが必要である。
(2024/03/17)