PDCAサイクルの誤謬

【きっかけの記事】

PDCAを考え直すきっかけになりそうな記事が2019年2月に東洋経済オンラインに掲載された。(巻末資料参照)
「PDCAがAI時代では「オワコン」な根本理由 いま米国の優良企業が重視する「OODA」とは」と題された記事では、以下のようにPDCAの欠点をあげてOODAループに着目すべきと言う論調が展開されている。
https://toyokeizai.net/articles/-/266207の記事から抜粋する。

PDCAサイクルがうまく回らない理由
インドのことわざに「貧者に魚を与えるな。魚の釣り方を教えよ」というものがあります。
<中略>
PDCAサイクルが機能するためには、出発点である計画がしっかりしたものでないといけません。優れた計画を立案するためには、計画立案者が必要な情報を持ち、目標だけではなくそれを達成するための手段を明示することが重要になります。そのような場合、計画実行には、たとえ多くの努力や労力が現場に要求されたとしても、創造性やイニシアティブはあまり要求されません。
つまり、これは計画に従う立場の者に対して、魚を与えて釣り方を教えていないということにほかなりません。

OODAループとは
観察(Observe)、情勢判断(Orient)、意思決定(Decide)、行動(Act)という一連の活動から構成されます。<中略>
OODAループがPDCAサイクルと異なるのは、計画を出発点としていないという点です。もちろん、大枠でのミッションは与えられています。しかし、そのミッションには、それを達成するための手段は明示されていません。上司からその方法論について指示を受けることもありません。
ミッションを遂行する者は、自発性、創造性を駆使して、ミッション達成のための手段を発見し、即座にそれを実行しなければなりません。ここがPDCAサイクルとの決定的な相違点になります。

そして結論として、下記のような記述となっている。

AI、IoT、ビッグデータ、ソーシャルメディアの発展という流れのなかで、リアルタイムにデータを収集し、即座に判断して行動に移すこと、これが競争優位を築くためのカギになります。どのような環境変化にも即時対応できる、次世代の最強組織を築くためには、OODAループに着目し、組織として取り組むことが大切です。

この記事の批判はするつもりはないが、前提条件をおかしくしていることに気がつく。
・OODAループに対応する事柄は古くからあり、先に大戦などの事例を示した書籍もある
必ずしも突然出てきている物ではない。
・PDCAとOODAループを使い局面は異なるので比較すること自体がおかしい
・PDCAを金科玉条にする必要は無く、PDCAにかわりPDSAを提唱することもあり多様な考え方がある。

こうしたおかしな記事を目にすると、そもそもPDCAをどう考えるべきなのかについて整理しておいた方が良いかと思いこの資料を作成する。

【PDCAへの懸念とPDSA】

同様な記事は他でも散見される。
例えばPDCAの欠点として、即時性よ不測の事態への対応などをあげているケースが多い。結果として以下のような記述になる。

PDCAは、計画 Plan して実行 Do してチェック Check した後にやっと行動 Actする。PDCAを速く回すといっても、計画して実行してチェックした後に行動です。構造として無理があります。
<中略>
このように致命的な問題を抱えたPDCAではなく、OODAループを普及させることが求められます。

(巻末資料:?PDCAサイクル:問題点と致命的欠点)

しかし、こうした論点はそれぞれの考え方の出自を無視している議論のなっている。
もともとPDCAはデミング博士の話を受けて日科技連が提唱されたと言われている。
私自身の解釈から言えば、生産現場の能率向上や不良品発生を防止するためには、きちんと設計と生産計画を立て(Plan)、これに基づいて製造し(Do)、不良品が発生していないか、計画とのずれはないかを監視し(Check)、もし問題があれば計画の見直しを行う(Action)がPDCAの意図だと思っている。
その意味では、時間軸は固定されており、素早く状況判断をするなどと言う要素はそもそも入っていない。
不確定要素はあらかじめ想定するのがPDCAであり、状況次第でどうなるかわからない物にPDCAを適用すべきではない。
例として、スポーツなどを取り上げているが、機械的な製造ラインと比較すること自体が間違っている。

では、製造現場を含めた組織全体の枠組みを管理するためのフレームワークはないのかというとそんなことはない。
デミング博士は、PDCAの限界を感じPDSAを提唱していたという。

「情報システム用語事典:PDSAサイクル(ぴーでぃーえすえーさいくる)」のは以下の記載がある。

マネジメントサイクルの1つで、計画(plan)、実行(do)、評価(study)、改善(act)のプロセスを順に実施し、最後のactを次のplanに結び付け、らせん状に品質の維持・向上や継続的な業務改善活動などを推進するマネジメント手法。

1980年代の半ばごろから、品質管理の父といわれるW.エドワーズ・デミング(Dr. William Edwards Deming)博士がPDCAサイクルに代えて使い出した言葉。checkがstudyになったのは、より詳しく評価するというニュアンスがあるという。

PDCAへの懸念からデミングの14ポイントを指摘されているという。

1. 競争力を保つため、製品やサービスの向上を常に心がける環境を作る。最高経営者がその責任者を決める。
2. 新しい哲学を採用する。我々は新たな経済時代にいる。遅延、間違い、材料の欠陥、作業の欠陥などの一般常識となっている水準には満足できない。
3. 全品検査への依存を止める。品質は統計的手法で向上させる(完成後に欠陥を見つけるのではなく、欠陥を防止せよ)。
4. 価格だけに基づいて業者を選定することを止める。価格と品質によって選定する。統計的手法に基づく品質保証のできない業者は排除していく。
5. 問題を見逃さない。全体(設計、受け入れ材料、製造、保守、改良、トレーニング、監視、再教育)を継続的に向上させるのがマネジメントの役割である。
6. OJTの手法を導入する。
7. 職場のリーダーは単に数値ではなく品質で評価せよ。それによって自動的に生産性も向上する。マネジメントは、職場のリーダーから様々な障害(固有の欠陥、保守不足の機械、貧弱なツール、あいまいな作業定義など)について報告を受けたら、迅速に対応できるよう準備しておかなければならない。
8. 社員全員が会社のために効果的に作業できるよう、不安を取り除く。
9. 部門間の障壁を取り除く。研究、設計、販売、製造の各部門の人々は様々な問題に一丸となって対応しなければならない。
10. 数値目標を排除する。新たな手法も提供せずに生産性の向上だけをノルマとしない。
11. 数値割り当てを規定する作業標準を排除する。
12. 時間給作業員から技量のプライドを奪わない。
13. 強健な教育プログラムを実施する。
14. 最高経営陣の中で、上記13ポイントを徹底させる構造を構築する

実際のマネジメントについては上記の記述は極めて腑に落ちるところがある。

この続きは、ワード文書に整理されている。

→ こちらからダウンロードしてください。 PDCAサイクルの誤謬・公開用

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