マネジメントシステムを考える:QMSでの法令遵守の扱い

■きっかけは・・・

ある審査の場面で、下記の記載について意見を求められた。

《序文 0.4 他のマネジメントシステム規格との関係》
この規格には、環境マネジメント、労働安全衛生マネジメントまたは財務マネジメントのような他のマネジメントシステムに固有な要求事項は含んでいない。

これを持って、「労働安全衛生に係わる法規制や汚染防止などに係わる法規制の対応に不備があるからと言って指摘をすることは適切ではない」と考える人がいることに気がついた。

最初の文章は、他のマネジメントシステムに含まれる固有の活動(例えば、環境であれば漏洩事故時での訓練など)がQMSに入っていないと云うだけであって法令違反を審査の対象にしてはいけないと云っているのではない。

■法令遵守を求めている項番

では、法令違反についてはどんな記述になっているのだろう。
それは、下記のように法令・規制要求事項への対応を求めていることがわかる。

《5.1 経営者のコミットメント 2008年度版》
トップマネジメントは、品質マネジメントシステムの構築及び実施、並びにその湯構成を継続的に改善することに対するコミットメントの証拠を、次の時効によって示さなければならない。
a) 法令・規制要求事項を満たすことは当然のこととして、顧客要求事項を満たすことの重要性を組織内に周知する。

と言う「当然として」という文言は、2015年版からは消えている。
では、どのような言葉になったかと云えば下記のようになっている。

《5.1.2 顧客重視》
トップマネジメントは、次の事項を確実にすることによって、顧客重視に関するリーダーシップ及びコミットメントを実証しなければならない。
a) 顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を明確にし、理解し、一貫してそれを満たしている。

■対象となる法令・規制要求事項

では、どのような範囲の法令・規制要求に対応すべきなのだろうか。
それは、品質マネジメントシステムが要求している項番との対比で考える方が良いだろう。

実際にあったことから引用する。

●揮発性溶媒の管理
揮発性有機化合物と言われるものは、例えば塗装や金属加工の戦場などに使われることがある。人体に影響もあることから、各種の法律に制限が記載されている。
例えば、大気汚染防止法、水質汚濁防止法、土壌汚染対策法などがある。
また、そこで働く人のことを考えた場合、過度な臭気は健康を害しかねない。
個々の法律への準拠は環境マネジメントで取り扱うかもしれないが、下記の規格項番への配慮も必要である。

《7.1.4 プロセスの運用に関する環境》
組織は,プロセスの運用に必要な環境,並びに製品及びサービスの適合を達成するために必要な環境を明確にし,提供し,維持しなければならない。

注記 適切な環境は,次のような人的及び物理的要因の組合せであり得る。
a) 社会的要因(例えば、非差別的,平穏,非対立的)
b) 心理的要因(例えば、ストレス軽減,燃え尽き症候群防止,心のケア)
c) 物理的要因(例えば、気温,熱,湿度,光,気流,衛生状態,騒音)
これらの要因は,提供する製品及びサービスによって,大いに異なり得る。

また、こうした揮発性有機化合物の取り扱いについては有資格者を求めている場合がある。
下記の項番にも配慮が必要である。

《7.2力量》
組織は,次の事項を行わなければならない。
a)  品質マネジメントシステムのパフォーマンスと有効性に影響を与える業務をその管理下で行う人(又は人々)に必要な力量を明確にする。
b) 適切な教育,訓練又は経験に基づいて,それらの人々が力量を備えていることを確実にする。
c) 該当する場合には,必ず,必要な力量を身に付けるための処置をとり,とった処置の有効性を評価する。
d) 力量の証拠として,適切な文書化した情報を保持する。

注記 適用される処置には,例えば,現在雇用している人々に対する,教育訓練の提供,指導の実施,配置転換の実施などがあり,また,力量を備えた人々の雇用,そうした人々との契約締結などもあり得る。
組織は,品質マネジメントシステムの効果的な実施,並びにそのプロセスの運用及び管理のために必要な人々を明確にし,提供しなければならない。

●工場での様々なこと
◇フォークリフトのヘルメット着用や速度制限。
工場については、フォークリフトを扱い所も多いのだが、前方不注意での自己のリスクや、高所作業も伴うための安全管理としてのヘルメットへの配慮も必要になる。
フォークリフトのヘルメット着用は組織側が決めることではあるが、働く人の安全管理にも配慮はほしい。

◇クレーンのベルトの劣化
工場では重量のあるものをクレーンなどで移動させる場合がある。その際に使用するベルトの劣化や危機の不調は作業員の命にかかわる。

◇工場の劣化など
東日本大震災の直後に工場を審査したときに、壁面の亀裂、屋根の崩落の危険性などを感じる工場があった。建築基準法などに抵触しないのかと感じた。

ハードウエアが関連する環境は整備しておく必要がある。
下記の項番に注意されたい。

《7.1.3 インフラストラクチャ》
組織は,プロセスの運用に必要なインフラストラクチャ、並びに製品及びサービスの適合を達成するために必要なインフラストラクチャを明確にし,提供し,維持しなければならない。

注記 インフラストラクチャには,次の事項が含まれ得る。
a) 建物及び関連するユーティリティ
b) 設備。これにはハードウェア及びソフトウェアを含む。
c) 輸送のための資源
d) 情報通信技術

●価格だけで購買品を使うときのリスク
外部から部品を調達する場合には、えてして価格だけで決めてしまう場合がある。
私自身が直接経験したことではないが下記のことを伝聞で聞いたことがある。
・中国に樹脂を発注し品番は合っているので受け入れたが模造品というか粗悪品だった
・製品面では問題なく受け入れたが、他社からの横流し品だった
購買先にあっても法令・規制要求事項を求めることが求められていると考えるべきだろう。
下記の項番に注意されたい。

《8.4.2 管理の方式及び程度》
組織は,外部から提供されるプロセス,製品及びサービスが,顧客に一貫して適合した製品及びサービスを引き渡す組織の能力に悪影響を及ぼさないことを確実にしなければならない。
組織は、次の事項を行わなければならない。
a)外部から提供されるプロセスを,組織の品質マネジメントシステムの管理の範囲下にとどめることを確実にする。
b)外部提供者に適用するための管理,及びそのアウトプットに適用するための管理の両方を定める。
c)次の事項を考慮に入れる。
1)外部から提供されるプロセス,製品及びサービスが,顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を一貫して満たす組織の能力に与える潜在的な影響
2)外部提供者によって適用される管理の有効性
d)外部から提供されるプロセス,製品及びサービスが要求事項を満たすことを確実にするために必要な検証又はその他の活動を明確にする。

●下請法はどう考える
さて、外部提供者との良好な関係性を維持することは目に見えない品質保証の支援となりうる。
下請けに対する適法性の担保は常に云われており、昨年の消費税アップの時には、その差分を下請け業者に転嫁してはならない旨が通達されていた。
適正な利益を下請けに提供しなければ、突然の廃業がありうる。それまで築きあげてきたノウハウなども無駄になり得る。
下請法を遵守することは直接項番には係わらないが、配慮は必要になる。

参考コラム:8.4.5 外部提供者に対する情報 「相互作用?」

●日産の問題

日産のお偉いさんは「なかったこと」にしたいかもしれないが、QMSに係わるものとしては看過できない事件としてまだ記憶に残っている。
備忘録的に残しておく。

https://www.asahi.com/articles/ASL794GKCL79UTIL01G.html

日産、新車の排ガス検査で不正 複数工場で測定値改ざん 2018年7月9日

日産自動車の複数の工場で、新車の出荷前に行う排ガス性能の検査結果を、都合よく改ざんする不正が行われていたことがわかった。この検査は昨年、無資格者の従事が発覚した「完成検査」の工程のひとつで、日産の品質管理への姿勢が改めて厳しく問われることになりそうだ。

関係者によると、今回不正が発覚したのは、出荷前に車の性能をチェックする「完成検査」の中で、数百台から数千台に1台の割合で車を選んで実施する「抜き取り検査」という工程。そこで行われる排ガス性能の測定で、思わしくない結果が出た場合、都合のいい数値に書き換える不正が国内の複数の工場で行われていたという。今春以降に社内で発覚したという。

この検査は、メーカーが車を量産する際、国に届け出た設計上の性能通りにつくられているか確かめる重要なもの。メーカーは適正な実施を前提に、車の量産を国から認められている。測定値が設計上の性能からずれていれば、出荷ができなくなることもある。

日産では昨年9月、完成検査を実際は無資格の従業員が担ったのに、有資格者が行ったように偽装する問題が発覚。検査体制を改善するため、全6工場の出荷を1カ月弱停止し、生産や販売に影響が出た。一連の不正に絡み、国土交通省からは2度の業務改善指示を受け、今年3月には西川広人社長が石井啓一国交相に直接、「法令順守をさらに徹底していく」と、再発防止を誓ったばかりだった。

同様に無資格者による検査が発覚し、その後、排ガスデータの不正も明るみに出たスバルでは、責任を取る形で吉永泰之社長(当時)が6月の株主総会で社長を退いた。新たに不正が明らかになった日産でも、西川社長の経営責任が改めて厳しく問われることになりそうだ。(伊藤嘉孝、木村聡史)

(上記記事から そのまま引用)

規格には「8.5 製造及びサービス提供」として、以下の細分された項番がある。
・8.5.1 製造及びサービス提供の管理
・8.5.2 識別及びトレーサビリティ
・8.5.3 顧客又は外部提供者の所有物
・8.5.4 保存
・8.5.5 引き渡し後の活動
・8.5.6 変更の管理

さらに
・8.6 製品及びサービスのリリース
・8.7 不適合なアウトプットの管理

一部、関係性の薄い項番もあるが、多くは製品に対する信頼性を損なう事項となっている。

注意が必要なのは、審査において不適合は「知らない」もしくは「能力がない」などで十分対応できていない場合を想定しており、いわゆる不可抗力だ。したがって、そもそも「法律無視」は想定していない。また、長年続いていたことから「組織ぐるみ」であり、従って「内部監査」も機能していない。

社会がどう見るかを考えるべきだろう。

●倒産のリスク

現在、QMSの審査では「パフォーマンス」もしくは「有効性」という言葉を使っている。あるいは「経営に資する」という標語も使っている。審査員としては、規格項番にないからと言って直接「法令遵守」を軽んじても善い理由にはならない。

参考にコンプライアンス違反の伴う倒産の情報を下記に示すので参考にしたい。

https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p180405.html

2017年度 コンプライアンス違反企業の倒産動向調査
コンプラ違反倒産は6年連続200件台
~ 負債上位20社中14社が「粉飾」 ~

調査結果
1 2017年度の倒産は231件判明。前年度比7.6%減だが6年連続で200件台
2 違反類別型では「粉飾」が72件で最多。負債上位20社中14社が「粉飾」と多数を占めた
3 主な倒産事例は、建機の不正取引を行っていた「PROEARTH」、被害者から詐欺で告訴された「ゴルフスタジアム」等

以上

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