戦略人事:人材投資に無頓着な人々(本部だけを最適化しても仕方が無い)


■人事部だけの問題ではない

伊藤レポートなどを読むと、経営者の悩みとして「人事部門が戦略的な思考を持って欲しい」という主旨の記述がある。経営活動を支える重要なパーツとして「ヒト」があり、これを扱う部門が戦略的である必要は当然であろう。
しかし、こうしたヒトの問題を人事部門だけの問題として扱うのは間違っている。なぜならば、組織活動に必要な人材は、単に募集をしたからと言って集まる時代でない以上、そうした高度な人材を集める戦略を立てることは人事部門だとしても、その環境を作るのは経営者の責務である。
2024年春の春闘に向けては賃金上昇の話題にこと欠かない。多くの企業が賃金上昇を余儀なくされているのは単純に人手不足であるからである。ボリュームゾーンの大卒が少ない。少子化の影響が大きく出ている。それに加え、現代的な技術(ICT、AIなど)に対応できる人材が少ないことも影響している。

■カプコンショック

2024年2月の当初の趨勢では、昨年の賃上げ率では物価上昇に追いつけないと云うことで、5%前後、初任給で22万円、来年で26万円という相場観であったが、ここに来て状況が変わった。

○カプコン、初任給30万円
2024年03月06日

 カプコンは6日、2025年4月に入社する社員の初任給を6万5000円引き上げ、30万円にすると発表した。ゲーム業界は人材の獲得競争が激しく、待遇を改善して優秀な若手社員の確保を狙う。
初任給は大卒、大学院修了、専門学校卒を問わず、同額を支給する。今年4月入社の社員や、在籍している社員には特別一時金を支給するほか、平均5%以上の昇給を実施する方針。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2024030601172

このままでは、IT人材を買い負けると言う危機感はおそらくは他社でも醸成されていたのであろう。カプコンほどではなにしても、特定技能を有している人材は厚遇しようという動きが出ている。

○KDDI、従業員の給与を1.4万円賃上げ 一時金12万円も支給 新卒初任給はスキルに応じて最大34万円に
2024.3.7

KDDIは、KDDI版ジョブ型人事制度の取り組みの一環として人財の成長を加速させるため、KDDI従業員に対する定期昇給・月例賃金改善1.4万円・一時金12万円支給を通じて、平均6%の賃上げを実施すると発表した。

今回のスキル要件の追加は、大学での豊富な研究経験やKDDIが定める専門領域定義書に従った資格を有する専門性の高い人財を継続的に確保することが狙いだという。

KDDI、従業員の給与を1.4万円賃上げ 一時金12万円も支給 新卒初任給はスキルに応じて最大34万円に

上記には「KDDI版ジョブ型人事制度」という言葉が出てくる。中身については詳細が分からないが、少なくとも「職種」により賃金カーブが変わると云うことは想定できる。新入社員については一定のバンド幅に収るだろうが、経験を積むに従って個人別の給与水準の設定メカニズムが人事制度に組み込まれることになるだろう。

■人材投資を怠る人々

さて、こうした「会社の活動に必要な人々を特定し調達できるように資金を提供すること」は組織を率いるトップの責任である。「集めてこいと云って、集めてこれるならトップは要らない。いや「集めてこい」と云うだけましかもしれない。

反面教師としてデジタル庁がある。デジタル庁の最初のトップが何を考えていたかはもう知るよしもないが、少なくとも「IT人材」を集めることはしたと思う。実際、最初のことのドキュメントでは「要件定義の仕方」などを発信しており、その内容はまっとうなものである。しかし、致命的な欠陥がある。それは自治体にはデジタル人材がいないと云うことである。

中央官庁がいくらかけ声をあげようが、人材がいない中でのDXができるはずもない。
下記はそれを表している。

○171自治体、標準化間に合わず 基幹業務システム、政府目標年度
2024/03/05

自治体の基幹業務に使う情報システムの標準仕様への移行について、デジタル庁は5日、政府が目標に掲げる2025年度末までの期限に、全体の1割に当たる171自治体が間に合わない見込みだとの調査結果を発表した。都道府県では埼玉、大阪、鳥取、愛媛、長崎、大分の1府5県、政令指定都市は全20市が該当した。

調査は昨年10月、全都道府県と全1741市区町村を対象に行い、その後、状況を聞き取った。他にも間に合うかどうかの判定が保留されている自治体があり、さらに増える可能性がある。いつまでに移行できるか確認を進める。

理由には「独自に開発したシステムを使っているため標準仕様への移行は難しい」「システム移行を担当してくれる業者が見つからない」などが挙がった。

システム標準化は国が定める仕様に全自治体がそろえることによるコスト削減などが狙い。しかし、全国の自治体が一斉に進めていて、業者の対応が追い付いていない。自治体側のIT人材の不足もあり、期限に間に合わないとの声が上がっていた。

https://nordot.app/1137540312773460683

笑ってばかりもいられない。

現在の企業のデジタル化を拒んでいるのは企業内のIT人材の不足である。また、例えば工場を多く持つ企業であっても、工場毎にIT人材が全くいなければ,状況は同じである。なぜならば、本社からのデジタル化の要請が理解できず、従って応えることができないからである。

こうした状況を打破するためには、多くのデジタル人材が必要であり、教育とともに調達、処遇などへの投資をしなければならない。

勘違いしないで欲しい。投資である。人件費をコストとしか見ていない経営者が生き残る術はない。

(2024/03/11)