世間に転がる意味不明:人材の選別化の恐怖(賃金上昇に浮かれる人々)

ちょっと長いよ


■浮かれる賃金上昇のニュース

2024年3月、賃金アップのニュースで浮き足立つ様子がうかがえる。

○大手企業、2年連続大幅賃上げ 自動車、電機で満額回答相次ぐ―日鉄はベア要求超え・24年春闘
2024年03月13日

 2024年春闘は13日、大手企業の回答が出そろった。トヨタ自動車と日産自動車は労働組合の要求に対し満額回答。日立製作所などの電機大手もベースアップ(ベア)で満額回答した。日本製鉄は要求を超える異例の展開となった。物価高や人手不足を背景とした組合側の前年を上回る要求に対し、経営側も2年連続の大幅賃上げで応じた形だ。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2024031300123

2024年の年初では昨年の賃上げ率3.6%越えで5%前後という報道が主流を占めていたはずである。それが少しづつ状況も変わり、3月末では6%の声を聞くようになった。それがここに来て潮目が変わった。

一つは、実質賃金が下がっており従来の水準の賃上げでは不十分だという認識が広まったのが一つだろう。(附則資料 ■実質賃金に関する資料 参照)

こうした状況下で賃金を配慮するという戦略しか選択肢がなくなってきたのではないだろうか。

○「賃金は上げざるを得ない」春闘、連合栃木の吉成剛会長に聞く
2024年3月7日

 「県内の中小企業家同友会や経営者協会、経済同友会などを回ったら、人手不足で賃金はもう上げざるを得ない、と言っていた。だが、決して利益が出たからではなく、(高騰する原材料費などの)価格転嫁もなかなかできないと話していた」

「デフレマインドでずっときて『安い日本』になりさがった。みんなで賃上げし、このステージを変えようというのが私たちの目標。要求段階で5%以上でなければ、(連合の集計によると、昨年の春闘の賃上げ率は平均3・58%だったので)5%にならない」

https://www.asahi.com/articles/ASS366T2RS33UUHB00K.html

またカプコンが極端な賃金戦略を出したのも大きい。

○カプコン、初任給30万円に 人材確保へ大幅増額
2024/03/06

カプコンは6日、2025年度の新卒社員から、初任給を6万5千円増額し30万円に引き上げると発表した。ゲーム業界は有能なクリエーターの獲得競争が激しく、初任給の引き上げで人材確保につなげる。

大卒や大学院修了、専門学校卒などの新入社員が対象で、引き上げは一律。初任給の改定は22年度以来で、時間外勤務手当や通勤手当は別途支給する。

カプコンは在籍中の正社員約3千人についても、24年度の年収を平均5%引き上げる予定で、特別一時金を支給することも明らかにした。

https://nordot.app/1138029117277225399

これを受けただろうか、様々な「賃金アップ」のニュースが流れている。
(附則資料 ■実質賃金に関する資料 参照)

■人材の選別

しかし、こうした記事の裏側にも配慮は必要だろう。
たとえば、下記の記事をどう読むのか?

○KDDI、従業員の給与を1.4万円賃上げ 一時金12万円も支給 新卒初任給はスキルに応じて最大34万円に
2024.3.7

KDDIは、KDDI版ジョブ型人事制度の取り組みの一環として人財の成長を加速させるため、KDDI従業員に対する定期昇給・月例賃金改善1.4万円・一時金12万円支給を通じて、平均6%の賃上げを実施すると発表した。

KDDI、従業員の給与を1.4万円賃上げ 一時金12万円も支給 新卒初任給はスキルに応じて最大34万円に

この記事の中には
「今回のスキル要件の追加は、大学での豊富な研究経験やKDDIが定める専門領域定義書に従った資格を有する専門性の高い人財を継続的に確保することが狙いだ」という。
記載がある。

これは裏を返せば「専門性の高い人財」以外は必要ないと云っているに等しい。
あまり報道はされていないが、人手不足だと言いながら業績に関わりなく人員削減をしている企業が目につく。それは下記の報道でも指摘されており、おそらくはこの認識は正しい。(附則資料 ■リストラに関する記事 参照)

○オムロン、ワコール…株価最高値更新でも需要回復進まず老舗が人員削減 一方で好業績企業もリストラ
2024/3/1

日経平均株価が史上最高値を更新する一方で、日本企業が業績不振などを背景に希望退職を募集するケースが相次いでいる。直近1週間だけでもオムロンや資生堂、ゲーム事業を手がけるソニーグループ子会社など、大手が大規模な人員削減を発表した。株価の高値更新を日本経済が回復する兆しと見る向きもあるが、製造業を中心に需要の回復が進んでいない状態だ。一方で、好業績でも早期退職を募る企業も増えている。背景にはグローバル化やデジタル化への対応を急がなければならない事情があり、雇用の流動化が加速している。

https://www.iza.ne.jp/article/20240301-XZDKCYUCPZJWPCCAMAMUSYNDL4/

■準備すべきこと

脳天気に10%昇給するなどと喜んではいけない。仮に企業側が余力があったものを出していないのだとしたら不誠実である。また余力が無い中で出しているならそこはどこから補てんするかと云えば生産性の低い人たちのリストラである。10%の昇給原資は10%に相当する人員の削減である。

40歳以上のヒトはいつ早期退職の対象になるか分からない。できることは限られるかもしれないが再就職先を考えておく必要がある。

40歳未満のヒトは自分自身の市場価値を把握して不足分があれば技術や知識、できれば経験を増やすことである。専門性にこだわらなくとも良い。「仕事を任せられる」素地を作り上げることである。リスキルが意味を持つのは30歳ぐらいまでである。

高校生の皆に。
自分が何を土台にして生きてゆくのかを考えること。目先の技術だけでなく未来を見据える力を持つこと。他者に引きずられないように自我を磨くこと。多くの知識に接すること。未来は誰にも分からないが選択は自分でできることを忘れてはならない。

閑話休題
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(附則資料)
上記に関連したニュースや記事などを掲載する。いずれもリンクなどを記載していないので個別の参照は自分で行なってください。

■実質賃金に関する資料

○1月の実質賃金0・6%減、22か月連続で減少…名目賃金は2%増の28万2270円
2024/03/07

厚生労働省は7日午前、1月の毎月勤労統計調査(速報)を発表した。労働者1人あたりの平均賃金を示す現金給与総額(名目賃金)に物価変動を反映させた実質賃金は前年同月比0・6%減で、22か月連続の減少となったが、減少率は前月より縮小した。

https://www.yomiuri.co.jp/economy/20240307-OYT1T50051/

○1月の実質賃金 前年同月比で0.6%減少 22か月連続のマイナス
2024年3月7日

実質賃金の減少率は直近の数か月に比べて小さくなりましたが、依然として物価の上昇に賃金の伸びが追いつかず実質賃金がマイナスの状況が続いています。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240307/k10014381431000.html

○毎月勤労統計調査 令和6年1月分結果速報(厚労省)
2024.03.07

(前年同月と比較して)
○現金給与総額は282,270円(2.0%増)となった。うち一般労働者が369,239円(2.3%増)、パートタイム労働者が101,358円(2.2%増)となり、パートタイム労働者比率が32.45%(0.37ポイント上昇)となった。
なお、一般労働者の所定内給与は324,471円(1.6%増)、パートタイム労働者の時間当たり給与は1,329円(3.7%増)となった。

○共通事業所による現金給与総額は2.0%増となった。
うち一般労働者が2.0%増、パートタイム労働者が3.3%増となった。

○就業形態計の所定外労働時間は9.4時間(3.0%減)となった。

https://www.rodo.co.jp/column/174057/

 

■賃上げに関するニュース(ちょっと長いよ。様々な業界に波及していることに注意)

○【カプコン】初任給30万円に引き上げ決定 大学院卒も専門学校卒も一律アップ 2025年度から
2024/03/06

カプコンの発表によりますと、現在の初任給は23.5万円ですが、6.5万円増の30万円にするということです。また、大学院卒も専門学校卒も一律のアップだということです。

理由について同社は、「世界最高品質のゲームを生み出す開発力・技術力」の強化に重点をおき、初任給を引き上げることで、優秀な人材を獲得し、人への投資を推し進めたいとしています。

また、初任給引き上げの決定に合わせて、在籍中の正社員には一時金を支給、来年度は平均5%を超える昇給を予定しているということです。

https://www.mbs.jp/news/kansainews/20240306/GE00055934.shtml

○芝浦機械、賃上げ要求に満額回答 ベアは1万2000円―24年春闘
2024年03月07日

芝浦機械は7日、2024年春闘で労働組合の要求に満額回答したと発表した。賃上げ総額は1人平均月額1万7500円(賃上げ率6.1%)で、このうち基本給を底上げするベースアップ(ベア)に当たる賃金改善分は1万2000円(同4.2%)。定期昇給分は5500円となる。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2024030700854

○エア・ウォーター、6%賃上げ 大卒初任給は月26万円に
2024年03月05日

エア・ウォーターは5日、基本給を底上げするベースアップ(ベア)を含む平均6%以上の賃上げを4月から実施すると発表した。2年連続で同水準の賃上げとなる。大卒初任給は現行より約13%増の月26万円まで引き上げる。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2024030500904

○吉野家、平均8.91%の賃上げ 大卒の初任給は23万2500円に
2024-03-06

物価高騰に対する社員の生活水準の向上および従業員確保のためで、吉野家HDと吉野家に在籍する正社員が対象。労使協議及び賃金規程見直しにより、平均8.91%の賃金引き上げを行うほか、大学卒の初任給は現行の21万7729円から1万4771円引き上げ、23万2500円とする。

https://www.oricon.co.jp/news/2317256/full/

○吉野家HD、賃上げ8.91% 人材確保狙い
2024年03月06日

吉野家ホールディングス(HD)は6日、同社と傘下の吉野家(東京)の正社員計791人を対象に、定期昇給や手当見直しなどで平均8.91%の賃上げを実施すると発表した。物価高騰が続く中、従業員の生活水準向上につなげるとともに人材を確保する狙い。

大卒初任給も今春から1万4771円引き上げ、23万2500円にする。吉野家は東京など1都3県で牛丼チェーンを展開する子会社で、関西吉野家(大阪市)など他の子会社は労使交渉を続けているという。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2024030601088

○東ガス、初任給4万円上げ
2024年03月06日

東京ガスは6日、新卒社員の初任給を4月から4万円引き上げると発表した。大卒は26万円、大学院卒は28万5000円とする。優秀な人材の確保につなげる狙いがあり、引き上げは2年連続。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2024030601068

○スズキ、人事制度を刷新 2024年4月から新卒初任給12.0%〜14.1%引き上げ
2024年3月8日

スズキは3月8日、2024年4月から人事制度を全面的に刷新すると発表した。2024年4月以降の新卒初任給の引き上げなど、「職能資格制度の導入」「評価制度の見直し」「60歳以降の働き方の見直し」「給与・手当・初任給の見直し」といった制度改革が実施される。

新卒初任給の引き上げでは、大学院卒で現行の24万2000円から27万3000円へ、大学卒で22万円から25万1000円へ、高校卒で17万9500円から20万1000円へと、それぞれ12.0%〜14.1%引き上げられる。

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1574797.html

○スズキ、初任給25万1千円に 4月から増額、トヨタ上回る
2024/03/08

スズキは8日、新入社員の初任給を4月から引き上げると発表した。大卒は現行の22万円から25万1千円へ増額する。引き上げ率は14.1%で、増額後はトヨタ自動車の大卒初任給の22万8千円を上回る。待遇を改善し、優秀な人材の獲得につなげる。

院卒は現行の24万2千円から27万3千円に、高卒は17万9500円から20万1千円にそれぞれ引き上げる。

初任給引き上げを含め、4月から人事制度を刷新する。60歳の定年後に再雇用する従業員は、体力などに問題なければ、それまでの給与や業務内容を維持する。従来は再雇用で給与が下がっていた。

https://nordot.app/1138675912671855143

○HIS、正社員・契約社員の給与を平均4.3%賃上げへ 新卒初任給は一律15,000円引き上げ 60歳以上の選択的週休3日制も導入
2024.3.11

HISは、正社員・契約社員を対象に、定期昇給とベースアップあわせた平均賃上げ率4.3%の給与改定を実施。新型コロナウイルス感染症の5類引き下げによる旅行需要の回復を受け、業績が大きく上向いていることから、近年の物価上昇への対応と中長期的な人財の確保を目指して賃上げの実施を決定。

HIS、正社員・契約社員の給与を平均4.3%賃上げへ 新卒初任給は一律15,000円引き上げ 60歳以上の選択的週休3日制も導入

○セコム警備員賃上げ、最大10% 「手厚く配分」
2024/03/12

セコムは12日、2024年春闘で、警備員の賃金を8~10%引き上げることで労働組合と妥結したと明らかにした。対象の警備員は組合員約1万4千人の約半数。「士気向上と採用強化のために手厚く配分する」と説明した。組合員全体の平均賃上げ率は6.3%。賃上げには基本給を底上げするベースアップ(ベア)や定期昇給、手当が含まれる。

https://nordot.app/1140108602546356821

○ANA、初任給最大1.6万円引き上げ 4月入社から、大卒CAは21万円
2024年3月12日

ANAホールディングス(ANAHD、9202)傘下の全日本空輸(ANA/NH)は3月12日、今年4月以降の新卒社員の初任給を引き上げると発表した。2023年4月に続く2年連続の措置で、採用競争力を高める。引き上げ幅がもっとも大きい客室乗務員は1万6000円で、4年制大学卒の初任給は21万221円、引き上げ率は8.2%となる。そのほかの職種も1万1000円引き上げる。

https://www.aviationwire.jp/archives/296336

 

■リストラに関する記事

○24年の早期退職、既に23年超え 構造改革で雇用流動化
2024年3月6日

上場企業の早期退職の募集人数が2024年2月末時点で、23年通年を1割上回り3600人に達したことが分かった。インフレで持続的な賃上げが求められる中、企業は事業収益に合わせて雇用人員を適正化している。資生堂は19年ぶりに大規模な早期退職に動く。対象年齢を定めず若い世代を含めた募集も多く、日本企業で構造改革に伴う雇用流動化が本格化してきた。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC052SY0V00C24A3000000/

○フィデリティ、世界で1000人削減へ-経済環境に合わせ方針見直し
2024年3月6日

厳しさを増す経済環境に合わせ、全ての事業ラインや地域で年内に人員の約9%を削減する。

同社の広報担当者は「一部の非中核プロジェクトで投資の優先順位を見直していく。予定されていた計画の見合わせや、環境の変化に合わせたアプローチ転換が含まれる」と電子メールで発表した。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-03-06/S9XJBQDWX2PS00

○黒字なのに!? 上場企業の早期退職募集人員、2月時点で去年1年間を上回る!
3/6, 2024

上場企業の早期退職の募集人数が2024年2月末時点で、23年通年を1割上回り3600人に達したことが分かった。インフレで持続的な賃上げが求められる中、企業は事業収益に合わせて雇用人員を適正化している。東京商工リサーチの集計によると、上場企業が24年2月末までに募集した早期・希望退職者は応募人数含めて14社の計3613人だった。23年通年は41社の3161人で、わずか2カ月で超えた。募集人数規模でみると、23年は100~299人が最多で22%を占め、1000人以上の募集はゼロだったが、24年はすでに1000人以上の募集が2社となった。大企業による構造改革を伴う大規模募集が増える。
資生堂は2月末に国内事業を手掛ける子会社の資生堂ジャパンで、およそ1500人を募集することを明らかにした。1000人規模で募集した05年以来の大規模な動きになる。

https://www.joqr.co.jp/qr/article/117628

○ルネサスが春の定期昇給を半年延期 投資を優先、経営は最高益だがリストラも
2024/3/11

半導体大手ルネサスエレクトロニクスが例年なら春に実施の定期昇給を半年延期することが11日分かった。国内外で限定的な人員削減も実施する。半導体市況の軟化を踏まえ、将来の投資や事業の優先順位を精査したためと説明している。経営は最高益を上げており、半導体は競争が激しく巨額の投資が必要なものの、現場の従業員の不満が高まる可能性もある。

https://www.sankei.com/article/20240311-2KJOQLT6HFOMZPIOTRIBEWWYZU/

以上