本棚を歩く:「複合不況」(マイナス金利の解除)


■複合不況

「宮崎義一著 複合不況」(中公新書)は、1992年初版の著作であり、副題に「ポスト・バブルの処方箋を求めて」とあるように、「1980年代半ば以降、世界の先進国において同時多発的に起きているバブル現象の背景を明らかにし、とくに日本におけるバブル発生と崩壊のメカニズムについて実証的に分析することを目的」とし、具体的なデータを元に無いが起きていたのかを読み解いている。

理論経済学である著者の解説は,残念ながら、その経済学的な基礎知識が無い中では消化しきれない。それでも、下記の論点は当然の帰結として納得感がある。

・アメリカ経済も日本経済も、いずれも1980年代半ばより、金融の自由化・国際化のあたらしい経済的枠組みに徐々に移行していった。・・・バブルの崩壊も、金融自由化・国際化という新しいフレーム・ワークへの移行によって不可避的に生じる調整過程あるいは再編成過程であり、金融自由化の帰結に他ならない。

・アメリカと日本とを襲っているマイナス成長は、いずれも金融自由化の帰結としての調整過程(金融債編成過程)と、バブル崩壊から実体経済へ波及していった景気後退の複合的な不況の構造である。

・しかし、金融自由化の帰結としてのストック・フローの調整過程(複合不況)は、一国経済の枠組みを前提とする(一国)の中央銀行の金融政策にのみによっては到底回避することのできない厄介な経済的困難である。

こうした論の詳細については本書を読んでほしい。分からないなりにも現在の世界の状況理解するには役に立つだろう。

こうしたことの帰結として、かつての閉じられた経済圏での理論、たとえばケインズなどの考え方をそのまま踏襲することもできないのであるならば、開かれた経済圏を対象としての経済学が必要である。

■浮かれる日本経済

○日経平均株価、終値も4万円台 史上初
2024年3月4日

4日の東京株式市場で日経平均株価が続伸し、終値は前週末比198円41銭(0.5%)高の4万0109円23銭で終え、史上初の4万円台に乗せた。午前には上げ幅が400円を超え一時4万0300円台をつけた。前週末の米ハイテク株高を背景に、東京市場でも生成AI(人工知能)ブームに乗る半導体関連の銘柄が上昇をけん引した。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB044JX0U4A300C2000000/

こうした株高に関してアナリストは「バブル期とは異なる」といい「節目の4万円台に乗せて利益確定の売りは断続的に出るが、上昇トレンドは継続する」としている。

長期的に見て、彼らの予想が当たらないことはバブル期の時に実証済みである。

確かに,現在は「金融の自由化」などの要因はない。しかし本来別々のトレンドになるはずの金融経済と実体経済が不足の連動をすることはバブル期の事象で分かっている。予期せぬことで金融経済が混乱をきたせば実体経済が危うい。

しかも、実体的なことは何も変わらないのに賃上げに揺れている。

○春闘の賃上げ5・28%、33年ぶり5%超…中小企業は4・42%
2024/03/15

 組合員数300人未満の中小企業の賃上げ率(358労組)は4・42%となり、全体を下回った。中小企業では今後、組合と会社側の交渉が本格化する。深刻な人手不足などを背景に、大手企業では組合の要求を超える回答や満額回答が相次いでいる。

https://www.yomiuri.co.jp/economy/20240315-OYT1T50191/

そしてこれを受けて日銀が進めていたマイナス金利の解除が宣言され、当面の金融緩和策が続くことで円安・株高が維持されている。

○日銀17年ぶりの利上げ マイナス金利を解除 YCC・ETF買い入れも終了 日銀「マイナス金利など役割果たした」 円安1ドル=150円台に 日経平均4万円超
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1062223?display=1

賃上げと物価上昇の良い連動と云うがとてもそうは見えない。
賃上げは人手不足からのパニックであることも見逃せない。
こうした都合の良い予測はバブルの時と同じである。

■世界の動向

本著書の冒頭で「要するに1990年の日本経済は、“波瀾万丈の一年”であって、有力なエコノミストたちの予想のほとんどを大きく裏切ったのである」とある。しかし、現在手に入る情報だけでは先を予測することが難しいことは認めるものの、現状を無視しても良いと言うことにはならないだろう。なぜならば、彼らがそう信じる理由があるからであり、それを分析することで今後の処方箋を描くことができるからである。

そうした意味で、世界は「景気動向」をどう見ているかは興味深い。

○2024年のGDP成長率は2.7%へ減速、地政学リスクで不確実性増す、OECD見通し (世界)
調査部国際経済課
2023年12月01日

OECDは11月29日、最新の「世界経済見通し外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を発表し、2023年の世界経済の成長率(実質GDP伸び率)を2.9%、2024年は2.7%と予測した。前回の9月予測と比較して、2023年は0.1ポイントの下方修正、2024年は据え置いた

OECDは、経済は予想に反して底堅さを示したと評しつつも、「金融引き締め、貿易の低迷、景況感・消費者信頼感の低下の影響が顕在化し、世界の経済成長率は小幅にとどまる」とした。世界の経済成長率は2024年前半まで低迷した後に緩やかに回復するとし、2025年は3.0%と予測した。

https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/12/05372217df5743b1.html

○インフレ率の鈍化と安定的な成長 ソフトランディングへの道開ける
2024年1月
世界経済の成長率予測

ディスインフレと着実な成長に伴い、ハードランディング(強行着陸)となる可能性が低下し、世界経済成長に対するリスクは概ね均衡がとれている。上振れリスクとしては、ディスインフレの加速が金融環境のさらなる緩和につながる可能性がある。財政政策を必要以上に、また予測における想定以上に緩和すれば一時的により高い成長を実現し得るが、その後の調整コストが増大するリスクがある。構造改革の勢いが強まれば、生産性が上がり、国境を越えてプラスの波及効果が見られる可能性がある。下振れリスクとしては、紅海における攻撃が続くことなどの地政学的ショックや、供給の混乱によって一次産品価格が再度高騰したり、基調的なインフレが根強かったりすれば、金融政策の引き締めが長期化する可能性がある。中国における不動産部門の低迷の深刻化や、増税・歳出削減へ混乱を招くような転換も期待外れの成長をもたらしかねない。

https://www.imf.org/ja/Publications/WEO/Issues/2024/01/30/world-economic-outlook-update-january-2024

おそらくは、地政学的なリスクや各国の金融政策の変更はあるもののダイナミックな変化はなく、大きな成長も混乱もないと読んでいるのだろう。

ケインズが前提とした一国経済が通用することはなく、金融自由化の影響も落ち着いてきたと云うことか。部分の混乱はあるかもしれないが全体の混乱は無いと見ているのだろう。

再び、この著書が読み返される日が来るのか分からない。

未来はわからないと云うことだけは分かる。

(2024/03/20)