世間に転がる意味不明:取り残される中小企業【6】取り残される人々(賃金以外のことで中小企業の経営者が考えるべきこと)


■組合も持てない中小企業

中小企業での賃上げの報道もある。

○中小賃上げ、初の7割超え 23年度、業績改善は進まず―日商調査
2024年03月29日

日本商工会議所は29日、全国の中小企業を対象にした賃金に関する調査結果を公表した。それによると、2023年度に所定内賃金の引き上げを実施した企業の割合は72.5%となり、前年度から11.0ポイント上昇。調査を開始した13年度以降で初めて7割の大台を超えた。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2024032900464

しかし、この数字には労働組合を持っていない中小企業は含まれていない恐れもある。なぜならば、日本商工会議所の調査である以上、会員が対象となるだろうが、それは限定された範囲であり、ここに参加している中小企業は全体の一部でしかない恐れがある。

労働組合の組織率も問題である。
厚生労働省の2022年「労働組合基礎調査」によると、労働組合に加入している人が雇用者に占める割合(推定組織率)は16.5%であるとされ、企業規模別にみると、1,000人以上規模が65.8%、300~999人規模が13.1%、100~299人規模が6.7%と言う数字から、ほとんどの中小企業は労働組合を持たず、当然組織率も低いことからまともに機能しているかは疑問である。

そうした中で、上記の様な賃上げの報道はごく一部であり、大部分は賃上げの原資がないのが実情であろう。それは、相変わらずの下請けに対する配慮のなさも原因の一つであると推測できる。

○日銀短観で「人手不足感」が強まった中小企業 経営者は嘆く「大企業が人件費の価格転嫁を認めない」
2024年4月2日

現時点では、中小を中心に価格転嫁が十分ではないとみられる。帝国データバンクが今年2月に行った調査では、自社商品・サービスでコスト上昇分を多少でも価格転嫁できている企業は75%に上る。だが100円のコスト上昇のうち、販売価格に転嫁できたのは40.6円分にとどまり、昨年7月(43.6円)からむしろ悪化している。
「景気自体は良くなっていると感じるが、(取引先の)一部の大企業は依然、人件費の価格転嫁を認めることに厳しい姿勢だ」と中小のサービス業経営者。大企業に比べ、賃金と物価の好循環から取り残される不安が強い。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/318705

■物価上昇で脅かされる労働者

日銀が「マイナス金利の解除」を決定した理由として「経済(物価上昇による企業収益の向上)と賃金上昇の好循環」を理由にしていたが、そんなことは嘘っぱちである。なぜならば、消費者物価指数は生鮮食品などは含まれず、これに左右される外食費などは除外されている。感覚としては、ここ数年で2倍にさえなっているのではないかと感じる。

消費者物価指数は2.8%で、日銀が目標としている2%を大幅に超えている。

○2月消費者物価2.8%上昇 伸び拡大、電気代抑制薄まる
2024年3月22日

総務省が22日発表した2月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が106.5となり、前年同月比で2.8%上昇した。伸び率は4カ月ぶりに拡大した。政府の電気・ガス代の抑制策が開始から1年がたち、統計上は前年比の物価上昇率を下げる効果が薄まった。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA213SN0R20C24A3000000/

こうしたことを裏付けるように「実質賃金」も下がり続けている。
それでも、福利厚生がある程度整備されている大企業であれば緩衝材があるだろうが中小企業ではそうは行かない。

生活に困窮する従業員が目の前で増えてゆくのを指をくわえてみているしかない経営者はほぞをかむ思いであろう。

■息の長い取り組みの挑戦

○中小の賃上げは「原資がどれだけあるかに尽きる」 小林健・東商会頭「価格転嫁をしっかりやろう」
2024年3月21日

 良い傾向だ。金融面の大きな変化はしばらくないというベース(前提)で言えば、賃上げの原資がどれくらいあるかに尽きる。(中小は)価格転嫁をしっかりやろう。大企業も下を向いてほしい。物価と賃金の好循環を回転させて、個人消費を増やし、GDP(国内総生産)を上げていく。日本経済を活性化していこう。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/316467

こうした報道があったとしても、容易に賃上げはできないだろう。
であれば、中小企業の経営者賃上げを目指してはならない。
目指すのは、安定した「成長」と「期待しても良い未来」である。

すなわち、○年後には
・売上規模を年率どの程度に増やすのか
・人はどの程度の人数にするのか
・事業ドメインはどのように拡大するのか
・賃金水準はどの程度を目指すのか
といったビジョンを描き、社員と共有することである。

当然すべきことの優先順位も気をつけなくではならない。文字通り、文脈を明らかにした戦略の策定が必要である。突然「初任給を5万円アップ」などと叫ぶことではない。

(2024/04/03)